記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

記憶再生マップの効果⑤

 今回も前回と同様に記憶再生マップを描くことで,記憶想起のみで書いた箇条書きよりも深い内容を書くことができることを自己組織化マップの結果を示しながら説明します.

 

 Bさんの箇条書き(a)

1.台風の目の下は晴れている。

2.台風は,大雨を降らせたり,強風を吹かせたりする。

3.台風が,離れた後は100%と言えるほど晴れる。

4.南から北へ動く。

5.左回り,12月,1月,6月の台風は,まっす進んで行く。

 

 Bさんは,学習直後にこの程度の箇条書きしか書けませんでした.

 最も記憶に残ったことは,最初に記述した台風の目についてです.よほど印象深い内容だったのでしょうね.台風に対する普通の印象は,大雨と強風ですから,2番目にそのことを書いたようです.そして,台風が去った後は,天気が良くなるということが記憶に残ったようです.最後に,北半球での台風の回転方向と考えられる左回転という表現と,12月,1月,6の台風がまっすぐ進むという間違った概念を書いています.こんなことも当然あるわけです.

 

この箇条書き(a)SOMがこれです. 

Bさんの箇条書き(a)のSOM

 さて,SOMを見ていきますとこの児童のこの時点での考えが見えてきます.

 このような質的データではコーディングという手法で,データを読み取っていきますが,前回は,それぞれのクラスターにテーマとして「特徴」と「被害」というテーマを与えて読み取っていきました.今回も同様のコードを中心にテーマを与え読み取ることにしました.まず,「特徴」というコードをクラスターテーマとして与えたところ,全てのクラスターのテーマが「特徴」という結果になりました.ただし,左上の3つのクラスターは,3つで台風と晴れの関係を記述しています.つまり,晴れるという言語が記述された灰色のクラスターの原因とも呼べる関係性がそれを挟む肌色とピンクのクラスターということになります.従って,この3つのクラスターで「特徴」というテーマになりました.

 これを見ますとこの児童は,5つしか箇条書きを書いていませんが,12月,1月,6月の記述を除き,だいたい学んだことの整理はできているようです.

 

 その2日後,この児童が描いた記憶再生マップがこれです.

 

Bさんの記憶再生マップ

 当時私は理科の指導をしていましたので,Bさんの箇条書き(a)を見たとき,なぜこの程度しか書けないのだろうと思っていました.実はBさんは,学習した内容をよく理解する児童だったからです.

 ところが,Bさんが描いた記憶再生マップを見て,さすがBさんと思いました.びっくりしたところは,台風のでき方を絵で表現しているところです.これは,学習内容ではありませんが,調べ学習によって学んだ知識です.それと,台風の被害も絵を多用しています.

 では,この絵は誰の為に描いたのでしょうか.実は,Bさん自身が納得するために自分に対して描いたと考えられます.例えば,「木が折れる」と記述した後,その様子の絵を描いて「確かにそうだ」と納得していると考えられます.友達や教師に対して描いているのではないかと疑いたくなりますが,そもそも記憶再生マップは自分の考えをまとめるために描いているものですから,他者に説明しているとは考えにくいのです.

 

 それから1か月後に書いたの箇条書き(b)は,(a)よりも詳しくなっていました.

 

1.台風は,まず,西に動き次に北や東に動く。

2.台風は,人間の生活に被害をもたらす。

3.台風は,風速17m/s以上のものをいう。

4.台風が通り過ぎると,ほとんど晴れる。

5.そのことを「台風一過の青空」と言う。

6.台風の出来方は,まず水蒸気が発生し,水蒸気が集まり渦が発生し,渦が成長し台風になる。

7.台風の周りは,大雨が降っている。

8.台風の周りは,強風が吹く。

9.台風の目の下は,晴れている。

10.赤道より上の台風は,反時計回り。

11.右の方,東の方が風が強い。

 

 この箇条書き(b)SOMがこれです.

Bさんの箇条書き(b)のSOM

 次に箇条書き(b)SOMを分析してみました.

 このSOMに対するコーディングとしては,「特徴」と「被害」だけではクラスターテーマが与えられないと考えましたので,左下のクラスターには「でき方」というテーマを与えました.このSOMは箇条書き(b)11個の文で構成されているので,複雑な構成になっています.記憶再生マップを描いたBさんの脳内にある意味マップがずいぶん複雑になった証拠です.しかも学習が終了して1か月後の話です.また,()()クラスターは,位置こそ離れていますが,台風一過に関してつながりがあります.さらに,()クラスターは,箇条書き(a)SOMの①~③のクラスターにある言語が,集約されていることに気づきます.結果的に記憶再生マップを描いたことで,Bさんの概念形成が促進されたと考えられると思います.

 実は,Bさんの例ではこれ以外にも,記憶再生マップの効果でお伝えしたいことがありますが,次回をお楽しみに.

 今回もお読みいただき感謝いたします.ありがとうございました.