このブログは,記憶再生マップの効果について,2021/12/11の1回目から,2022/8/1の10回目までの内容を時系列で整理したものです.
最初に,ブログの文章を生成AI(Bard)で要約しました.要約だけでも,ある程度分かるものもありますが,KH Coderによって分析した実際のデータ等をご覧になりたい方は,それぞれのリンクにお進みください.
なお,文中にある次の言語の意味をご確認下さい.
・箇条書き(a) ⇒ 単元の学習が終了してから,記憶想起のみで書かせる箇条書き.
・箇条書き(b) ⇒ 単元の学習が終了してから描かせた記憶再生マップを,別の時間に参照しながら書いた箇条書き.
記憶再生マップの効果①
【要約】
児童の学習理解度を測る方法として,教師が準備したテストやアンケートに加えて,児童が書いた表現物を用いる方法が有効である.テストやアンケートは,学習内容の一部を調査するのに適しているが,児童が深く記憶したことまでは分からない。また,児童の「分かった」という言葉は曖昧であるため,信頼性が低い.
一方,児童が書いた表現物は,記憶した内容や意味をそのまま書き出すため,児童が学習内容のどこに焦点化して記憶を形成したかが分かる.理想的な表現物は,児童が単元の学習をストーリー的に記述することである.一般的には,児童は授業の様々な場面を網羅して想起することが得意ではないため,箇条書きでまとめさせることが多い。箇条書きは,児童の思考が局所的であるため文章化しやすいメリットがある.
本論では,5年生の理科で台風と天気の変化について学習した児童の箇条書きを用いて,児童の学習理解度を測る方法について説明する.5年生の理科で台風と天気の変化について学習した児童の箇条書きを,学習直後と1か月後に比較した結果,1か月後の箇条書きの文字数がおよそ2倍になった.具体的には,学習直後の箇条書きは,全員(28名)の箇条書きを印刷するとA4用紙3.5枚分だったのに対し、1か月後の箇条書きは6.5枚分になった.
この結果から、児童は学習直後よりも1か月後の方が、学習内容をより深く理解し、記憶していることが示唆される.
記憶再生マップの効果②
【要約】
5年生の理科で台風と天気の変化について学習した児童の箇条書きを,学習直後と記憶再生マップを参照して書いた箇条書きで比較した結果,以下の違いが認められた.
- 学習直後の箇条書きでは,単語同士の共起関係が単純であった。一方,記憶再生マップを参照して書いた箇条書きでは,因果関係を含む複雑な共起関係が見られた.
- 具体的には,学習直後の箇条書きでは,台風の被害や気象現象などが単独で書かれていたが、記憶再生マップを参照して書いた箇条書きでは、これらの語群が共起し、因果関係が明確に表現されていた.
これらの結果から、記憶再生マップは、児童の学習内容の理解を深め、概念化を促進する効果があると結論づけられた.
記憶再生マップの効果③
【要約】
5年生の理科で台風と天気の変化について学習した児童の箇条書きを,学習直後と1か月後に記憶再生マップを参照して書いた箇条書きで比較した結果,以下の違いが認められた.
- 学習直後の箇条書きの総数は124文で、一人当たりの平均は4.4文であった。一方、1か月後に記憶再生マップを参照して書いた箇条書きの総数は240文で、一人当たりの平均は8.6文であった.
- つまり、1か月後に記憶再生マップを参照して書いた箇条書きは、学習直後の箇条書きの約2倍の量であった.
これらの結果から、記憶再生マップは、児童の学習内容の理解を深め、知識の定着を促進する効果があると結論づけられた.
記憶再生マップの効果➃
【要約】
5年生の理科で台風と天気の変化について学習した児童Aさんの箇条書き(a)と(b)を、KH Coderの自己組織化マップ(SOM)でテキストマイニングした結果、以下の違いが認められた.
- 箇条書き(a)のSOMは、台風の特徴と被害の2つのクラスターに分かれており、被害に関するクラスターは、個別の事象として理解している程度であった.
- 箇条書き(b)のSOMは、台風の特徴、被害、恩恵、備えの4つのクラスターに分かれており、被害に関するクラスターは、相互に接して配置されており、被害に対する対策と台風の恩恵などの新たな概念が形成されていた.
これらの結果から、記憶再生マップは、児童の学習内容の理解を深め、概念化を促進する効果があると結論づけられた.
記憶再生マップの効果⑤
【要約】
児童Bさんは、5年生の理科で台風と天気の変化について学習した.学習直後に書いた箇条書き(a)は、5つしかなく、内容も単純であった.しかし、記憶再生マップを描いた後、1か月後に書いた箇条書き(b)は、11個に増え、内容も複雑になっていた.
箇条書き(a)のSOMは、全てのクラスターで「特徴」というテーマが与えられた.これは、Bさんが、台風の特徴を理解できていたことを示している.しかし、12月、1月、6月の台風がまっすぐ進むという間違った概念も記述されていた.
記憶再生マップには、台風のでき方や被害に関する絵が描かれていた.これは、Bさんが、調べ学習によって学んだ知識を、自分の言葉で理解しようとしていたことを示している.
箇条書き(b)のSOMは、3つのクラスターが「特徴」、「被害」、「でき方」というテーマを与えられた.これは、Bさんが、台風の特徴、被害、でき方を、それぞれ理解できていたことを示している.また、箇条書き(a)のSOMの①~③のクラスターにある言語が、(ア)のクラスターに集約されていた.これは、Bさんが、台風の特徴を、より深く理解できるようになったことを示している.
記憶再生マップの効果⑥
【要約】
児童Bさんは、1か月前に描いた記憶再生マップを参照しながら、11個の箇条書きを書いた.箇条書きの順番と記憶再生マップのノードとの関係を分析した結果、Bさんは以下の順番で記憶再生マップを参照したことが示唆された.
- 赤の1番(台風の移動)
- 台風の被害に関する絵
- まとめとして、台風が人間の生活に被害をもたらすこと
- 赤の4番(台風が去った後の天気)
- 青の5番(台風一過)
- 青の8番(台風の目の下は晴れている)
- 赤の6番(台風のでき方)
- 青の10番(赤道より上の台風は反時計回り)
- 赤の7番と8番(台風の周りの天気と風)
- 赤の9番(台風の目の下は晴れている)
- 青の12番(台風の進路)
Bさんは、記憶再生マップの赤の数字で示されたノードから箇条書きを書き始めた.また、台風の被害に関する絵を描いた後、まとめとして台風が人間の生活に被害をもたらすことを記述した.これは、Bさんが台風の被害の重要性を理解し、上位概念として捉えることができたことを示している.また、記憶再生マップには描かれていない風速17m/sという知識を1か月間も記憶していたことから、台風の恐ろしさを強く印象づけられたことが推察される.
Bさんは、記憶再生マップを参照する中で、関連する概念を次々と表出させていった.これは、記憶再生マップが、学習内容の理解を深め、概念化を促進する効果があることを示している.
また、Bさんは、青の数字で示された知識を、記憶再生マップには描かれていないにもかかわらず、1か月間も記憶していた.これは、記憶再生マップが、学習内容の定着を促す効果があることを示している.
記憶再生マップを描かせた場合は、時々それを利用することで、関連する知識等が消去されずに記憶の中に留まることができる可能性がある.
記憶再生マップの効果⑦
【要約】
児童の学習内容の理解度によって、記憶再生マップの変化の仕方が異なることが示唆された.
学習内容の理解が早い児童は、学習終了直後でも、学習内容をきちんと整理できている.そのため、記憶再生マップも、学習終了直後と1か月後で大きな変化はみられない.
一方、学習内容の理解が遅い児童は、学習終了直後では、学習内容を十分に整理できていない.そのため、記憶再生マップも、学習終了直後は、情報がまとまっていない状態になっている.しかし、記憶再生マップを参照することで、学習内容の理解が深まり、情報が整理されていく.
記憶再生マップの効果⑧
【要約】
児童Aは、真面目に学習を行うが、学習活動自体は積極的ではない.学習直後の箇条書き(a)では、台風の被害を中心に記述しており、知識の整理は比較的できていた.
記憶再生マップを描いた後、1か月後の箇条書き(b)では、台風のでき方、移動、危険度、特徴、被害など、より広範囲の知識を記述している.また、記憶再生マップを参照しながら記述したため、箇条書き(a)では記述していなかった内容も記述されている.
これらのことから、児童Aは、記憶再生マップを描くことで、学習内容の理解を深め、概念化を促進することができたと言える.
記憶再生マップの効果⑨
【要約】
児童Bは、学習直後の箇条書き(a)では、台風の被害を中心に記述しており、知識の整理は比較的できていた.しかし、箇条書き(b)では、台風の発生場所、動き、特徴、被害など、より広範囲の知識を記述している.また、記憶再生マップを参照しながら記述したため、箇条書き(a)では記述していなかった内容も記述されている.
これらのことから、児童Bは、記憶再生マップを描くことで、学習内容の理解を深め、概念化を促すことができたと言える.
記憶再生マップは、学習内容の定着を促す効果も期待できる.
児童Bの自己組織化マップの変化を見ると、学習直後の箇条書き(a)では、台風という言語を中心に、被害に関する言語が配置されている.一方、記憶再生マップを参照した1か月後の箇条書き(b)では、台風という言語を中心に、被害に関する言語が右側に、特徴に関する言語が左側に配置されている.これは、児童Bが、記憶再生マップを参照することで、台風の被害と特徴を、より明確に区別できるようになったことを示唆している.
また、箇条書き(b)では、台風の発生場所や動きに関する言語も配置されている.これは、児童Bが、記憶再生マップを参照することで、台風の特徴をより深く理解できるようになったことを示唆している.
このように、記憶再生マップは、児童の学習理解を促進する有効な手段であることが示唆された.
記憶再生マップの効果⑩
【要約】
小・中学校の授業では、児童・生徒が学習後にその内容を詳らかに発話することは、普段は行われていない.それは、児童・生徒が学んだ知識を、自分のものにできていないからである.
しかし、記憶再生マップを描くことで、児童・生徒は学んだ知識を視覚的に整理し、概念化することができる.その結果、学んだ内容を詳らかに発話できるようになる.
ある小学校の5年生が、理科の「植物の実や種子のでき方」の授業後に、記憶再生マップを描いた直後に、隣の児童に、記憶再生マップを示しながら説明を行っていた.
その児童は、発話するための練習など一切行っておらず、ノードのトピックを俯瞰しながら、適正な言語を付け足したり、繋ぎ言葉として利用したりしながら説明していた.
この児童は特別な能力があるわけではない.ほとんどの児童が、記憶再生マップを描いた直後から、このような説明を行うことができる.原稿など不要である.
記憶再生マップは、児童・生徒の学習理解を促進する有効な手段である.
※以下のリンクは,記憶再生マップを説明する動画を観ることができます.