今回は,前回のBさんの記憶再生マップとそれを見ながら書いた箇条書き(b)についてです.
何をするかと言えば,箇条書きは順番に書かれたものですから,Bさんが記憶再生マップをどのような順で見たかということを検証してみます.
次の図の記憶再生マップに付けられている〇や楕円は,Bさんが箇条書きに取り上げたノードです.
この図で,手書きの数字(赤文字)とテキストの数字は10番の箇条書きの前半までは対応しています.10番の箇条書き後半は手書きの11番,最後11番の箇条書きは手書きの12番と対応しています.
もう一度確認しておきますが,この記憶再生マップは1か月前に描いたものです.そして,記憶再生マップを参照しながら書いた箇条書きがこれです.その間,記憶再生マップは児童の手元にはなく,台風に関係した学習もしていません.ほとんど記憶再生マップを描いたことも,忘れている状態でした.
この児童は,赤の1番を参照してテキスト1番の箇条書きを書き始めました.次に,台風の被害について,多くの絵を描きましたがそれらをまとめて台風が人間の生活に被害をもたらすと記述したのです.これは,上位概念ですので概念化が促進されたと考えられます.ところがこの後,この児童は記憶再生マップには描いていない知識(風速17m/s等)を突然書き出しています.小学校の理科では,この知識は指導内容にありませんが,授業の中で調べた内容を1か月間も記憶していたようです.それは,台風が様々な被害をもたらすという怖さやその風力の大きさに心動かされたことが原因なのかもしれません.学習において驚いたり,感動したり,気づいたりなど,情意面で心が動くことは学習を理解するためには大切なことです.従って,この児童は,大きな被害をもたらす台風の原因として,この17m/sという風速を書き自分自身のまとめとしたと考えられます.
次に,赤の4番に目を移し台風が通り過ぎたら晴れるという記述をしたところで,青の5番である台風一過という表現を記述しました.これも1か月間ずっと記憶していた概念です.その他にも,青の8番と10番の知識を適切に記述しました.
これらの事は,過去に記述した記憶再生マップを読むという学習行動が,児童自身が記憶していたこの学習に関連する事柄に対してアプローチしたことの証明になりますが,おそらくこのような記憶想起は,概念化されていれば無意図的に行われます.このアプローチは,関係性の気づきがキーワードになると思います.
このように青の数字で示した内容のような記憶は,おそらくはもっと沢山あると考えられますが,想起の機会がない場合は,自然と消去されていくのでしょう.記憶再生マップは,この例のように,それを読むことで関連する概念を表出させることができることが示されたと言えます.
記憶再生マップを描かせたのなら,時々は,それを利用すると様々な関係する知識等が消去されずに記憶の中に留まることができるかもしれません.今回は,記憶再生マップが潜在記憶の顕在化に対して有効であることの一例を紹介しました.次回も,記憶再生マップの効果について紹介していきたいと思います.
ここまでお読みいただきまして感謝申し上げます.
学校現場は,新年度になり授業も始まっていますが,日々楽しく授業をしています.何かお気づきの点などありましたらお知らせ頂くと幸いです.