記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

記憶再生マップの読み方について

 いつもお読みいただきありがとうございます.
 またまた,前回からの書き込みから1か月です.この間,学会の年会発表原稿を仕上げたり,次の投稿原稿を執筆したりしていました.
 今回は,私が大学院博士後期課程時代に書いた論文を読みながら,記憶再生マップの各ノードに書かれた言語の読み方について紹介したいと思います.
 前回は,記憶再生マップの中心ノードと第一ノードで作られる文脈が児童(学習者)のエピソード記憶を呼び覚ますみたいな話をしました.いつも,授業をしていて思うのですが,児童は今の学習が終わったら,テストをして,それ以降はその記憶をほとんど使う機会がありません.テストも児童が学習内容を忘れないうちに行い,一喜一憂したりします.最近は中学校でさえ,中間テストや期末テストを廃止し,単元の学習が終了したらテストを行うようになっています.ますます,記憶想起をしない子供たちが増えつつあります.話が逸れましたが,またいつか話題にしようと思います.
 記憶再生マップは,少しでも児童が記憶想起を行い,エピソード記憶に意味を見い出し,概念化することを目指しています.その記憶再生マップですが,児童は書き終えた直後に読むことができます.それは,自分が描いたマップなので当然と言えばそうですが,描く時の状況がそうさせると考えています.つまり児童は,記憶再生マップを描きながら,声に出したり出さなかったりしながらつぶやいているからです.これを自己中心的言語と呼び,自分自身に対して内なる納得を繰り返していると考えられます.一度,内言として読んでいるので,描き終えた直後も当然ながら問題なく読むことができます.
 これをご覧になっている皆さんは,下の図の各ノードとノードのトピックをつなぎながら読むことができますか.例えば,「もののとけ方-とける量-食塩-50mLに対して15gしかとけない-水の量を増やす-とける-3日後-(絵)-ブラウン運動」のつながりは,児童ならどのように読むでしょう.

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児童が描いた記憶再生マップ

 おそらくは,「もののとけ方の学習で,ものの溶ける量について実験をしました.食塩は,水50mLに対して15gしか溶けませんでした.そこで,水の量を増やすと溶けるようになりました.3日後の様子がこの図です.このように粒が散らばったのは,ブラウン運動によるものです.」などと話すでしょう.ただし,最後のブラウン運動は,教師が話の中で食塩の粒が均一になる理由を述べるときに出したもので,学習の内容ではありません.ただし,この児童の発言の中でポイントは,「水50mL」という発話です.学校の教員の方ならば,水という発話を付け加えて回答できますが,そうでない方は,何の50mLなのかに迷うこともあります.この児童が50mLと書いたのは,何も間違いではなく水が溶媒であることは,自分の中では了解済みの事なのです.そのことを共有している教員は,何の問題もなく「水50mL」と付け足して読むことができるのです.つまり,この授業を指導した教員ならば,敢えて児童に指摘しなくても,その児童が水を溶媒と理解していることが分かるのです.つまり,教員は児童のスキーマを推測して,たぶんこの児童ならばこう読むであろうと考えることができるということです.それは,同一のエピソードを共有しているからであり,教員として児童のスキーマを推測できるからです.教員のなかには,このケースで言えば,「水という言語を付け足しなさい」と指導したがる人がいます.そんな人は,何の目的で記憶再生マップを描いているかを考えればいいと思います.児童が自分自身の為に描いているのであって,評価してもらうために描いているのではないということです.教員は,勝手に評価に使えばいいことです.まさに,記憶再生マップは,児童個別のツールなのです.
 今回はここまでにします.次回は,記憶再生マップのノード数と児童の概念化の度合いの相関について書きたいと思います.