記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

スキーマとは ①

 これまで4回,授業による知識の形成過程について書きましたが,そもそもスキーマとは何かという疑問を持たれている方もおられると思いますので,今回から数回は,スキーマについて説明します.

 なお,スキーマについては現在は,様々な分野で広く用いられている言語ですが,前々回に紹介した次の書籍の説明を引用して解説します.

 

Gillian Cohen , Michael W. Eysenck , Martin E. LeVoi, “MEMORY : A Cognitive Approach” , Open Guides to Psychology , Open University Press, 1986.

 

 まず,スキーマという言語はこの本では,「過去経験に関連する貯蔵された知識(記憶表象)のまとまり」と説明されています.この中で記憶表象という言語ですが,記憶されたものを想起するときに浮かんでくるイメージや意味と考えられます.ただ,これだけではよく分からない部分がありますので,ルメールハートとノーマン(Rumalhart and Norman,1983)が挙げているスキーマ5つの特徴について紹介します.正確を期すために,引用します.

 

 スキーマの特徴①

 スキーマは,「A」という文字の形についての単純な知識から,ピクニックや政治的思想のようなより複雑な知識,そして自転車に乗るとかボールを投げるとかいった運動行為についての知識に至るまで,あらゆる種類の知識を表象する.

スキーマの特徴 ① (Picture drawn by the author)

 最初の特徴は,スキーマの概要とでも言うべきものです.書籍には言語による説明しかないので,私が図にしました.

 例えば,私たちは犬を見て犬と判別できますから,その判別のための知識,つまり,犬や猫のイメージや特徴に関する知識が脳に貯蔵されています.これらは全て過去のエピソード記憶がもとになっています.ですから,犬や猫を見たことが無い人には,これらのスキーマがありません.私たちが赤ちゃんに犬の絵を見せて,犬を表す「ワンワン」と発話するのは,「ワンワン」という言語と犬の特徴を結び付けさせていることになります.その時,学習者である赤ちゃんは,犬の絵を何度も見るたびに,その特徴を記憶します.例えば,口の飛び出し具合や耳のたれ具合,舌を出した姿などを記憶することで,「ワンワン」のスキーマが形成されていくのです.そのスキーマを持っている限りは,犬を見て「ワンワン」と呼ぶことができます.言語の意味の獲得は,このような経験を通して行われます.従って,間違った意味を獲得させられる場合もあります.授業中にある児童が,「透明は色がないことです」と発言したことがありました.これは,言語を獲得した時に,そばにいたであろう大人(?)が,「色がないので,透明」などと説明した可能性があります.

 さらに,運動行為に対するスキーマがあります.自転車に乗ったりボールを蹴ったりできる人は,それらの運動行為のスキーマを持っています.それらは成功した体験から,体をどのように使うとよいかなどの記憶が貯蔵されています.これらの記憶が貯蔵されていると,意識せずに体が勝手に動き,過去に成功した運動行為を再現することができます.ですから,自転車を運転できる人は,自然に遠くに目線を向けて,ペダルを漕ぎ,適切にブレーキをかけることができます.また,ボールを蹴ることができる人は,意識せずに適切な位置に軸足を置き,状況に合う蹴り方ができるのです.もちろんそのようなスキーマを形成するためには,練習を繰り返して成功することが必要です.

 その他,電車やバスに乗るためのスキーマやコンビニやスーパーマーケットで買い物をするためのスキーマなど,私たちが生活するためには,様々なスキーマを利用していることがお分かりになると思います.

 次回は,スキーマの特徴②です.今回もお読み頂きありがとうございました.