いつもお読みいただきありがとうございます.
前回までに,小学校の実際のデータをKH Coderに読み込ませ,共起ネットワークを作成しました.
このとき使用したテキストデータは,4年生理科「すがたを変える水」での学習が終了した直後に書かせた箇条書き(a)と,その数日後に記憶再生マップを描かせ,さらにその数日後に記憶再生マップを参照しながら書かせた箇条書き(b)でした.
今回は,KH Coderを利用するときに注意が必要なことを紹介します.
KH Coderは,解析するテキストテータを細かく分解する「形態素解析」を行います.そのため,できるだけ正しい言語に分解してもらいたいので次のような注意が必要です.
1.児童が書いた文章をテキスト化する場合は,ひらがなはできるだけ漢字に変換してください.
児童が手書きした文章には,誤字脱字を含めてそのままKHCoderに読み込ませることが不可能なものが多く見受けられます.特に多いのが,ひらがなのままの文章です.そのままKH Coderに読み込ませると,ひらがなで表現された文章を正しく分解できない場合があります.
2.句読点に注意してください.
私は,論文を書くときに句点として「.」,読点として「,」を使うことが多いのですが,特に,読点として使う「,」(カンマ)が文中に入ると,それ以降の文章がKWICコンコーダンスで正しく認識されない現象を確認しています.
@kazuo reveさんのページ「KH Coderでの抽出語リストの作成方法」にも,「:」,「.」,「※」,「+」,「,」などは空白に変換するなどの注意点が記されています.ですから前回と前々回に掲載したテキストデータ(箇条書き)でも,「、」や「。」に変換して使用する方がよさそうです.
そこで,これまでに掲載した箇条書きをもとに作成した共起ネットワークの違いを見て下さい.
① 箇条書き(b)で,読点「,(カンマ)」と句点「.(ピリオド)」を使用した場合の共起ネットワーク
(例)・水は液体で,粒が寄り添い合い,集まっていると分かりました.
・水蒸気は気体で,粒が規則正しく並んでいると分かりました.
・氷は固体で,粒と粒の間が広くなっていることが分かりました.
カンマとピリオドを句読点に用いた場合(どちらかと言えば,カンマが問題と思うのですが・・・),KH Coderに組み込まれた形態素解析を行うプログラム(茶筌というものです)は,本来ならば8か所で使用されている「粒」うち,3か所のみしか抽出できなかったので,共起ネットワークには「粒」に関する共起関係は現れませんでした.
② 箇条書き(b)で,読点「、(てん)」と句点「。(まる)」を使用した場合の共起ネットワーク
(例)・水は液体で、粒が寄り添い合い,集まっていると分かりました。
・水蒸気は気体で、粒が規則正しく並んでいると分かりました。
・氷は固体で、粒と粒の間が広くなっていることが分かりました。
句読点を「、(てん)」や「。(まる)」にしたら,「粒」と「集まる」の共起関係が表示されるようになりました.それに,「上」と「温まる」の共起関係もその左に表示されるようになりました.これは,「水は,上から温まる.」という文章があり,「,」を「、」に変えたことによりKH Coderが解析できるようになったからだと考えます.
この学級を有機体として捉え,記憶再生マップを描いた後に,再び記憶再生マップを参照しながら書いた結果,幾つかの特徴的な共起関係が確認されました.赤線で囲った水の三態変化に関連した概念.青線で囲った湯気と雲や霧との関係を示した概念.特に,雲と霧はJaccard係数が0.64と非常に強い共起関係であることから,児童が雲と霧の本質を理解したものと考えてよいと言えます.さらに,オレンジ色の線で囲った部分は,水が凍ったら体積が増加することを理解した部分と言えます.このように,句読点を「、と。」で統一した方が正しい描画につながります.
3.描画する共起関係(edge)の選択に注意してください.
KH Coderの初期設定の「描画する共起関係(edge)の選択」を変更することで,知りたい共起関係が見えてくることがあります.
最小出現数を3にした場合でも,描画する共起関係(edge)の選択を60以上にすることで,見えてなかった関係を確認することができます.
2.の②で示した共起関係は,上位60でした.これを上位120にすると次のようになります.
上位60では,「粒」と「集まる」の共起関係が確認され,水や氷,水蒸気などを「粒」と捉えて,それらが集まるということを理解したものと考えられます.上位120にすると,「集まる」と「冷たい」の共起関係が確認できました.そこで,「集まる」のKWICコンコーダンスを見ると,「水蒸気は,冷たいところに行って,どんどんそこに集まると,水滴になります.」という箇条書きを書いた児童がいたことに気づきます.そのため,この共起ネットワークでは,青線で囲ったように「冷たい」と「集まる」が共起していたのです.
人間が脳で考えたり経験したことは認知できませんが,このような共起ネットワークの姿から,このクラスを有機体と考え,その概念が,どのようなつながりを持っているかを知ることができました.つまり,このクラスは,「すがたを変える水」をこの共起ネットワークのつながりのように捉えていると結論付けても,差し支えないと言えます.
この例で言えば,最もはっきりと理解したところは,水の三態変化の部分であり,それに付随して雲や霧,湯気の関係についても考えがまとまっているように見えます.その他,水を冷却した場合の体積の増加などについても理解が進んでいるようです.
PDCAサイクルの実践により何らかの結果をエビデンスとして,自分の授業に対して評価する必要があります.自分が計画して行った授業は,児童の理解につながったのでしょうか.
皆さんはどのようになさっていますか.私は以前,評価テストの点数だけで判断していました.しかし,そのような評価では不十分であることに気づき,このような手法でチェックしています.今回の授業は,これを見ると概ね予定通り行えたと判断しています.皆さんも,実践してみてはいかがでしょうか.
さて,次回は,記憶再生マップの分析は,それを参照しながら書いた箇条書き等の二次的著作物であることには違いないのですが,今回のような言語の共起関係を調べるのではなく,意味を持つ言語のイメージが脳内でどのように配置されているかを考えてみたいと思います.
今回もお読みいただきありがとうございました.