記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

授業における知識の形成過程 その③

 2023年もあと2日です.今年も多くの方にご覧いただき感謝申し上げます.現在,寸暇を惜しんで続きを書いておりますが,少々長くなっておりもう少し時間を頂きたいと思います.手前みそですが,たぶん教育学部では,あまり学ばないような話になると思います.

 そこで,今回の話は,意味記憶形成について,もう少し紹介します..

 これまでのお話で紹介したエピソード記憶から意味記憶が形成されるという考え方の根拠の一つは,次の論文です.

LINTON,M.(1982)Transformations of memory in everyday life, in U. Neisser,(ed.) Memory Observed, W. H. Freeman.

 この論文は,次の書籍で引用され詳細に説明されています.

Gillian Cohen , Michael W. Eysenck , Martin E. LeVoi, “MEMORY : A Cognitive Approach” , Open Guides to Psychology , Open University Press, 1986.

 ここでは詳しく述べませんが,リントン女史が自身のエピソード記憶について調査した結果が根拠となっています.ただ,自身のエピソード記憶を何度も記憶想起するうちに事柄の関係性に気づく経験は,誰でもあるのではないでしょうか.

 理科の例で恐縮ですが,水を熱し続けると何度まで温度が上がるかを実験している児童は,温度計で何度も何度も測定しながら,過去となった直近の水温を記憶想起し,今の水温と比較することによって100℃近くでは水温の上昇が鈍化し,最後は全く水温が上がらないことに気づくはずです.この時,「水温が100℃に近くなったらもう,温度が上がらないんだ」などの意味を見い出します.これが,エピソード記憶から意味記憶が形成される瞬間です.従って授業では,経験的にエピソードが記憶されることが大前提で,タブレットなどの映像資料で実験の様子を見て学ぶやり方とは,根本的にエピソード記憶の質が異なります.このことについては,別の機会に書きたいと思います.