私は,10月5日(土)は,長大で久しぶりの学会発表でした.
今回の発表は,佐賀大学の角和博名誉教授が,昨年度に中学校で「技術科」の授業をされたときに,生徒に描かせたウェビングマップの解析を任されましたので,その報告を行いました.
このことに関して興味ある結果が出ましたので,後日,このブログでも紹介します.
さて今回は,前回までに示した現行授業の問題点を踏まえて整理してみます.
1.児童の言語概念の問題等から
・一人一人の児童が持つ言語概念が異なるので,授業による新しい知識の獲得と概念化には影響がある.
・児童の持つ概念は様々であり,教師は授業の中で児童の誤概念を修正しながら授業を進める必要がある.
・児童の誤概念を修正するために,教師は発話を意識することが重要.
2.授業構成と児童の概念構成の問題点から
・児童が学習内容を想起する過程が無いので,概念を再構成することが難しい.
3.児童の記憶の問題から
・児童の記憶はユニークであるから,誤概念の修正には独自の方法が用意される必要がある.このことは,自己調整学習の議論と関係があるかも知れない.
今日は学会でしたが,このように教師と児童間で交わされる言語に関する問題点の指摘は皆無でした.
さらに,授業の出来不出来をアンケートによって分析している事例がほとんどで,アンケートに関する疑義もありません.
ご存知のように,アンケートは言語によってなされますので,言語概念との兼ね合いになります.
つまり,授業は言語を用いて為されるので,AIに対するプロンプトエンジニアリングの問題同様に,児童・生徒の学習においては,言語の問題が重要です.
そこで,教師の発話する言語が,児童・生徒に上手く伝わらないことを,生成AIを児童に見立てて,簡単な実験を行ってみました.生成AIに対するプロンプトが,教師の発話と言うことになります.
生成AIに対する描画の最初の指示は,「先生の話がよく聞き取れている日本の児童と,先生の話の内容がよく聞き取れていない日本の児童が並んでいる写真」です.
なお,使用する生成AIは,初期値が西洋人となっているようなので,「日本の」という言語を付け足していますが,この言語が本質的な描画に影響するとは思えません.その結果が下の写真です.計8枚の画像を見ても,人間が予測する写真とのズレがあります.
まず,「よく聞き取れている」と「よく聞き取れていない」の違いが,明確に区別されていません.また「聞き取る」という言語に対する生成AIの理解は,耳に手を当てる仕草のようです.このようなことが,教師と児童・生徒の概念の違いと考えられます.さらに,「並んでいる写真」と明確に指示したにも関わらず,そのような写真ではありません.
今度は次のプロンプトを見て下さい.
「うなずきながら先生の話を聞いている数名の日本の児童と,先生の話がよく分からずに,首をかしげて聞いている数名の日本の児童の表情が分かるように正面から見た写真」
もうこうなると,教師側もどう表現したらよいか分かりませんね.「うなずく」や「先生の話がよく分からず」などが,AIに理解されていないように思えます.しかし,ある意味,このような児童の姿が,実際の授業でもありそうな気もします.
今回は,現行授業の問題点について整理してみました.他にも色々な問題があると思いますが,これらの問題に対する指導方略を考えていかなくてはならないということで,「博論に書かれた現行授業の問題点」の節の最後には次のようにまとめています.
「児童が(自身の)知識を表すことができれば,自身の概念を俯瞰することにより自己の構成概念を児童自身が修正できる可能性もある.さらに,自身の考えを他の児童に説明するときに,表象した考えを提示しながら説明を行うことも可能になると考えられる.」
次回は,この研究の意義や目的について紹介します.