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今回は,スキーマの特徴⑤の前編です.大変に分かりにくい内容ですので,前編と後編に分けて説明します.この特徴⑤は,スキーマの働きに関するものです.脳に入力された情報に対して,スキーマがどのように解釈を与えるかを説明しています.
今回も,ルメールハートとノーマンの解説を用いて説明します.
スキーマの特徴⑤
「異なるレベルにある色々なスキーマが,新しい入力を認識し解釈することに,積極的に関わっている可能性がある.ボトムアップとトップダウンのプロセスは繰り返され,新しい入力の最終的な解釈は,どのスキーマが入力された情報に最も適合するかによって決まる.例えば,芝生の上に座っている人たちを見たら,まずピクニック・スキーマを起動させるかもしれない.しかし,ボトムアップの情報によって食べ物の代わりに横断幕が見つかったら,ピクニックの代わりに「デモ」のスキーマに移行するかも知れない.この場合,デモ・スキーマが最適であることが判明し,優位で,最も活性化されたスキーマとなる.」
いかがですか.赤文字で書かれたところが,スキーマ⑤の説明です.これを読まれて状況がイメージされたならば,スキーマに関する理解が相当進んでいる証拠だと思います.つまり,理解とは,学習内容やその過程を正しく記憶に残すことですので,ピクニック・スキーマを例に,何らかのイメージが脳内に出現されたものと思われます.
今回も1つずつ考えてみましょう.最初のセンテンスです.
「異なるレベルにある色々なスキーマが,新しい入力を認識し解釈することに,積極的に関わっている可能性がある」
この一文がスキーマの働きを説明しています.「異なるレベルにある色々なスキーマ」という部分で分かりにくい言語は,「異なるレベル」という言語です.原文は,「Various schemas at different levels」です.つまり,スキーマ自体にはレベルがあるという事です.では,どんなレベルでしょうか.
これは,記憶想起のし易さとでも言ってよいかと思いますが,自身の周りの環境を感じたり見たりしているときに,記憶想起としてすぐに出現するスキーマと,そうでなく記憶の奥底にしまってあるスキーマなどをレベルという言語で説明しています.例えば,国語の授業の時には,児童の脳には,これまでの国語の学習で蓄えられた情報の数々を仕舞いこんだスキーマが,すぐにでも出現できるように顔を出しているイメージです.その時には,他の教科のスキーマは記憶の奥に仕舞いこまれています.
次の図は私が描いたものですが,便宜的に教科のスキーマを作って描いていますが,本来はもっと細かな学習内容のスキーマである可能性を感じていますし,その区別はユニーク(個々人で異なる)であるべきです.
「新しい入力を認識し解釈することに,積極的に関わっている可能性」について説明します.「新しい入力」とは,感覚器からの新たな情報の流入を意味します.つまり上の図では,授業が始まったことが分かる情報,例えばチャイムが鳴ったり,児童が時計を見たり,先生が教卓の前に立たれたりしたという情報が,脳に入力されたという事です.「認識し解釈する」とは,それら感覚器から入った情報に意味をもたらすことを意味します.上の図では,授業のスキーマが,席に着く,先生に注目する,静かに聞く姿勢を整えるなどの意味をもたらすことになります.
「積極的に関わっている可能性」とは,無意図的にと言う意味です.つまり,スキーマが人間が意識することなしに関わってくるという事の意味です.
先生が教室に入ってこられた時に,「姿勢を正さなければならない」と考えるのは,もうすでに授業のスキーマが活性化している証拠です.
ルメールハートとノーマンのこの解釈は,タルビング(Tulving,1983)のエピソード記憶と意味記憶の区分と整合します.(このことを説明すると長くなるので,他の学者の考えとも合うと理解して下さい)つまり,スキーマ群の本質は,基本的には意味記憶という事になります.
今回はここまでにしますが,後半の意味についてお考えになってください.
また,「なぜ人は車の運転ができるのか」や,「なぜ高齢者は,アクセルとブレーキを踏み間違えるのか」などについても,スキーマで説明ができそうです.