記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

授業における知識の形成過程 その⑬

 このところ毎日のように雨が降り,本格的な梅雨という感じですが,適度に降って水不足が解消されればいいですね.

 

 【7か月連続閲覧数第1位,ダウンロード数も第2位にアップ】

 拙者の博士論文は直近1年間の集計によると,ついに7か月連続で「最も閲覧されたアイテム」1位を続けています

 また,「最もダウンロードされたアイテム」では,2位にランクアップしました.

放送大学機関リポジトリより

(最新の情報は⇒放送大学機関リポジトリ (nii.ac.jp))

 このブログは主に,この博士論文で説明している「記憶再生マップ」を用いた学習効果をもとに,記事を構成・執筆しています.そして,今回の投稿で102回目となりました.このように長く続けられたのも,偏に丁寧にお読みいただいている皆様のお陰です.

 さて,今回も児童が描いた記憶再生マップを見て,その時の児童の脳内でどのようなことが起こっていたかを考えてみたいと思います.

記憶再生マップを描く場合の知識の形成過程(記憶再生マップを描く場合)

 今回考える記憶再生マップの箇所は,ふりこの1往復の時間を計算するという学習目標に対応した部分です.この目標は,算数科の「平均」の学習との関連でもあります.

 ところで,記憶再生マップの初期提示ですが,基本的には中心ノードの言語と第1ノードの言語の組み合わせで構成されます.ですから,本来ならば「ふりこの動き-1往復の時間」だけでも良かったのですが,これら2つの言語の連関では,「計算方法」が児童の脳から出力されないと考えました.例えば,「おもりの重さを変えても,1往復する時間は変わらない」など,変える条件に関する記述が多く書かれると考えたのです.そこで,通常は第1ノードまでの初期提示に「計算方法」という第2ノードを追加し,書き広げる内容を指示していたのです.このようにすることによって,この部分は,ふりこの1往復する時間を実験ではどのようにして求めたかを,記憶想起する必要があることが児童に伝わることになったのです.

 元々,記憶再生マップは,中心ノードと第1ノードの言語の組み合わせから,学習内容に関する意味を類推すると同時に,スキーマを検索し該当した概念を書き(描き)綴っていくものです.

 ですから教師としては,第1ノードの言語次第ではクイズのような感覚で児童・生徒の学習行動を構成することもできますし,今回の例のように明確な目標を与え,児童・生徒の学習行動をコントロールすることもできます.

 それでは,上の図についてもう少し詳しく説明します.

 最初に初期提示を見た児童は,そのエピソードが記憶されます(緑色のA).次に3つのノードの言語から,意味を類推するとそれらが記憶されます(黄色のA)

 この児童は,ふりこの1往復する時間を計算する方法を記憶想起しなければならないと理解したので,この単元での実験を記憶想起したことは間違いありません(緑色のエピソード記憶).なお,前回の記述を若干訂正させていただくと,この児童の記憶しているエピソードは,かなり明瞭に記憶想起していますので,緑色の濃さをもう少し濃くしなければならなかったと反省しています.そこで,上の図で「この単元の一般的な実験方法」は濃い緑色としました.なお,この場合は実験のイメージが想起されていますが,一般的にはエピソード記憶を想起しているときは,そのイメージが不確かな場合も当然ながらあります.この児童の場合,最初に「10往復の時間を…」,次に「3回の結果をたして…」,最後に「1往復の平均を…」と正確に記述しています.つまり,この部分が正確に概念化されていたことが分かります.それは黄色で示した意味記憶を想起したか,もしくは,エピソード記憶に保管されていた正しい実験のイメージを再生したからではないかと考えられます.

 ここの記述を見ると,絵図ではなく言語で正しく記述されていることが分かります.私がこれまで指導した多くの事例で経験的に分かったことは,この児童のように正しい概念が形成された児童の方が,最初から言語を利用して表現することが非常に多かったということです.

 また,この児童は,「10往復の時間を…」と書いたノードの上に付け足して,ふりこの絵を描き1往復の説明をしています.この図は,これまでも何度もお伝えしたと思いますが,教師に対して描いた図ではないということです.10往復云々と書いたことで,自身の概念を確認する意味で,自分自身に向けて描いた絵だと言えます.

 それと,この児童はおそらく記憶再生マップの最後に,第1ノードにリンクを張って,ふりこの1往復する時間が変わる条件が長さであることを書き足しています.それは,別のノードから矢印で関連付けられています.前々回のブログでご確認ください.このことも,自身に対する正しい概念の確認であろうと考えられます.

 このように記憶再生マップを読み解くと,その児童・生徒の思考過程が見えてきますし,そのことによって,児童・生徒の持つそれぞれの知識がつながりを為して更なる知識が形成されていくことを知ることができます.

 今回は,ここまでです.丁寧にお読み頂きありがとうございました.