記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

授業における知識の形成過程 その⑫

 6月も中旬.なかなか梅雨に入りません.農家の方々は,ご心配でしょう.九州北部は,明日(6/16),明後日頃に梅雨入りとの報道もあります.一方,春の運動会・体育大会を終えられた学校は,やっと落ち着いて学習できる時期ですね.

 

 【6か月連続アクセス数1位,ダウンロード数も1位に肉薄】

このブログの理論的背景である「小学校理科教育における指導方略の研究-意味ネットワーク・モデルとその発展型を用いた知識構成-」は,この半年間ずっと「最も閲覧されたアイテム」第1位となっています.このなかで博士論文は17,「最もダウンロードされたアイテム」では,3,6,7,84編が博士論文です.

 (最新の情報は⇒放送大学機関リポジトリ (nii.ac.jp))

 

 このブログでは,エビデンスをはっきりさせて書いています.

 私の周りの一部教育行政では,エビデンスのはっきりしないものも散見されますが,現場の先生方は,どの研究論文を根拠に指導されているかを確認する時間的余裕がありません.指導される方々は,どのような理論的な背景のもとで指導しているかをはっきりさせるべきと思いますが,いかがですか.エビデンスは,地位や評判では担保できません.昔はこれが結構多かったです.一例ですが,県の校長会で県の教育長がメラビアンの法則について論説し,校長は教育長の指導であることから,学校で職員に伝達したというのは有名な話です.この法則は誤りとメラビアン自身が語っていますが,当然ながら教育長や校長のせいではなく,情報を受け取りメディアに掲載した側の理解と伝え方に問題がありました.(メディアと情報の真偽に関しては,いつか話題にしたいです)

 

 さて前置きはこれくらいにして,今回は記憶再生マップを描く時の児童の脳内について紹介します.抽象的な説明よりも,具体的な事例で紹介させて頂いた方が,先生方に伝わると思いますので,前回使用した記憶再生マップを使ってみます.

 まず前回紹介した記憶再生マップですが,とても上手くまとめていましたね.この児童は,完璧に学習内容を理解していました.また,説明も上手でした.ただ,「この児童が頭が良いので描けた」という程度の評価では不十分です.

 これから数回は,この一見複雑に見える記憶再生マップを部分ごとに分析するために,児童が記述した内容を取り上げながら,なぜこのような記述ができたのかを見ていきましょう.ただ,全てを取り上げるにはスペースがありませんので,今回は下図に掲載している記憶再生マップの一部を取り上げ,残りは次回以降に分析したいと思います.

記憶再生マップを描く場合の知識の形成過程(記憶再生マップを描く場合)

 前回のブログでは,記憶再生マップの初期提示を見た児童が,脳内でどのような記憶想起を行ったかを,第1ノード「変えることのできる条件」と中心ノード「ふりこの動き」のリンクから,脳内には,第1ノード言語確認のエピソード記憶が形成され,その後,スキーマを検索する様子をイラストにしていました.この検索の成否と,記憶再生マップ作成の可否がリンクしています.当然ながら,検索に成功するということは,ほぼ記憶は残っていますので,記憶再生マップが描けます.

 初期提示のノードに書かれた言語を理解すると,意味記憶が形成されます(Aが描かれた意味記憶).これは,教師の初期提示の意味を獲得したことになる訳です.

 つまり,上の図では,「A」が記してある意味記憶(黄色)から,3つの実験の意味記憶の検索を緑の矢印で表現しています.それは,初期提示のA「ふりこの動き-変えることのできる条件」という言語のつながりから,「ふりこの動きの学習を思い出し,その中で変えることのできる条件とは何であったか」という少し深い思考を行ったことを区別するためです.つまり最初の検索は,俯瞰的に検索していると考えられます.ですから,プリントを配布してしばらくは,ほとんどの児童が何も描けないのです.一定程度時間が経過すると,一気に描き始めていきます.

 また,この初期提示には3本のリンクが描かれていました(前回の説明)ので,条件は3つであるという思考が成立していたと考えられます.このように3つのそれぞれの第2ノードに,答えの言語(ふりこの長さ,おもりの重さ,振れ幅)を的確に記入したということは,確実に3つの意味記憶が形成されている証拠になります.もしかすると,3つの実験の意味記憶が一つにまとめられているかも知れませんが,それは判別できません.

 次に,第3ノードや4ノードを見ると,絵図が描かれています.これは意味記憶というよりも,それぞれの実験のエピソード記憶を検索した結果と考えられます.これは赤矢印で示していますので,ご確認下さい.それでは,この絵図は誰の為に描いたのでしょうか.先生に見せるために描いたとお考えになるのなら,それは間違いです.このときの児童の思考では,内言,その中でも自己中心的言語が使われていたと考えるのが自然です.つまり,この絵図は自分が理解している内容を客観的に確認するために,自身に向けて記述した部分なのです.ふりこの長さと記した次のノードに,長さの違う2本の紐と,その間に左右矢印が描かれています.つまり,ふりこの長さが短い場合と長い場合の実験をしたことを確認しているのです.同様に,おもりの重さの実験では,鉛筆で塗った鉄の玉と赤ペンで塗ったプラスチックの玉を使いました.もちろん,実験で使用したプラスチックの玉の色は赤色でした.さらに,振れ幅の実験では,実験装置に張り付けられている紙の分度器を使った実験の様子を丁寧に描いています.さらに,この部分は第4ノードまで使って10°と20°の実験を行ったかのように書いていますが,この時はまだ完全に記憶想起が進んでいなかったようです.なぜなら,このクラスの実験は20°と45°で行ったからです.その訂正は,別のところで行われています.(前回を参照)

 このように記憶再生マップを丁寧に読んでいくと,児童がどのような記憶を使い,マップを記述したかを読み取ることができます.

 ただ,先生方は大変お忙しいですので,このような読み取りは毎回する必要はありません.それよりも,記憶再生マップが描けるかどうかだけを,気にして頂ければよいと思っています.

 

 次回は,同様な手法で別の部分を読み取っていきたいと思います.

 記憶再生マップは,時間も手間もかかりませんので利用してみて下さい.間違いなく,児童には好評だと思います.