記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

スキーマと学習の関係

 これまで,ルメールハートとノーマンの解説をもとに,スキーマの説明を行ってきました.このことを踏まえて児童・生徒が持つスキーマと学習の関係をどのように捉えたらよいのでしょうか.

 

 これは一言でいえば,「スキーマは,学習の知識構造」ということになります.すなわち,ピクニックスキーマの図のように,学習の中身を構成する知識が意味をもってリンクされるのです.

 このように考えると指導者は学習指導を通して,児童の脳に学習内容のスキーマを形成させることが求められ,ここに至って初めて,指導者である教師は,児童・生徒の脳内に目が向くことになるのです.

 これまでの学習指導では,文科省が提示した学習指導要領に書かれている目標に準拠した児童・生徒の学習行動として,「〇〇を理解する」や「〇〇ができるようになる」などのめあてを掲げ授業を行ってきました.そして学習の終末には,算数・数学なら問題の解法の説明,理科なら観察・実験から得られた現象の説明などを経て,感想を書いたり,練習問題を解いたりすることで学習が終了していました.ICTの利活用でも,その学習において表現の幅が広まったり,学習者が獲得する情報のバリエーションが増えたり,情報の共有が容易になったりと,これまでにない学習行動が盛んに行われています.そのように取り組むことが,児童・生徒の理解につながると信じているからです.

 しかしながら,それらは児童・生徒の脳に形成される学習内容のスキーマを意識したものではありません.確かに児童・生徒の脳には,ある知識構造が構築されますが,それがどのような姿かは,ほとんど議論されていないのが現状です.

 

 簡単な例で考えてみましょう.算数の三角形の面積を求める学習で児童は,最後には公式を知ることになります.この公式は,言わばスキーマと同じで底辺の長さと高さという2つのスロットを持っています.ですから,この公式を知識構造として記憶した児童は,あらゆる三角形の面積を知る(求める)ことができるようになりました.するとこのスキーマの構造は,次のようであると考えられます.

三角形の面積のスキーマ(例)

 これは,ルメールハートとノーマンの論文に出てくる図をもとにした三角形の面積を求めるためののスキーマ図です.

 必ずしも同じである必要はありませんが,児童の脳の知識構成は,これと類似したものでなければなりません.そうでないと誤概念ということになります.

 様々な値が入るスロットは「底辺の長さ」と「高さ」です.一方,「底辺の長さ」と「高さ」をつなぐスロットは,掛け算という決まり事でつながっていますから,固定値としての「×」が入ります.さらに「高さ」を固定値の「2」で割る必要があったことを記憶想起し,その間のスロットには「÷」を入力します.

 初期値の「4㎝」と「5㎝」は,先生がまとめに使った数値ですし,「7㎝」や高さの「4㎝」は,発展的な問題で用いた数値などでしょう.

 また,正方形や長方形の面積を求めるためのスキーマは,三角形の面積を求めるために利用することになりますから,リンクされており,必要に応じてそのスキーマが活性化するのです.

 

 つまりこの学習では,これらのスキーマを形成させることが目的となります.しかし,児童にルメールハートとノーマンが考えたこのような抽象的な図を学ばせる必要は全くありません.この図は,むしろ先生方が作成する指導案に載せるべきだと考えています.

 では児童の学習行動としては,どのようなことが考えられるかですが,私なら記憶再生マップを描かせ,そのサンプルをいくつか児童に提示させて話合わせます.

 次の記憶再生マップは,三角形の面積の例です.黒ペンで描いた部分が,教師の提示する初期提示です.

三角形の面積 記憶再生マップ

 スキーマは,学習にとって非常に重要な概念です.

 しかし,授業時間が45分と限られており,また40分へと授業時間の減少が計画されています.例えば,この授業でしたら,公式を導く過程を重視するのか,あるいは,ある程度は公式の導きに対するヒント的な情報をオープンにして,学習があまり得意でない児童も,何となく同じ形の三角形を合体させれば,求め方が分かるように仕組むのかで,後半の時間が決まります.

 どちらが今後の児童の知識構成に有効かを考えなければなりません.

 授業の最後をスルッと簡潔に終わるか,前半が簡潔だったので最後は悩ませるか.

 

 今回の文章を書いている段階で,佐賀大学の角和博名誉教授と議論していた時,教授が「そのスキーマに見られる知識構造は,エピソードも含めた学習のまとめとしての知識ですか,それともエピソードを含めない学習のまとめの知識ですか」と質問されました.私は,すかさず「この知識構造には,エピソードも含めたまとめの知識で構成されるべきです」と答えました.なぜなら,まとめの知識が概念化するときには,必ず学習のエピソードを記憶想起しなければならないからです.そのような思考を経た児童は,なぜそのようなまとめの知識が形成されたかを説明できるようになります.それができない児童は,暗記はしますが説明が苦手です.

 

 今回はここまでとします.いつもお読みいただきありがとうございます.

 次回からは,また「授業における知識の形成過程」に戻ります.

 

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