いつもお読みいただきありがとうございます.
の「最もアクセスされたアイテム」で10か月連続1位となっている私の博論をもとに,教育現場で役に立つ記事をお届けしています.
なお,博論タイトルは「小学校理科教育における指導方略の研究-意味ネットワーク・モデルとその発展型を用いた知識構成-」と理科教育について述べていますが,本質的には全ての教育に通じる内容となっています.
今回は,研究の意義について解説します.
ここでは,「確かな学力」について,次のように論じています.
「確かな学力」とは,『児童・生徒が将来の様々な困難な状況に直面した時,それらの問題を解決するためにも必ず身に付けさせなければならないもので,この学力は,獲得しそこにある知識ではなく,新たに獲得した知識を既存の知識と関連づけ概念化するプロセスを経て培われるもの』としています.
一方で文科省は,「確かな学力」の定義を『知識や技能はもちろんのこと,これに加えて,学ぶ意欲や自分で課題を見付け,自ら学び,主体的に判断し,行動し,よりよく問題解決する資質や能力等まで含めたもの』としています.
私が危惧していることは,このような言語の解釈を人任せにしている先生が意外と多いということです.一例を挙げると,某市の市報に教育委員会のページがあって,「非認知能力」を紹介していたのですが,次のような紹介をしていてびっくりしました.
「見えない学力」=「非認知能力」と記述されていますが,英語の説明では,「However, since non-cognitive skills are often challenging to assess」と書かれており,訳すると「しかし、非認知スキルの評価は難しいことが多い」となりますので,この記述は間違いと言うことになります.教育委員会がこれでは,先が思いやられます.評価は難しいのですが,見えない訳ではありません.
言語の定義は,一度,自身の指導計画に落とし込むことが重要です.それで,違和感があったら再考します.文科省や学者の定義を,そのまま飲み込む前に,何回も咀嚼することが重要だと思います.この基本姿勢を児童・生徒に植え付けてほしいと思います.自分の考えと違えば再考し,同じならば納得します.
私の博論では,「将来に直面する問題を解決することが第一義」であるとして,その力を確かな学力としています.一方で文科省は,「(既に獲得した)知識や技能と非認知能力」を確かな学力と定義しました.「学ぶ意欲や自分で課題を見付け,自ら学び,主体的に判断し,行動し,よりよく問題解決する資質や能力等」は,評価が難しいものもありますが,児童・生徒を見ていると分かる場合もあります.
さて,ここで私の解釈と文科省の解釈ですが,どちらかが正解で・・・という議論はナンセンスと言えます.
なぜなら文科省の提示は,知識と技能に加えて非認知能力を意識したいという意図があるので,それはそれでよろしいのではないでしょうか.
私は,この非認知能力と考えられる部分は,1時間の授業で評価されるものではなく,単元を通してや,さらにいくつかの単元を通して評価されるべきものと見ています.
一方で,私の博論の定義では,授業によって獲得した知識と既存の知識を結びつけることによって,さらに醸成される力が,所謂「確かな学力」としています.
そしてここには,知識を関連づける思考法を提案していることになります.つまり,以前紹介したスキーマの検索です.
ですから,自身のスキーマを心の目で見る思考の訓練を授業中に仕組むことを推奨するものです.
このことは,今,Amazonの教育学のカテゴリーでベストセラー1位になっている,慶応義塾大学環境情報学部教授の今井むつみ氏著の「学力喪失-認知科学による回復の道筋」でも述べられている,スキーマに関する記述と同じ意味を持っています.以下の目次を参考にされて下さい.
目 次
はじめに
第Ⅰ部 算数ができない、読解ができないという現状から
第1章 小学生と中学生は算数文章題をどう解いているか
1 算数文章題につまずく小学生
2 小学生の算数文章題につまずく中学生
3「意味の不理解」が引き継がれる
第2章 大人たちの誤った認識
1 テストと学力についての誤認識
2 知識についての誤認識
3 スキーマなしでは学習できない
第3章 学びの躓きの原因を診断するためのテスト
1 「たつじんテスト」の開発まで
2 「たつじんテスト」は思考力を測る
3 点数をつけるよりも大事なこと
第Ⅱ部 学力困難の原因を解明する
第4章 数につまずく
1 「数」はモノを数えるためにあるわけではない
2 分数というエイリアン
3 かけ算・割り算の意味がわからない
第5章 読解につまずく
1 「読める」とはどういうことか
2 問題文を理解するための語彙が足りない
3 単位、時間、空間のことばを理解できない
4 行間を埋めるための推論ができない
第6章思考につまずく
1 認知処理の負荷に押しつぶされる
2 状況に応じた視点の変更ができない
3 パーツの統合ができない
4 モニタリングと修正ができない
第Ⅲ部 学ぶ力と意欲の回復への道筋
第7章学校で育てなければならない力――記号接地と学ぶ意欲
1 生成AIと記号接地
2 子どもはどのように記号接地しているのだろうか?
3 アブダクション推論とブートストラッピング
4 自走できる学び手へ
第8章 記号接地を助けるプレイフル・ラーニング
1 プレイフル・ラーニングの考え方
2 時間概念の記号接地――プレイフル・ラーニングの実践1
3 分数概念の記号接地――プレイフル・ラーニングの実践2
4 知識を身体化できるのは学び手のみ
終章 生成AIの時代の子どもの学びと教育
今回も丁寧にお読みいただき,ありがとうございました.