記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

もう一度,記憶を再生することについて考えてみよう.その⑤

 多くの方にご覧頂き感謝いたします.本ブログで発信している内容は,実際に私が行った授業をもとに構成しています.今回は前回の続きになります.

 なぜ,まとめを保留にするのかということですが,ちょうど1年前に次のような内容を投稿していました.

www.kiokusaisei.com

 これをお読み頂いた方には伝わっていると思いますが,全ての児童・生徒が45分や50分で学習内容を理解(この定義も難しいのですが)したかは,甚だ疑問であると結論付けています.「いや,私は全ての児童・生徒に理解させています」とおっしゃる先生の言葉を否定しませんが,逆に,どうしてそのことを自信を持っておっしゃるのかお聞きしたいです.

 児童・生徒が学習内容を理解したかを簡単に確認する方法としては,直接その児童や生徒に学習内容に関する適切な質問を行い,その返答を聞けばある程度は確認できます.しかし,児童・生徒の数が大きくなればなるほど,理解したかどうかを確かめる術はなくなっていきます.しかも,それを授業中に行うのは一般的には不可能です.

 しかも,今まで標準的とされてきた1単位時間の学習過程では,授業の終盤,即ち,最後の10分間頃に言語や絵図を用いてまとめが設定されていますが,そうするとそれ以前に,学習内容の大まかな納得が児童・生徒に起こっていなくてはなりません.つまり,児童・生徒は授業を受けながら記憶想起を行わなければならないという,非常に奇妙な学習行動を想像しなければなりません.しかし児童・生徒は,学習時間の中盤には,主に教師の指示により,実験を行ったり,ノートに記録したり,話し合いを行ったり,自身の考えを発表したり,友達の意見を聞いたりなど様々な学習活動を行っている最中で,我々大人のように記憶想起と様々な作業等を同時には行うことは得意ではありません.つまり,経験した学習行動を記憶想起する間もなく,短時間に学習のまとめという経験をすることになる訳です.さらに言えば,まとめは1授業時間の事柄の印象(イメージ等)を記憶想起しながら児童・生徒自身が思考の中で行わなければ,正しい記憶として保持されません.授業時間が終わる前に,言語によるまとめを行ったとしても,児童・生徒が納得するかは疑問です.

 また,これまでの長期記憶の形成過程の研究からは,記憶想起を伴い,ある程度の時間を経て強化されるという研究成果もあります.

 次の板書は,前回の続きですが,学習の最初に前回の授業のまとめを行っています.前回では,感想を書かせて終わっていましたので,全員分の感想のチェックは既に終わっており,全体で紹介してよいと思われる感想も用意ができますし,十分に納得していない児童・生徒が誰なのかも把握ができています.また,その結果から,教師は学習の始まりにどのような事を話題として話すべきかも準備ができています.つまり,全員の理解状況を把握してまとめの学習行動に移れるのです.その間,児童は数日のブランクがありますが,睡眠を数回経験していますので,学習行動の記憶の固定化には十分な時間を経ています.ですから,教師の話次第では,言語だけで記憶想起が可能になるのです.つまり,まとめは次の授業の為に行うのです.

 このような取り組みを経て,単元内容のつながりが文脈として理解されるようになり,学習内容の因果関係が記憶に残っている印象とともに意味記憶として長く保持されるようになります.

 今回はここで終わりますが,このように授業について深く考えていく研究会などを開くことについて,佐賀大学名誉教授の角和博先生とも話し合いを重ねています.このブログをご覧いただいた皆様のご意見もぜひお聞きしたいと思っています.その時は,宜しくお願いいたします.