前回の内容を読んで,「なぜ1時間(45分)の終末に学習のまとめを用意していないのか」と疑問を持たれた方も相当数いらっしゃったと思います.しかし,45分で全員が理解すると考える方が奇妙な事のように思えてきます.
記憶の研究から言えば,記憶を確かなものにするには睡眠が重要であることは広く知られてきたところです.また,記憶を定着(固定化と言います)させるためには,記憶想起が重要であることも分かってきました.
多くの先生方は,「たった今,児童に学習行動を経験させたので,忘れないうちにまとめをしておくことが重要である」と考えられています.当然ながら,行ったばかりの学習行動はほとんどの児童の脳から消えることはありません.問題は,学習行動の記憶,つまりエピソード記憶からまとめの記憶,つまり意味記憶を形成するプロセスにあります.
よくやられているまとめ方に,「今日の学習は,どのようにまとめれば良いですか」といきなり言語でのまとめを要求するというものがあります.全ての児童が,この時点で,本時の学習行動を行ったことの価値や意義に気づいていれば,このような問いかけをしたとしても,まとめを考えるという学習行動に移行できますが,そうでない場合は考えることは難しいはずです.
教科書が学習の意味を言語でまとめていることから,このような学習行動を要求するのですが,そもそも学習の意味は,児童ひとり一人が主体的に内なる納得をしなければ理解できません.
一般的に記憶は,記銘,保持,想起という過程を経て行われると書かれている場合が多いですが,もっと重要な概念は,意味づけの過程です.これには,材料が必要です.それは,学習行動のエピソード記憶です.つまり学習によって自身が何を経験し,どんな情動的な感情を得たかなどの材料をしっかりと記憶想起することが重要なのです.
先生方も授業をなさって気づかれた方も多いと思いますが,児童は経験したことをあまり記憶していない場合が見受けられます.また,記憶している内容が,学習とあまり関係のないこともあります.
学習行動の中で,どのような経験が重要なのかは指導案を考えられたときに明確になっています.しかし,児童がどのような学習行動を記憶したかをチェックすることなしに,まとめ,つまり意味づけを行おうとしても,学習のまとめに必要な学習行動が記憶想起できない場合はできません.従って,まとめる前に重要なことは,エピソードがしっかりと脳に記憶されていることなのです.
食材が揃えば料理作りもできます.学習も同じことです.学習行動のエピソードが児童の脳に揃えば,意味記憶を形成する準備が整うことになります.
今回もお読みいただきありがとうございます.
現在,佐賀大学の角和博先生の授業に参加させていただき,学生さんにこのような話をしていますが,大変興味深く学ばれております.この続きは,学生さんに提示した図なども順次公開したいと思います.