記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

授業における知識の形成過程 その⑦

博士にまつわる話題 別版の記事です.(4/21New)

是非,目を通して下さい.

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 今回は,【授業の終末】について考えてみたいと思います.

 前回お話した授業のストーリーですが,先生お一人お一人で異なる文脈であるはずです.めあては同じでも,展開は学級ごとに異なるのが普通ですからね.

 

 授業の終末の脳内

 学習が大詰めを迎えると,授業もそろそろ終わりになります.このような時に,児童・生徒の脳では,どのようなことが行われているのでしょうか.

 まず,ここに至るまでに児童・生徒が何度もめあての意味を思い返し(リハーサルと言います)いることが重要です.具体的には,尋ねたときに即答できることです.例えば,算数科では,答えを出すのか,解き方を導き出すのか,または,解き方を考案して答えも出すのかなどの微妙な違いも理解できているかどうかです.理科では,何を目的として実験や観察をしているのかを,正確に答えられるかどうかなどです.

 そのような児童・生徒にするためには,めあての提示後から,事ある毎に「今日のめあては何だったかな」とか教師が自問自答するふりをしながら呟いたりするのも効果的です.また,ある児童・生徒を支援するふりをしながら,他の児童・生徒にも聞こえるように「〇〇さん,今日は・・・・が授業のポイントだったよね」などと発話して,めあての意味を常に意識させて学習行動を取らせるのもいいですね.

 

 そのようにして,学習のめあての意味を記憶として保持している児童・生徒は,その意味を手がかりとして,自身が記憶している学習行動のエピソードを想起し,何が学習の解であるかを考えることができる可能性があります.例えば「解き方を考える」であれば,記憶想起している学習行動のエピソードを,「どのようにすれば解けるか」という視点で見返すことができるようになります.

 ここはあくまでも可能性でありますが,実際は,このレベルにすら達しない児童・生徒もいることも事実です.ですから,少なくともめあての意味を学習の終末まで保持できるような指導や支援をしなければならないと考えます.その上で学習指導の工夫をして頂けたら,これまで以上に成果は期待できます.

 次に,図の説明をします.最初に「学習のまとめなどの終末の学習行動と,めあての意味が関連付けられ,児童・生徒が考える授業の意味に,内なる納得をした児童・生徒の脳には,めあて及び学習行動のエピソードとリンクした学習内容の解の意味記憶が形成される」について説明します.

 まず「終末の学習行動」とは,「学習によって分かってきたことを全員で共有する場面」または「多くの児童・生徒が,発話や発表などの表現活動を行い,今後,理解していきたい事柄などを明らかにする場面」などです.もちろん「児童・生徒自身も,めあてに対する回答を自分なりの表現方法で示す場面」でもあります.

 次の「めあての意味が関連付けられ」とは,この授業で最も大切なことは何であるかを,板書などで表された学習のまとめの中に見出すということです.

 その次の「児童・生徒が考える授業の意味に,内なる納得をする」とは,「この授業で最も大切なことはこれである」と自身が結論付けたことに納得するということです.納得とは,他者の言動を十分に理解することですが,内なる納得は,自身の結論に対して「それでよい」と思うことです.考え続けるためには,このことはとても重要になります.

 

 「めあて及び学習行動のエピソードとリンクした学習内容の解の意味記憶が形成される」の部分は,内なる納得をすることにより,学習のめあてと学習行動の時系列のエピソードをもとにした学習の文脈学習内容の解という3つの意味記憶がリンクされるということを表しています.

 次の「この意味記憶には,自身が言語で説明できるエピソード記憶にあるイメージや概念化したエピソードの因果関係等」とは,記憶再生マップを描いた児童が,練習することなしにすぐに言語を使って説明することができることと同様に,学習のめあてから始まり,何をどの様にしたら何が分かったか等の因果関係を含む学習行動の説明であることを表しています.すなわち授業の終末における児童の脳には,このような授業の説明ができる記憶のつながりが,形成されていなくてはならないということになります.それら3つの意味記憶は,授業について自由に書かせたときに,表現されなければなりません.

 例として,算数科の三角形の面積を求める公式があるかを調べる授業を考えてみましょう.児童のスキーマには,四角形の面積を求める公式は存在します.

 学習のめあてを「三角形の面積はどのようにして求められるか調べよう」とするのか,「三角形の面積を求める公式を導こう」とするかなどは,指導者の考えで異なります.

 学習行動としては,スキーマにある四角形の面積を求める公式を利用するのか,それとも別の活動を行うのかは学習者の考え方次第です.

 考え方の交流や説明活動など,様々な学習行動を経て,公式と考えられる計算方法が吟味され,三角形の公式が板書されて授業は終わりを迎えます.

 この段階で自由記述をさせると,「三角形の面積がどのようにして求められるか(学習のめあて)を,四角形の面積の公式を利用して調べました.2つの同じ三角形を使って四角形を作ることができたので,四角形の面積の公式を使い計算しました.でも,2つ分だったので最後は2で割ることになりました.言葉もたてや横は,高さや底辺に変えました.(学習の文脈)すると底辺×高さ÷2で全部の三角形の面積を求めることができることが分かりました.(学習内容の解)」などのような,解に至る学習の文脈を感じられる説明を記述する児童も出現するかも知れません.これらは,確かに学校教育の文脈です.

 一般的な授業の流れでの児童・生徒の脳内で行われていることについて書きましたが,これまではこのような議論すらなされていませんでした.児童・生徒の脳内でどのようなことが行われているかは分からなかったからです.これからは,学習者の脳内での情報の流れを意識して,指導されると指導が分かりやすくなるのではないでしょうか.

 次回は,授業の冒頭に前の授業のまとめを行う場合のメリットについて紹介します.今回も丁寧にお読みいただきありがとうございました.