記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

授業における知識の形成過程 その⑧

博士にまつわる話題

別版のサイトになります.

なぜ日本が「低学歴国」と言われているかが分かります.

博士は専門家ではない.なぜか・・・・.

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 いつもお読みいただきありがとうございます.

 今回は,授業の冒頭に前時の授業のまとめを行う場合のメリットについて紹介します.

 このブログを読んでこられた方は,授業の冒頭に前の授業のまとめを行う理由がお分かりになっていると思います.もし,まだその記事をお読みになっておられない方やもう一度確認したい方は,次のリンクを参照されてから,今回の記事を読んでいただくことをお勧めします.

www.kiokusaisei.com

www.kiokusaisei.com

 この回で紹介するのは,前回の授業で敢えてまとめをしなかった場合です.また,時間内にまとめが行えなかった場合も含みます.

 かつて私が若い頃,ある指導主事が,「授業は45分で完結しなければなりません.」と言ったことを記憶しています.しかし生意気にも私は,建て前としてはそうだが,はたして本音は違うのではないかと思っていました.なぜなら,一人ひとり能力が違う児童・生徒たちが45分や50分で,指導する内容を完全に理解できるはずがないと思っていたからです.

 この話題に対する一般的な回答は,「指導内容に応じた授業の時数も決まっており,無理してでもその時間内にまとめを行う」ということであろうと思います.そうすると何人かの児童・生徒は,分からないままに授業が終了していたはずです.何とも申し訳ない話です.己が授業を消化しなければならないという事情で,何名かの児童・生徒には不十分な授業を強いていたのです.

 しかし,ここで考え方を変えて,まとめを次回にずらすと,そのような児童・生徒も,もっとゆっくりと考えたり,もっと丁寧に先生や友達から支援を受けたりすることができます.このような時は,授業の終了直前に学習の感想を自由記述で書かせておくと,理解した児童・生徒とそうでない児童・生徒は,ほとんどはっきりと区別できます.中には,4年生で学習のまとめの推測まで記述する児童も数名いました.

 そうすると,次回の授業の冒頭に前時の授業のまとめを行う場合,理解している児童・生徒と理解していない児童・生徒は,はっきりと分かっていますから,焦ってまとめをするよりもはるかに効率よく短時間で,丁寧に発話したり板書したりすることができます.

学習の初めに前の授業のまとめを行うときの記憶等の仕組み

 【授業の初め】前の授業のエピソードは,記憶として保持されています.特に,学習行動が楽しかった,嬉しかった,不思議だった,分かったなどの情意面で評価される場合は,特別に記憶が消失する理由がない限りは残っています.ただし,その記憶は潜在化していますので,児童・生徒の意識には上っていません.

 

 【教師の発話直後】前の授業について記憶想起させることが目的であり,短時間で済ませたいので,教師の発話内容が重要です.「前の授業では何をしましたか」だけでは,漠然とした発話ですからあまり記憶想起になりません.手がかり再生を起こすためには,発話する言語を選ぶことが重要です.例えば,「〇〇さんの発表で盛り上がったね」「どんな発表だったかな」,「〇班の発表で,分かったことがあったね」「それは何だったかな」,黒板のある場所を指して「この辺りに何か描いたよね」「誰の発表から話が盛り上がったの」など,具体的なエピソードに関する発話なら児童・生徒は容易に記憶想起することができます.また,前の時間の最後に感想等を書かせておいた場合は,誰が良く理解しているかなどの情報を既に教師が持っていますから,「〇〇さん,あなたの感想を読んでみて下さい」とお願いすることができます.

 このような発話によるやり取りを経て,児童・生徒の脳でスキーマとして潜在化していた記憶が呼び起されますが,自分にとって最も情意面で影響を受けたエピソードが真っ先に顕在化してきます.

 

 【教師のさらなる発話後】児童・生徒のエピソード記憶の想起が促進したら,前時の授業のめあてを再提示したり,問いかけたりすることにより複数の児童・生徒らの発言とともに,消失していた前時のめあてが再び意味記憶として形成され,頭の中で何度も繰り返されます(リハーサルと言います).同時に,前時のエピソードを記憶想起しながら,その文脈,つまり何を求めるための授業であったかを探ることができる児童・生徒も出現します.それら児童・生徒の発言を上手く利用して,どのようなまとめにするかを問いかけると,例えば,まとめの文をどのようにすればよいかを発言する児童・生徒が出現します.

 

 このように,授業の冒頭に行うまとめの時間は,全員が同じスタートラインに立って始めることができます.必要なことは,前時の記憶想起をすることだけです.なお,ここに記している内容は,既に何度も実践を行った結果をもとに記しています.

 

 学習の初めに前時のまとめを行うメリットは,なぜ本時の学習をしなければならないかという前時と本時の学習のつながりが,文脈として児童・生徒に理解されるところだと考えています.以下の板書は,「もう一度,記憶を再生することについて考えてみよう.その⑥ 2023.11.30」のブログで用いたものです.

 これを見ると前時のめあては,児童が記憶想起をしているので記述していません.(時間短縮)

 何をしたのか,結果はどうだったかだけを簡潔にまとめています.そこからの関連で(矢印),まとめの文章を考えさせています.(赤の四角)

 さらに,簡単な演習を行い,その結果を根拠として,本時のめあてを考えさせ授業に入っています.つまり,計算では50gの水に食塩を12g溶かすことができそうだけど,実際はどうかという文脈が生まれているのがお分かりいただけると思います.そのことが実感を伴うということになります.

 

 このように,授業の冒頭に前時の授業のまとめを行う場合,前時の授業のエピソードが保管されているスキーマを検索するという学習行動を利用しますので,そのような学び方の訓練になると考えます.

 授業が45分や50分で終了することが可能なら,それで良いと思いますが,文科省から授業時間を5分短縮する案なども報道されています.無理にその時間に詰め込んで終わるよりも,次回の冒頭にまとめを移動させて,じっくり活動させることも必要ではないでしょうか.

 今回は,ここまでにします.長い文章でしたが,お読みいただきありがとうございました.次回は,記憶再生マップを描く時の脳内についてです.