記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

スキーマとは➃

 最初にお断りです.前回の最後に,今回はスキーマの特徴④と⑤を合わせて紹介するとしておりましたが,特徴④の内容が,簡単に説明することができないと判断したため,特徴⑤は次回とします.

 今回は,スキーマの特徴④を紹介します.

 

 スキーマの特徴④

 「スキーマには,個人的な経験から得た一般論と教えられた事実など,私たちが蓄積してきた全ての種類の知識を組み込んでいる.

 この特徴④については,これだけの記述しかありませんし,訳本も同じです.

 この表現は分かりにくい表現だと思うので,特徴④に関して,私が図を作成しました.ここで述べられているイメージは,次のようなものと考えられます.

 この説明によると,ルメールハートとノーマン(Rumalhart and Norman,1983)は,スキーマの源流が2つであると述べています.

 一つは「個人的な経験から得た一般論」という部分です.この一般論という言語は原著には,generalizations と書かれており,翻訳では一般化とも訳すことができます.または,概論,概括です.

 このようなことをもとに考えると,この部分は「個人的な経験を経て獲得する知識」と言うような意味合いに捉えられます.これをこれまでの議論に当てはめると,「エピソード記憶から得られた知識」となります.この知識は,ある程度抽象的で一般化されたものと考えられます.

 上の図で言えば,①節分を経験すると,そのやり方を知ることができます.②掃除機をかけると掃除の仕方が身に付きます.③買い物をすると支払い方が分かります.➃葬儀に参加すると,そのしきたりが理解できます.⑤風邪をひいて熱が出ると,体がどのようになるかを知ることができます.⑥点滴をすると,その後の体調の変化を体感することができます.⑦テレビで選挙の様子を見ると,政治に対する考えを持ちます.これらの知識が図の「A」です.

 つまり,これらは宣言的記憶であると同時に,手続き的記憶も含まれます.宣言的記憶とは,言語で説明される記憶の事です.また,手続き的記憶とは,掃除機を操作したり,買い物でお金を支払ったり,豆を鬼に向けて投げつけたりなど,自然と動作できる知識のことです.これらについては,ある程度は言語でも説明できますが,細かな説明になるとできません.つまり,経験によって体に染みついた行動の記憶という事ができます.

 もう一つの「教えられた事実」とは,「学校教育等により獲得した知識」の事です.これらはほぼ,教科書にも記述されている通りで,意味記憶になります.例えば,「円の面積の求め方」,「空気の性質」などのように,教科書にも記述されているように言語で示される知識です.これらの知識が図の「B」です.

 このように考えると,学校教育において児童・生徒が獲得する知識は,BのみならずAも含めた全てであると言えます.ただし,この図に描かれた全てのエピソード(左図と右図の両方とも)は,心情的に影響が大きかった特別なエピソードを除いて,ほとんどが消失してしまいます.例えば,掃除機を扱うときに,以前のエピソードはそんなに利用しませんよね.でも掃除機は操作できるはずです.買い物をするときに,いちいち,「お金はどのように利用すれば,品物がもらえるか」などと過去のエピソードに頼ることはしません.一方で,電子決算などの利用を始めたばかりの人は,まだ身に付いていない知識を確認するときには,「セブンでどうやったら上手くいったか」などのエピソードを想起することはあります.それらが身に付いたら,そのエピソードは消失していくものもあります.

 ところが学校教育では,そのようなエピソードを記憶させておきたいと考える場面はあります.例えば,算数・数学などで,公式を導かせた後に,どのような手続きで公式が出現したかという事はエピソード記憶を想起しなければなりません.本来ならばここのところが教育の重要な部分であると考えますが,公式などの結果のみを暗記させて,問題が解ければよいとする風潮がまかり通っています.そのような学習では,利用こそできても,理由は説明できない学習者が続出します.これでは,理論を他の現象等に応用することはできないのではないかと思います.ですから,少なくとも結果に至る文脈,あるいはストーリーだけは大切にしたいと思います.その時に利用したいのがチャンキングです.このことに関しては機会があれば,お話いたします.

 ここまでの話を総合すると,スキーマに含まれる知識は,宣言的知識だけのような印象を受けますが,行動の記憶も含まれると紹介したように,当然ながらイメージも含まれます.スポーツ能力などはその最たるものです.