記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

ちょっとひと休み(実際の授業のデータです)

 前回,自由の中にこそ,本音ありというまとめを行いました.

 自由に書くことができるから,嬉しかったことを書いた子や分かったことを書いてみようと挑戦した子,一生懸命に頑張ったけど自分には難しかったと先生に伝えようとした子やどうしても書けなかった子など様々です.

 「学習で意識したことを書きましょう」や「身に付いた力を書きましょう」など,児童にとって難しくなければ,教師が知りたい内容に絞って書かせればいいし,それは授業者が判断すればよいことです.

 私は自由に書かせる中で,「この児童は授業を通して,○○が身に付いたようだ」などと判断したほうが自然だと思います.

 実際,児童の分かったを読み取ることは難しいことなのです.分かったと書いても,説明できなかったので分かっていなかったこともあります.「分かった」の捉え方が違うからです.つまり言語理解の問題でもあります.このことに関しては,私の博論を読んで頂くと丁寧に説明しております(^^;)

 感想を書かせることで,その子にとって授業がどうだったかが分かります.それで,全体としてどの程度理解したかを知る訳です.

 色々言っても実際はどうだとお考えになっていると思いましたので,つい最近行った実験の授業で児童が書いた「感想」の例を示します.

 4年「もののあたたまり方」の授業です.(R51月実施)

 実験の内容は,銅製の棒と板を使い,金属がどのように温まっていくかを調べるものです.一般的には蝋(ろう)を金属に塗り,実験用ガスコンロを用いて熱の伝わり方を調べる方法が行われます.しかし,実験用ガスコンロは火力を最小に調整しても,この実験で使うには火力が強すぎることと,蝋は火が付くと燃えるので危険です.そこで,熱源はアルコールランプを用い,蝋の代わりに市販の示温インク(サーモインクペースト)を使いました.同時にマッチやアルコールランプの使い方の指導を行いました.

こんな実験です

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【実験の目的を意識した感想】※ひらがなを漢字に変換しています.

(1)熱の伝わり方をある程度書いている児童.(金属の温まり方について言及している児童で,実験の映像を記憶しています)

・③だけ私の予想が外れていました.私は,熱は低いところに伝わると思っていて,高いところには行かないと思っていました.そしたら,②と同じように左右に広がっていたのが驚きました.マッチの正しい使い方を知れてよかったです.(②は棒の中央を熱する実験で,③は棒を斜めにしてその中央を熱する実験です.)

ノート1

・金属の棒を熱すると,熱を当てたところから遠いところに順に熱が伝わることやマッチの使い方が分かってよかったです.

・金属の棒を斜めにしてすると,左右に色が変わっていることが分かってよかったです.

・金属の棒は,端っこから真ん中のところに行ったり,両方に行ったりしていて,金属の板は熱が広がっていっていたことが分かりました.

・真ん中から当てたら,左右に色が変わる.

・金属は熱を当てたら,その当てたところから熱が広がるんだなぁと思いました.

・板と棒の温まり方がほとんど同じで,板は日が昇るみたいだった.棒は,消しカスになるみたいだった.

・熱を当てたところから遠いところにくることを初めて知った.火をつけるのが怖かったけど楽しかったです.

・熱が伝わると,遠くのところに行くと知れてよかったです.

・温まったら広がることが分かりました.

・熱を金属のものを傾いておくと全部に広がる.

・熱が色々な動きをして楽しかった.

・広がり方が分かったから楽しかった.

・金属の温まり方が知れてよかったです.マッチも使えたので嬉しかったです.

(2)色の変化について書いている児童.(特に色の映像が記憶に残っている児童です)

・青いほうがピンクになった.

・色が変わって面白かったです.またやりたいです.

・ピンクが90℃以上になるという事が分かっていきました.嬉しかったです.

・40度以上になるとピンクになるという事が知れてよかった.

 

【マッチやアルコールランプの使用に関する感想】

(3)火を扱った実験について書いている児童

・火をつけるのは怖かったけど,火をつけて実験も楽しくできてよかったです.

・今日の実験は,マッチを使うけど,1回したから余裕でした.

・今日はアルコールランプを使って実験をしました.色々な事が知れてよかったです.

・アルコールランプは,ひもを調節すると,火が小さくなったりする.

・マッチを初めてつけた時,すごかったです.

・マッチを使えてよかったです.

・マッチが前まで怖かったけど,この授業のお陰で火のものが怖くなくなったのでよかったです.鉄の棒を当てて実験ができたのでよかったです.

ノート2

・初めてマッチとアルコールランプを使ってとてもすごかったです.金属の棒の温まり方が不思議だなぁと思いました.

・昔の人たちは,この金属棒にろうをぬって授業したことが分かった.

・今日は,学校で始めてのマッチだったけど,先生の言うことを聞けば,ちゃんとできると分かりました.

・注意して実験に取り組めました.

・初めてマッチを使ったのでよかったと思いますが,これから使うときも注意したいと思います.

・マッチをつけて,アルコールランプにつけれた.それで,マッチの怖さもちょっとなくなった.

・今日は火をつけることをしたんですが,今まで火が全然つかなかったけど,最後は一発で火が付いたので嬉しかった.

・火を付けるのが楽しかったです.

・マッチを使って楽しかった.

・火を付けるときに注意してきたのでよかったです.

・マッチ前回よりも使えるようになって嬉しかったです.

・袖に付かないように注意して,火を付けたりアルコールランプに付けたりして,とても楽しかったです.

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 実験では,全員がマッチを扱えるようになりましたし,アルコールランプの安全な使い方も実習できました.

 (1)(2)の感想から,児童の約半数が金属の温まり方について理解しつつあることが読み取れます.また,(3)のように半数がマッチを使った実験について書いていることから,今後の実験を行うための実験技能の習得が,ある程度はできたと考えられますので,次の授業の初めに記憶想起を行い,この学習のまとめをしたいと考えています.

 今回もお読みいただきありがとうございます.

 

児童の「分かった」をどうしたら分かるか

 前回は,「児童は,前回の演劇を今日理解し,これから始まる演劇の意味に気づく」と書きましたが,当然ながら単元の学習は,常に過去の学習を記憶想起しながら,新たな学習が始まるというシナリオで日々の授業が展開されます.

 授業の終盤には,1単位時間の顛末を言語でまとめることがあります.所謂,分かったことや結論ですが,この時点で全員が理解していればいい訳です.しかし,児童が学習内容を理解するタイミングは,これまでも述べたように個々人で異なります.理科の授業を例に言えば,実験がメインの授業なら,その結果は児童が「見たまま」ですので,「〇〇になった」などという言語の表現には多くの児童が納得します.しかし,その結果が得られた訳を説明することが全ての児童・生徒にできるかは別問題です.

 もし,そのことを要求するならば,実験結果に至る原因と結果の因果関係が重要となり,実験をするようになった原因(理由)も含めて,実験結果が得られるまでのストーリーを完全に自身の脳で再現しなければなりません.児童自身が,納得に至らなければ,言語でまとめた板書の内容も宙に浮くことになります.つまり,教師が授業内容をまとめたつもりでも,そのまとめの言語は,ある児童にとっては何の意味も持たない文字列でしかありません.

 児童・生徒の理解に至る時間が個々人で異なるのなら,無理して1単位時間にまとめまで行う必要はありませんし,その方が教師にとっても気が楽です.私が小中学校で指導した30年以上の経験を思い出しても,全員の児童・生徒が1単位時間の学習内容を全て理解したことなど皆無に近いと思います.つまり1単位時間の経過後に,全ての児童・生徒が同時に理解に至るというロジックは,決して正しいとは言えないと考えます.ただ,少人数授業などのように,その可能性を高める工夫はありますが,日本の規定された1学級の人数では,かなり難しいと考えます.1学級の人数を少なくすることが,学習内容を理解する児童・生徒の割合を高めることはあっても,全員を理解に至らしめる最適解にはなり得ないということです.

 では,1単位時間での終盤には,どのような学習行動を課せばよいのでしょうか.よくやられているのが「分かったこと」を書かせるという学習行動です.しかし,分かっていない児童にとっては書く材料が見つかりませんし,分かっていないのに分かったことは書けません.

 このようなときに,児童にとって最も負担の少ない課題は「感想」です.所謂,自由記述で「何でもよいので書いてみましょう」とするのです.自由記述ならば,分かった喜び,教師に対する説明,自分が見た現象面に対する驚きや感動,疑問など多種多様な書き込みが見られることになります.一見すると,様々に書かれている内容ですので,評価が大変に思えますが,学級集団の理解の程度を知る上では,貴重なデータです.

 実際に授業で,「感想を書きましょう」と言えば全員が書くことができています.学習があまり得意でない児童でも,驚いたことや嬉しかったことなど何か書きます.理解した児童は,論理的な文章を書くことができます.不思議だったことや疑問点を書く児童もいますし,「よく分からないけれども,たぶんこうだ」と推測めいたことを書く児童もいます.このような感想は児童の本音ですから,その時点での理解の程度が読み取れますし授業の反省もできます.

 鉛筆で自由に書く(描く)喜びを味わわせることで,今は分かっていない児童も,この後の記憶再生マップを自由に描くようになり,描いたときに事の次第に気づくようになってきます.

 分かる時までもう少しです. 今回のここまでの取りあえずのまとめは,

自由の中にこそ,本音あり

ということになります.

 今回はここまでです.お読みいただきありがとうございました.

児童はいつ授業の内容を理解するのか

 前回の最後に,「授業という演劇を理解するためには,時間がかかる」と述べました.

 それでは児童はいつ,授業の内容を理解することができるのでしょうか.

 これを知るためには,自身が実際に児童に対して授業を行ってみなければ分かりません.授業を行うと,児童との会話のやり取りや児童の呟き,表情・態度などから,理解している児童とそうでない児童をある程度見分けることができるようになります.理解が早い児童は,授業時間の経過とともに瞬時に理解する様子が見て取れます.第一は,自己中心的言語の発話です.それは,たった今見た現象や見つけた解法を,発話で自身に対して説明するように呟く様子です.つまり聞き取った言語や,見た映像から因果関係などの意味を見い出し(うち)なる納得をしたと考えられます.第二にこのような児童は,学ぶべき内容に対しての正しい発話や呟きを行うことからも確認することができます.

 ところが多くの児童は,このような境地に至ってない場合がほとんどです.これらの児童は,授業時間中に理解に至らなかったので,一旦保留状態と言えます.このような児童が今後理解するようになるためには,少なくとも授業のエピソードだけはしっかりと記憶させておくことが重要です.つまり,授業で何が行われたか,何をしたか,何を見たか,何を聞いたかなどです.これらのことを記憶するためには,学級全体としての授業を受ける姿勢は,予め身に付けさせておかなければなりませんし,授業という演劇を理解するためには,少なくともそのあらすじは知る必要があります.そして,これら未理解の児童たちを,どこで理解させるかが次のポイントになります.

 最も適切な場面は,次の授業の冒頭ということになります.ここに「前時のまとめ」を設定することもあります.当然,数日の時間が空くので記憶想起ということになります.このような時間を設けると,前回の授業の内容を考える機会を与えることになりますので,授業後に混乱していた児童の記憶が整理されることが期待されます.

 

授業の流れ

 そして,このような「前時のまとめ」を行うことで,少なくとも前回の授業のあらすじと,今から行う授業という演劇のあらすじがつながる素地ができました.つまり,今日,授業を行う意味が分かるようになるのです.

ここまでの何となくのまとめ

児童は,前回の演劇を今日理解し,これから始まる演劇の意味に気づく

 

 ここまでの内容は,学習の最終段階で記憶再生マップを描かせる理由ともつながってきます.

 今回はここまでです.お読みいただきありがとうございました.

授業は演劇である

 前回の最後に,

「児童・生徒が学習内容を決められた時間で分かるようになるかは,甚だ疑問である」

と書きましたが,多くの現場の先生方は納得して頂けると思います.

 児童・生徒が10人いたら,学習後の10人の理解と,その理解に要する時間は違います.過去に学習した内容が概念化されている児童は,比較的早い段階で「あ~ぁ」と呟いたり,表情の変化が見られたり頷いたりします.

 こう言うと語弊があるかもしれませんが,授業は言わばお芝居ですから,その結末は用意されています.

授業は演劇

 演劇が誰でも同じ結末を味わうことができる反面,その感動の程度は観客の経験に左右されます.同様の経験をした人は,同情したり共感したりするでしょうが,そうでない人は,冷静に終末を味わいます.

 授業も同様で,児童・生徒の経験や持っているスキーマ(心理的な描写)の内容で,理解したりしなかったりです.

 児童の頭の中で,授業のストーリーは流れていますが,その児童が持っているエピソード記憶や,意味記憶の内容が違うことと,授業での納得の仕方もバラバラですから,そのストーリーから教師の意図を汲み取り,結論を推測する児童や,また,自身のエピソードに影響されて,情意面の動きが活性化する児童では,ゴールの見え方が異なります.

 一方で,無理やり納得させようとすると上手くいきません.本当に,様々な経験が極端に少ない小学生の指導は難しいと感じます.

 ひとつの単元の指導が終わる頃には,児童の脳には経験した多くのエピソード記憶や幾つかの意味記憶が残ります.実験の様子をしっかりと想起できる児童が,そうでない児童よりも学習の内容をよく理解していると考えられますが,それよりもその実験の意味を開口一番に発話した児童の方が,学習内容をより理解したと考えられます.そのような児童は,意味を述べた後にどのような実験だったかを正確に説明できます.これを具現化したものが,記憶再生マップであり,まだ理解していない児童には学習の終了後に描かせ,自身のエピソード記憶と向かい合うことで意味を見い出させているのです.

 脳は,時間をかけて獲得した知識を整理するという仕組みからも,全ての児童・生徒が学習内容を決められた時間で分かるというのはあり得ないのです.

 ここまでの何となくのまとめ 

授業という演劇を理解するためには,時間がかかる

 今回は,ここまでです.お読みいただきありがとうございました.

 

児童・生徒は学習内容を決められた時間で分かるのか?

 いつもお読みいただきありがとうございます.

 10月になり,武雄市では学期が後期になりました.武雄市は西九州新幹線も開業し,祝賀ムードの余韻もまだまだあります.また,ふたつ星4047も走り始めて,ほぼ毎日満席状態です.

 さて,今回の内容は,20218月に行われた日本教育情報学会で発表した「児童が獲得した知識を学習の最終段階に概念化する記憶再生マップの効果の自己組織化マップによる検証」をもとに,数回に分けて書きたいと思います.

 まず,このタイトルで主張していることは,児童は授業を経てたくさんのことを学びますが,それだけでは主にエピソード記憶だけが脳に残り,概念化されないということです.つまり,概念化するためには,何か手を打つ必要があるということです.

分かったと手を挙げる児童

 これまで多くの現場の教員が,45分又は50分の授業で児童・生徒が,学習内容を理解すると思い込んでいました.私も三十数年に渡って小・中で指導をし,若い頃には指導主事の先生方から「授業は45(50)が勝負だから,その時間で指導を完結させなさい」と言われてきました.

 しかし,よくよく考えたら,その先生方も,ご自身の授業で全ての児童に理解させることができたのか大いに疑問です.なぜなら,児童・生徒が学習内容を理解したとは,何を以て言えるのかが解決していないからです.

 よく行われているのが,アンケートですが,児童・生徒の「分かった」はあまり信用できません.なぜなら,少なくとも,自身の「理解」を客観的に見ていないからです.事の次第の辻褄が合うかどうかの判断ができないと考えられるからです.

 そこで,授業中に行う形成的評価が重要ですが,一人の教員が授業をしながら児童・生徒の評価を全て完結させるなど事実上不可能です.しかしながら,相変わらず指導案検討では,授業中に行う評価項目についての検討が行われています.これをお読みの方で,教員以外の方は,どのような事か分かりづらいと思いますが,簡単に言えば,教師が指導しながら,その都度,児童・生徒が指導している内容をどのように捉えているか,解決しているかなどをチェックするということです.ICTの活用で,児童がタブレットでの学習を行いながら,その履歴を教師のタブレットがモニターするなどのシステムであれば,少しは可能ですが,それでも児童・生徒の脳の中を覗くことはできません.

 私が経験上唯一,当てにしているのは,学習後に児童に書かせる短い感想です.それを読んで,児童が辻褄の合った説明を行っていると,その児童は分かっていると感じます.一方,理解できなかったことが分かる表現や学習内容と関係ないことを書いていると,その児童は分かっていないと判断します.

 

何となくの今回のまとめ

児童・生徒が学習内容を決められた時間で分かるようになるかは,甚だ疑問である

 今回はここまでです.お読みいただきありがとうございました.

ちょっとひと休み~記憶再生マップについて~

【はじめに】 

 前回の書き込みからちょうど一か月となりました.

 お読みいただいている皆様に感謝しております.

 ここまでは,過去の実践研究で得られた結果をもとに,記憶再生マップを学習で利用することの効果について書いてきましたが,ちょっとひと休みして,「記憶再生」という名前の由来などを紹介します.

名前の由来】

 「記憶再生マップ」という名は,児童が学習した内容をビデオのように再生するという意味から名付けました.最初にこの名前を初めて使ったのは,放送大学博士後期課程3年次の6月に東京文京学習センターで行われた博士予備論文審査会です.

(博士予備論文審査会についてのブログは,

放送大学博士後期課程と学位取得14 - 記憶の再生について考えるブログ (kiokusaisei.com)

あります)

 私は,当時勤務していた小学校での理科の授業や,新規採用教職員指導教員として勤務した年度では,指導する新規採用教員の授業(国語等)で記憶再生マップを使った授業を指導していました.

 ところが,予備論文審査会で説明をしたところ,ある審査員の先生から「記憶再生という言語はない」,という指摘を頂き,その後しばらくは「記憶の再生マップ」としていました.

 記憶に関しては,再生という言語はありますが,似た言語で再認もあります.記憶再生マップの意味としては,どちらかと言えば,経験したことを描きだすことになることから,再認ではなく再生です.ところが,このマップを児童に初めて使わせていた頃は,「記憶再生マップ」とは呼ばずに「記憶想起マップ」と呼ばせようとしていたことがあります.

 しかし,児童が「想起」では意味を十分に読み取れなかったのです.つまり,「SOUKIって何?」と質問する児童がいたということで,児童が分かる言語を探して「再生」にしたという経緯があります.記憶「再生」ならばビデオの再生と同じように,記憶を脳内で再生するというシナリオは,記録したものを動画として映すことですから,記憶想起と似ているので良い訳です.小学校の児童に,そこのところの難しい話は通用しません.

【記憶と想起と学校】

 さて,「記憶と想起」について言及したのはアリストテレスで,その著書はギリシャ語のタイトル,「ΠΕΡΙ ΜΝΗΜΗΣ ΚΑΙ ΑΝΑΜΝΗΣΕΩΣ」です.deeplで翻訳すると「追憶と記念について」となりますが,googleだと「記憶と想起について」となり,一般的にはこの訳が多いようです.

 そこで,記憶と想起について私の周りの学校での実態について見ていきたい思います.

 まず「記憶」に関しては,掛け算の九九などで何度も唱えて記憶させる(リハーサルと言います)指導や毎日の宿題として課す漢字の書き取り,フラッシュカードの利用などは見受けられますし,教科の学習では,例えば理科の導入で児童の興味を引く演出を行ったり,算数のまとめにチャンクを利用したりするなどが見受けられます.また,ICT機器を利用して,クラウド上で児童の考えを共有したり,共同で作業をしたりする取り組みは最近特に増えてきました・・・・・.

 とは言うものの,そもそも学校現場では「記憶」ということよりも,○○ができるようになること,書けるようになること,答えられるようになること,集中できる,理解できるなど,教科単元の評価規準に照らし合わせて目指す児童像を考えて授業設計を行ってきましたので,掛け算の九九のように「記憶」を意識して指導されることはほとんどなされていないように感じます.

 校内研究会でも,如何にしたら児童は理解するかという話はよく出てきますが,どのような指導を行ったら児童は学習内容を記憶するかなどの話は殆どありません.また,暗記という言語は,記憶よりもよく耳にしますが,最近はあまり良い意味では用いられません.まぁ,暗記中心の学習からの脱却は進んでいるような気がしますが・・・・.

【理解と記憶】

 私は,理解するとは,学習内容やその過程を正しく記憶に残すことであると学位論文で述べました.この論文には,「記憶」という言語は710回も出てきます.なお,想起は109回,理解は154回,納得は31回出現します.これらの言語が深く関係しています.学校現場では,この中では圧倒的に「理解」という言語が好まれています.

 学習内容の理解や文章問題の題意の理解など,指導案には「理解」という言語がよく使われています.学校現場では,理解したことの拠り所はテストの出来映えです.テストで良い点を取れば,その児童・生徒は,学習した内容を理解したと考えます.

 しかしこれは間違いではありませんが,十分ではありません.それは,テストが学習内容の全てを網羅することができないことと,テスト実施のタイミングがバラバラなので,その理解がどの程度持続するか分からないからです.つまり,小学校の例で言えば,評価テストはどこのテスト会社のものを採用しても構わないし,学習が終了してどのタイミングで実施しても構わないのです.

 そのような状況ですが,評価テストの結果が良ければ学習指導が上手くできたと教員は考えます.私は,これはこれでいいと思っています.なぜなら,児童・生徒の学習は,いずれ近い将来や遠い将来に彼らを助ける力になればいいと思っているからです.

 ところがこのままでは,児童・生徒一人ひとりの理解とはどのようなものかを,児童・生徒自身も教員も知らずに時間だけが過ぎ去ってしまいます.ですから記憶の姿を探したくなる訳です.皆さんは,児童・生徒が学習したその内容や学習の過程が正しく記憶されているかを知りたくないですか.

【記憶と想起】

 さて,皆さんは,児童・生徒が呟くのを見たことがありますか.

 例えば,「あ~ぁ」,「あっ,そうか」など色々ありますが,授業中の色々なタイミングで児童・生徒が発する呟きです.その瞬間,児童・生徒は何かが腑に落ちたと考えられます.その時には,事象関連電位と呼ばれる脳波が出ます.主に記憶想起時に,この脳波が観測されます.私は授業の良し悪しを,児童の呟きの頻度で測ることが多いようです.現在は理科専科で毎日授業をしていますが,児童ができるだけ呟くような授業を目指しています.それは,実験・観察の時であったり,板書の時であったり,説明や解説などの時にできるだけ児童の中から声が漏れることを目指します.

 このような時,児童は記憶を想起していると考えられます.記憶していた事柄と言語や音声,映像などを見て「なるほど」と納得している可能性があります.

 アリストテレスは「memory and reminisence Aristotle」で,記憶するための能力は,感覚や知覚と述べています.また,感覚や知覚は,時間を認識するための能力の機能であるということも述べています.記憶するためには,時間を認識しなければならないということです.このことは,おそらくは,感覚や知覚で得られた事柄の因果関係やエピソードを認識するということであろうと考えられます.なぜなら,これらには,時間は重要な要素であるからです.何が過去で何がそれよりも未来(今となっては過去ですが)なのかが,因果関係では重要です.

 つまり,経験の前には記憶はなく,先ほどの児童の呟きは,片方で時間を遡り,その時の映像と,今この瞬間に感覚で捉えた現象を比較しているように感じるのです.このことが想起であり,記憶を新たに感覚や知覚されたイメージとして,思考の対象とすることができるのです.このことは,Baddeleyのワーキング・メモリのモデルとも親和すると考えています.

【学習における想起】

 学校現場で,学習した内容を記憶想起する場面は皆無です.単元の学習が済んだら,直後に行う評価テストなるもの以外で,学習した内容を想起させる場面はありません.一旦学習が終了すれば,その内容を想起する場面は,生涯無いことも十分に考えられます.

 記憶再生マップは,学習が終了した時点で一度でも描かせておくと,何か月も後になって,それを読むことにより,前回の「記憶再生マップの効果⑩」で紹介したビデオの児童のように発話して説明する学習行動をさせたり,学習内容を文章にまとめさせたりすることができます.記憶再生マップは言わば,「学習した内容を自身がどのように理解していたかをまとめたもの」と言うことができます.その中には,アリストテレスが言う時間が確かに存在します.ですから,後に自身の記憶再生マップを見ると疑問がわく場合があります.その時は,再び想起するチャンスですので,その時点で身に付けている知識や経験を利用して思考すれば,また新たな発見があるかも知れません.

【おわり】

 今回は,記憶再生マップの効果をお休みして,その名前の由来から「記憶想起」について,若干のコメントを書かせてもらいました.

 記憶再生マップの効果を検証した論文は,投稿した学会ではどうも十分に読んで理解頂けなかったようで、また3度目の返戻でした.まぁ,認知科学的な知見が多く書かれていますので,仕方ないと考えています.別の学会に投稿し直すのがいいのかもしれません。

 また,「記憶の再生について考えるブログ」をお読み頂き,児童のその他のマップや箇条書きなどをご覧になりたいと思われたら,遠慮なくお知らせください.個人情報に配慮した形で,今後の学校教育のためにという条件の下で,ご提供できると思います.

 ここまで長文でしたが,お読みいただきありがとうございました.

記憶再生マップの効果⑩

 87日は立秋です.

 昔は,お盆を過ぎると秋の気配を感じたものでしたが,今はいつまでこの猛暑が続くのか心配になるくらい毎日が暑すぎます.理科室の管理をしていますので,メダカの水槽にはいつも注意しています.理科室の気温は,この時期なら平均34℃程度で推移します.当然,水槽の水温も高くなり,藻の発生が心配されます.武雄市は,一向に理科室や音楽室にエアコンを設置してくれません.夏休み明けの授業をどう考えているのやら・・・・.

 

 今回の話題は以前,記憶再生マップを読むということで,2021/07/16の「記憶再生マップの読み方について」という記事 https://www.kiokusaisei.com/entry/2021/07/16/054503 

に関連したものです.

 今回ご紹介する記憶再生マップの効果は,児童の説明です.

 小・中学校の先生は,よくお分かりだと思いますが,児童・生徒が学習後にその内容を詳(つまび)らかに発話することは普段の授業ではありません.なぜならば,それぞれの経験を整理していないからです.教員であれば,事前に授業計画を立てたり,何度も同様の授業を行うことによって,その単元の流れや指導のポイントなどが記憶されます.そしてそれらが連関して概念化しますが,児童・生徒の学んだ知識は,いつになっても自分のものになりません.最近,学習状況調査の結果も発表されました.気になりますね.

 さて,今回は次のビデオ(Youtube,130)を見てください.

 これは,ある小学校の5年生です.理科の「植物の実や種子のでき方」の授業後に,記憶再生マップを描いた直後に,ある児童が隣の児童に,記憶再生マップを見せながら説明を行っている様子です.

 発話するための練習など一切行っておらず,ノードのトピックを俯瞰(ふかん)しながら,適正な言語を付け足したり,繋ぎ言葉として利用したりしながら説明しています.この児童ができる訳ではなく,ほとんどの児童が,記憶再生マップを描いた直後から,このような説明を行うことができます.原稿など不要です.

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