6月になりました.
さて今回は,前回の続きです.前回のブログをお読みになっておられない方は,ご確認をお願いいたします.
単元学習の終了時に,先生が記憶再生マップを描く紙を配られ,児童・生徒が記憶再生マップの初期提示を見た時から,それ以降の長くても数分間に起こる脳内の変化を考えてみます.
まず,提示される記憶再生マップの初期提示について説明します.
下の記憶再生マップは,小学5年生が描いたものです.鉛筆や赤ペンで描かれた部分が,小学生の記述です.黒ペンで書いた文字は,教師が書いたものです.
皆さんがよく利用されているマッピングとは違うことが,お分かりいただけますか.例えば総合的な学習の時間などに,地域の特産品をマッピングによって書かせたりする場合がありますが,それは中心のノードに書かれた言語から,ある事柄を連想して書き広げていくいわゆる発想型のマッピングです.ところが記憶再生マップは,直近に行った学習を想起し,意味的に繋いでいく記憶想起法です.
そして,この記憶再生マップの黒ペンで書かれた言語を囲む丸形は,ノードと呼ばれています.さらに,ノードとノードを繋いでいる線は,リンクと呼ばれています.従って,このような構造をノード・リンク構造と呼びます.この図でにおいて赤鉛筆で囲まれたノードとその内容である言語は,児童に配布する紙に印刷した部分で初期提示と呼ぶことにしています.
この部分をモデル化するとこのような図になります.タイトルが書かれたノードを中心ノード,言語AからDなどが書かれたノードを第1ノードと呼びます.上に提示した実際のマップでは,「ふりこの動き」が書かれたものが中心ノード,「部分の名前」「変えることのできる条件」「1往復の時間」「1往復の時間を調べる3つの実験」が書かれたノードが第1ノード,「計算方法」は第2ノードに書かれています.
では,なぜこのような初期提示になっているのかですが,理由があります.
それは,学習者に手がかり再生を行わせようとしているからと言えます.手がかり再生とは,記憶想起をする場合に,ある言語を提示して,それをもとにスキーマにあるイメージや意味を的確に記憶想起させる手法と言えます.例えば,実際の記憶再生マップで説明すると,「ふりこの動き」と「部分の名前」という言語がリンクしています.「ふりこの動き」だけでは,単元名であることは児童は理解すると思いますが,だからと言って,何を記憶想起すればよいか分かりませんし,「部分の名前」だけでも,何の事か不明です.しかしながら,この2つの言語がリンクしていると,ふりこの動きの学習において学んだ内容で,部分と呼べるものは何であったかという記憶想起に係る見通しが立ちます.その上で,「ふりこの部分の名前であろう」という推測が行われ,この児童が描いたように,ふりこの絵を記述して,それぞれの大切な名前を記憶想起することができるのです.同じような考えで,ふりこの動きの学習(実験)において,変えることのできる条件は何であったかという視点で,記憶想起することができるようになります.
それぞれの教科によっては,直近の過去の学習を記憶想起させる言語を第1ノードとして,初期提示を構成していきます.ここのところが,教師の考えどころとなります.
まとめると,「タイトル」と「言語A(B,C,D)」のリンクによってどのようにも記憶想起させることが可能になります.ただし,タイトルは単元名にしておりまして,後ほど(長ければ数か月),学習者に再確認させる場合に,このタイトルが「手がかり再生によって記憶想起を起こさせるカギ」となります.
このように記憶再生マップにおいて,その初期提示は非常に重要な内容であり,この言語如何によっては学習者がうまく描けない場合も出てきます.
それでは本題に入り,記憶再生マップの初期提示がなされた直後の学習者の脳内で起こる変化について考えてみます.
今回は,「単元学習の終了時に記憶再生マップを描く場合 例として小単元が3つ,最終小単元終了直後に描く場合」で,記憶再生マップの初期提示がなされた直後という想定です.
ここに示した図は一つの考えですが,おおよそこのようになっていなければなりません.
なお,前回の内容も再度提示しますので,ご確認ください.
これは,記憶再生マップの初期提示後にピンときた児童の例で,中心ノードと第1ノード(第2ノード)に書かれた言語によって,教師が示した意味を理解しようとする姿と考えられます.
このような学習を繰り返し行うことで,言語の連関に敏感になってきます.
ふりこの動きの実際の記憶再生マップの例で言うならば,この児童は,中心ノードと第1ノードの言語を確認することで,「変えることのできる条件」というノードから出ている3つのリンク(この学習では,ここまで教師が指示している,下図参照)が何かを考えたと推測されます.
まとめると,記憶再生マップの初期提示後は,過去のエピソード記憶を想起することによって,なんとかして中心ノードの言語と第1ノードの言語のつながりに意味を見出すことを始めていることになります.そして我々は,このような言語どうしの関係性に目を向けられる児童・生徒を育てたいものだと思います.
少し長くなりましたが,今回はここまでにしたいと思います.丁寧にお読みいただき感謝申し上げます.
さて次回は,記憶再生マップを描いているときの脳内について考察したいと思います.