記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

記憶再生マップの効果①

 児童が学習内容を理解したかどうかは,指導者にとって最も興味深い内容です.一般的には,1時間(小学校は45分)の学習の終わりには「分かったこと」と題して,箇条書きなどで児童にまとめさせることが多いと思います.教師は児童のノートをチェックすることによって児童の理解の度合いを推し測ります.つまり児童の表現した結果が,児童の理解度のほぼ全てであるということで,これには異論を差し挟む余地はほとんどありません.ただ,ごく少数ですが,理解した内容を文章で表現する能力を十分に身に付けていない児童もいますので,指導者は注意が必要です.文章で書けなかったからと言って,理解していない訳ではないというロジックも生じるようです.

 この回では,記憶再生マップを使用して学習内容を記憶想起させると,児童の理解がどのように変化するかをお伝えします.そのためには,児童の理解度をどのような表現物で測るかということを決めなければなりませんが,児童が書いた表現物の方が教師が準備したテスト問題よりもより深く児童の理解度を測ることができます.なぜなら,一般的に行われているテストは,学習内容の全てを調査するには容量不足ですし,何よりも問題を読んだ時点でそれは手がかり再生になるからです.確かに教師が調べたい学習内容に焦点化できますが,児童が何を深く記憶したかということに関しては分かりません.ましてや,「学習した内容がよく分かりましたか」などというアンケートは,児童の言う「分かった」が曖昧過ぎるので使えません.学校現場で授業を行うと,分かっていないのに分かったという児童がいかに多いかを痛感させられます.教師の考えた「分かった」と,児童が発話した「分かった」は,違う場合があることを知っておく必要があります.

 これに対して,児童の書いた表現物は,記憶した内容が表現されたり,意味を形成した内容をそのまま書き出しますので,児童が学習内容のどこに焦点化して記憶を形成したかが分かります.理想的な表現物は,児童が単元の学習をストーリー的に記述できることであると考えますが,これは教師でも難しいと感じるものです.

 一方箇条書きは,比較的容易に考えをまとめられることから授業で利用されています.児童は,授業の様々な場面を網羅して想起することはあまり得意ではなく,むしろ一時間の授業を個別に想起することが多いようです.このように箇条書きは,児童の思考が局所的ですので文章化しやすいメリットがあります.例えば,「~は~である」や「~すると~になる」など授業のある部分を想起すれば記述できますし,それには小単元どうしの学習内容の関係性はあまり含まれません.ところが,記述していくに従って,児童が自身の書き出した箇条書きを読み返すことで,それぞれの事象の関係性を記述する場合もあります.ですから,一般的に授業では,理解したことを箇条書きで書かせていると考えられます.

 このような理由から,児童が学習内容をどのように理解したかを測るために,児童の箇条書きを使用します.ここではこれまで書いた博士論文やその他の論文で使用した,児童の箇条書きを用いて説明することにします.教科は5年生の理科で,台風と天気の変化について学習する単元です.

 児童が書いた箇条書きは2種類です.まず学習が終了した直後に「学習して分かったこと」を書かせました.全員(28名)の箇条書き全てを印刷するとA4用紙3.5枚分になります.なお,以下の箇条書きはテキスト化後のもので,必要に応じてかな文字は漢字に変換しています.

f:id:jygnp274:20211211034142p:plain

学習直後の箇条書き(一部)

 その2日後,記憶再生マップを描かせました.

f:id:jygnp274:20211211041101p:plain

記憶再生マップ

 その後,この学習は評価テストを行い終了しました.

 その1か月後,突然,以前描いた記憶再生マップを見ながら,分かったことを2回目の箇条書きで表現させました.

f:id:jygnp274:20211211042241p:plain

1か月後の箇条書き(一部)

 これは,印刷するとA4用紙6.5枚分の分量になりました.つまり,1か月後の箇条書きの文字数がおよそ2倍になりました.

 これだけでも記憶再生マップの効果はあったように感じましたが,さらに内容面で違いが現れたのかを調べるために,KH Coderでテキストマイニングを行いました.KH Coderは,立命館大学の樋口耕一先生が開発したテキストマイニングのためのフリーソフトです.

 ここまでで,約2000文字になりましたので,KH Coderによる分析については,次回詳しく紹介します.ここまでお読みいただきありがとうございました.