記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

授業における知識の形成過程 その②

 前回の内容は,授業のはじまりにおける児童・生徒の脳内を探ってみました.

 さて,授業が始まると,ほどなくして指導される先生からの何らかの働きかけがあります.

 様々な教科及び単元で,それらは工夫をされて提示されますので,ここではどのような教科にも転用できるような一般的な授業展開に限って考えてみたいと思います.

 今回は,先生によるめあての提示の段階です.今でこそ児童・生徒を巻き込んだめあての作成が求められていますが,これは児童・生徒自らが学習に向かっていく意識を醸成するためであり,学習に意味を見出すためにはどうしても必要です.しかし,最後は指導者である先生が,めあての意味を簡潔にまとめて紹介し,黒板等に言語で記述することになります.児童・生徒は,これらの過程を通して,これから始まる学習の意味を掴むことになります.

めあての提示段階

 児童・生徒の脳には,先生が授業の最初に発話されたり,何かを演示されたりしたことがエピソードとして記憶されます.まずは,印象深くエピソードを記憶させることが重要です.そのためには,情動的,つまり瞬時に児童・生徒の思考を刺激する感情の演出が必要です.先生の発話やジェスチャーなどが情動的であると,思考などの認知過程に影響するからです.ちなみに,ジェスチャーによる非言語と音声による言語は,同じ神経システムに依存しています.つまり,音声による発話をジェスチャーで補完するとより強いメッセージになることは,歌手が歌を歌う時の様子を思い出しても納得できると思います.

 具体的に例えれば,前時と本時とのつながりを謎解きのように推測させる演出であったり,前時の結論と本時のめあてを対比させるような演出であったりなど様々ですが,この時,少なくとも前時の解については,全ての児童・生徒が記憶想起できる状況にあることが重要です.前時の内容を記憶想起もせずに,めあての提示を行っても,おそらくほとんどの児童・生徒は学習の文脈を掴むことができず,それぞれが単独の学習として処理してしまう可能性が大きいと思います.

 11/1411/30に書いた記事で紹介したように学習の初めにまとめを行う場合は,児童・生徒はその時に解を得ます.ですから,次の段階で先生がめあて提示に関する働きかけがあったら,ほとんどの児童・生徒で,その解とめあての関係性を探ることが容易になります.そのことは,学ぶ意味をも推測することにつながります.つまり,先生が行う情動的なめあての提示は,有効に機能することになるのです.今回紹介しためあての提示段階では,最終的には「めあての意味記憶」を形成させることが重要となります.提示されためあてをリハーサルしながら,その意味を獲得するとは,先生の演出のエピソードを,脳の中で何度も繰り返し考えることです.11/30のブログで示した板書の例で言えば,前時の学習が,「水の重さ」+「食塩の重さ」=「水溶液の重さ」の例として,水50gに食塩12gを溶かすと,計算上では「5012=62」となることをまとめとしていました.しかしながら,この時点では,本当に12gも溶けるのかは,児童の誰も知らないわけです.ですから,それは確かめる必要性が出てくることになり,そのことを脳でリハーサルしながら(本当に12g溶けるのかな?など・・・),次のめあてを考えていった結果が,水50gに食塩がどれ位溶けるか調べる必要性が生じ,これが新たなめあてとして受け入れられ,意味記憶として定着することになったのです.

 このようなことから,この段階では,めあての意味記憶を形成さることが重要であることがお分かり頂けると思います.今回は,これで終わります.次回は,この後の児童の脳で何が起こるかを紹介します.本日もお読みいただきありがとうございました.

 本日も,放送大学リポジトリでの直近1年間のアクセスランキングは,拙者の博論が最もアクセスされているようです.

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