記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

授業における知識の形成過程 その①

 前回までは,学習において記憶想起することの大切さについて,私の実践を例に説明しました.

 記憶再生マップは,そのような記憶想起の集大成として単元学習が終了した時点でエピソード記憶の想起を行い,それらのつながりを俯瞰し学習の意味づけを行い,表現した意味のつながりを精査しながら,学習によって獲得した意味を描き連ねていくものになっています.

 今回は,知識の形成過程について,長年に渡って児童・生徒を指導した経験から,学習者の脳内で起こる事柄を紹介していくことにします.ただ,この話題は一義的に決まることではないので,あくまでも一事例といった見方でお読みいただければ助かります.また,これらの検討については,大学の研究室においても,学生さんや現職の先生方のご意見をお聞きしながら,改定しつつご紹介いたしますので,予めご了解願います.

 まず,今回のようなイラストでの説明については,現段階のリサーチにおいては,未だなされていないようですが,もし,同様の説明をなさっている方を御存知であるならば,ご一報頂きますようにお願い申し上げます.

 これまでの様々な授業の議論のなかでは,〇〇法,〇〇メソッドなど様々なアイディアが出され,学校現場ではそれらの実践が行われ,成果が報告されています.これらは,児童・生徒の学習行動に目を向けて議論されている場合がほとんどですが,そのことにより児童・生徒の脳内にどのような変化が起きるかなどは,あまり議論の対象となっていないのが現状です.従って,これまで児童・生徒の脳内における情報の動きが提示されたことはありませんでした.

 このような理由から,今回は,私が放送大学で書いた博論の内容に,38年間の現場教員としての経験知を加味し,児童の脳内における情報の動きについて考えてみたいと思います.これらのことに納得された先生方は,ご自身の指導においてどのような事に留意すべきかが読み取れてくるものと思います.

 学習が始まるこの段階では,できれば児童・生徒の持つスキーマの中で,学習に関係する内容については,ある程度揃えておくと指導がしやすいと考えられます.

 国語科であれば学習する単元(例えば,物語文や説明文)に出てくる言語の意味について,正しい概念を持っているかについは,事前に調査し,場合によっては説明をしておく必要があります.言語については,その単元で初めて学ぶものもありますが,そうではなくてその単元を学ぶ児童が,ある程度知っていると考えて本文に使用されている言語が非常に多くあります.実際に,本文に使用されていた「野球」という言語がよく分からないと言った児童(女児)もいました.

 また,理科の「もののとけ方」という学習では,「とける」と言う言語は,融解(例えば,氷が融ける,チョコレートが融ける等)の意で理解していた児童が8割であったことを博論にも紹介しています.授業での「とける」は溶解について学ぶので,学ぶ前に概念の追加が必要でした.

 このように授業のはじまりは,児童・生徒の持つスキーマについて考える必要があります.例えば,前の単元で学んだ内容について授業の初めに数分間時間を取って全体で記憶想起するなどです.その時,どのような記憶を想起させれば,これから始める授業が円滑に実施できるかは,事前に整理しておく必要があります.