記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

スキーマとは③

 皆さん,こんにちは.今回もスキーマの特徴について紹介します.

 その前に,前回の復習ですが,まずは,スキーマはあらゆる種類の知識を表現しているという事と,それらが様々な関係性でリンクしているという事です.

 

 今回も,ルメールハートとノーマンの解説を用いて説明します.

 

 スキーマの特徴③

 「スキーマはスロットを持ち,そのスロットは固定された強制値で埋められることもあれば,可変のオプション値で埋められることもある.例えば,ピクニックのスキーマは,場所,食べ物,人,アクティビティなどのスロットで構成される.場所のスロットは(定義上)固定値'outdoor'を取り,オプション値(森,川,ビーチなど)を追加することができる.食べ物,人などの値もオプションで,特定の機会に応じて入れることができる(図1.4参照).スロットはデフォルト値を持つこともできる.つまり,スキーマは,特定の情報が不足している場合に,スロットがどのような値を取る可能性があるかを教えてくれる.図のエピソードでは,食べ物が指定されていないので,スキーマは食べ物スロットのデフォルト値として「サンドイッチ」を提供しています.」

 

 このような説明に対して,ルメールハートとノーマン(Rumalhart and Norman,1983)は,次のような図を提示しました.(※原著は英語表現,「図1.4」は,原著の中の図の番号)

 いかがですか,なかなか分かりにくい説明ですね.少しずつ見ていきましょう.

 「スキーマはスロットを持ち,そのスロットは固定された強制値で埋められることもあれば,可変のオプション値で埋められることもある」の説明をします.

 

 まず,スロットという言語ですが,イメージ的には変数の入る箱のようなものです.または,コンピュータのスロットのように機能を導入するための受け口のようなイメージを持たれるとよいかと思います.つまりスロットに適切な言語が入力されないと,ある事柄(ここの例ではピクニック)の説明ができなくなったり,ある事柄を定義できなくなったりするようなものだという事です.

 

 つまりここで言っているのは,スキーマ(どのようなスキーマでも構いませんが)には,その概念を構成するための要素があるということを示しながら,そのスキーマには一般的な概念として固定された値を持つものがある一方で,オプション的な値も入力することができるということを示しています.

 

 たいていの人は,「ピクニック」という言語を聞いたり見たりした段階で,脳裏には高い確率で「屋外」のイメージが浮かぶはずです.それと自然豊かな山野の風景で歩いているイメージやお弁当のイメージも想起されます.ですから,図1.4では,場所(特に屋外をイメージする人が多い)や食べ物などのスロットが紐づいているような絵図になっています.さらに,そのスロットに入る値としての初期値があり,屋外の場所としては「野原」,食べ物としては「サンドイッチ」,行く人としては「家族」,「活動」としては(ボール遊びなどの)ゲームが示されています.

 

 このように考えると,スキーマのスロットは,そのスキーマの概念を構成する要素と考えられます.ちなみに,ピクニックを国語辞書で調べると「野山に出かけて遊んだり食事をすること」と定義されています.ですから,「場所」,「食べ物」,「活動」のスロットに入っている値を以て説明されています.別の言い方をすれば,ルメールハートとノーマンが挙げた例の中で「人々」のスロットは,ピクニックを説明する場合は,さして重要でないという事になります.ただ,実際にピクニックに行くとなった場合は,「人々」のスロットは重要な意味を持つようになります.更に初期値の項目は,多くの人の持つイメージであるという事です.ただし,このイメージはRumalhart Normanアメリカの人であるので,私たち日本人とちょっと違う初期値である可能性はあります.多分日本人でしたら,サンドイッチはお弁当に代わるかも知れませんし,ゲームも別のものに変わりそうです.このように,スキーマはスロットを持っていますが,その人の文化や経験と密接に絡んでいる可能性があります.

 

 この図の「特定のエピソード」についてですが,これはエピソード記憶が関係しています.例えば,あなたに対して誰かが「ピクニックに行きましょう」と話しかけた時,あなたがもし過去にジョンやスーと森を歩いたり,景気の綺麗な場所で昼寝をしたりしたことがあったとすれば,その記憶が想起されることを示しています.ですからこの任意値は,人によって異なってきます.

 

 次に,「スロットはデフォルト値を持つこともできる.つまり,スキーマは,特定の情報が不足している場合に,スロットがどのような値を取る可能性があるかを教えてくれる」について説明します.これは記憶想起についての話です.皆さんもピクニックをした経験があると思います.その時のことを思い出して下さい.

質問①「どこに行きましたか」

質問②「誰と行きましたか」

質問③「何をしましたか」

質問➃「昼食は何を食べましたか」

 如何ですか,①から③は,ある程度はっきりした記憶がありますが,④は不確かではなかったですか.ですから,「たぶんお弁当を食べたかも」と答えられたかも知れません.その「お弁当」が日本人にとっての初期値であるという事です.

 

 今回はスキーマの特徴③について紹介しました.

 次回は特徴④と⑤を合わせて紹介しようと考えています.

 

 このブログは,特に現場の先生方に読んで頂きたく構成していますが,教育学部の学生にとっても有益な内容になっています.

 これまでの内容の中で,特に「記憶再生マップの効果」を時系列で整理したページを作りました.

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