記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

授業における知識の形成過程 その⑤

 今回は,「一般的な授業における知識の形成過程」の話題に話を戻します.

 授業における知識の形成過程についての話ですが,これまで次の3つを紹介していました.学校は,学習内容に直結した意味のあるエピソード記憶を形成させるところですから,教師の発話や児童・生徒の学習行動には,とくに注目すべきです.

 これまでの説明で利用した図です.もう一度確認したいと思います.

【授業のはじまり】

 授業の始まりには,前時までの学習で作られた様々なスキーマがあります.学習は基本的には連続した文脈で構成されていますから,これらのスキーマ群の内,前回の授業で形成されたスキーマトップダウン的に起動するように授業の構成を考えれば,児童・生徒は学習のつながりを意識できると考えられます.授業の最初に,前回の復習を設定するのもよいアイディアだと思います.

【めあての提示と記憶の形成】 

 めあてが提示されると,めあての意味が形成されますが,再度「授業における知識の形成過程 その②」をご確認ください.特に,ここは提示するめあてに学習する意味や理由を持たせることが重要です.

スキーマの検索】

 この図では,学習者が意図的にスキーマの検索を行っていますが,概念化した前の学習の解は,無意図的(自動的)に記憶想起されます.しかし,教師のめあての提示如何によっては,無意図的に記憶想起はなされません.それは,教師の発話内容に,記憶想起にかかる手がかりがないからです.ですから,教師の発話はとても重要になります.

 

 今回は,学習の【活動初期】について考えてみたいと思います.

学習活動の初期の脳内の様子

 この図は,事柄の成り立ちを時系列で描いています.学習行動が進行すると,児童・生徒の脳にはそのエピソードが蓄積されてきます().今行われている学習行動は,すぐに過去になり,児童らは新たな学習行動を経験します.

 めあての意味記憶が形成されている児童らは,それが無意図的に記憶想起されますので,学習行動のエピソードと学習のめあてとの関連性について考えることができます()

 「授業における知識の形成過程 その④」での国語の例は,「〇〇する〇の気持ちを読み取ろう」でした.従って,学習行動が一人調べなどのようなものであったならば,既にスキーマを検索した段階でどうすればよいかは決定していますので,赤ペンや青ペンを使って本文を読み進めて,赤線や青線を引いていくはずです.

 今回は,前回の三角形の面積の学習を例に考えてみましょう.

 この場合,四角形の面積の学習は終わっていますから,その学習のスキーマは形成されているはずです.つまり,「1㎠の正方形の個数を数える⇒計算で求める⇒正方形,長方形以外の平行四辺形や菱形は,正方形や長方形に変形して考える⇒正方形や長方形の求め方を適用する」などの意味記憶が形成されていることが前提です.

 本時のめあての意味としては,「三角形の面積を求めること」と納得しますから,めあて提示後のスキーマの検索で,平行四辺形や菱形の面積を求めるときに経験した「正方形や長方形に変形」というエピソードが記憶想起されたり,概念化が進んだ児童では,もっと素早く変形に関する意味記憶が無意図的に記憶想起される場合も考えられます.すると活動の初期であっても,提示された三角形を見た段階で,三角形を変形して既習の四角形を作成する児童が出現することが考えられます.

 一方で,この段階において既に,何をどうすればよいか分からない児童も見受けられます.前の授業で学習内容のスキーマを形成できなかった児童や欠席の児童がこれにあたります.前者についてはスキーマ形成に関する文脈を短時間で説明できますが,後者については少し時間をかけて説明する必要があります.

 

 今回はこれで終わります.次回は,活動後期について考えてみたいと思います.

 

 余談ですが,先週上京し,放送大学の岩永雅也学長と2人で鯨料理を肴に教育について話し合った際,前回までのスキーマの説明資料等をお渡ししました.

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