記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

生成AIの教育利用に関する暫定的なガイドラインについて その⑤ ~ 生成AIの正しい(?)使い方 ~

(New) 記憶の再生について考えるブログ-別版-

【前回】

 生成AIの教育利用は,利用規約の順守や個人情報保護への配慮など課題がある.また,機械学習機能のブロックにより,AIが進化しにくいという問題もある.文科省は,これらの課題を踏まえて,パイロット的取り組みを進めようとしている.

※前回の内容をBardを用いて,200字程度にまとめました.

【今回】前回書いたように生成AIに関しては,利用規約等の制限があるので,今すぐの問題ではありませんが,近い将来では必ず直面する問題ではあります.

 このことは,30年ほど前のコンピュータやネットワークの普及時と同様で,テクノロジーの進化の波が最も遅れて到達するのは教育分野であるという事です.平成初期にコンピュータが学校に導入された時も,様々な業種にはすでに導入されていました.今回の生成AIもすでに様々な分野で利用され,その効果が紹介されています.

 それでは,各学校では生成AIが利用できるようになるまで何をすべきでしょうか.

 昔は,ハードウェアの購入という財政的な高い壁があり,導入までの時間がかかるので市や町の教育委員会もあまり焦ったようには現場を指導しませんでした.一方,教育センターの研究員だった私が勤務を命じられた100校プロジェクト指定校(中学校)では,機器も導入されて研究発表会まで1年半しかなかったために,研究授業を行う各教科の先生方には,赴任当初から2つお願いをしました.1つは,パソコンとはどのような機械で,何ができるかを実際に触って理解することです.当時,スマホタブレットなどはありませんでしたし,パソコンを触ったことがない先生方もたくさんいらっしゃいました.ですから学校のパソコンをとにかく使ってもらいました.それと同時に私が,職員研修の時間にパソコンでできること(当時)を全て実際に実演し,理解してもらいました.次に,パソコンでできることを脳裏に浮かべながら,自分の教科の授業では,どのように利用できるかを考えてもらう職員研修を行いました.

100校プロジェクト(1994年7月17日 佐賀新聞)

 おそらく今回の生成AIの件も,このような事を行う必要があります.ですから,最初にAIとは何かや特に生成AIでできることは何かを理解すべきです.それが完了した時点で,生成AIが自身の授業でどのように利用できる可能性があるかを考える必要があります.

 そこで文科省ガイドラインですが,パイロット的な取組(一部の学校が対象)」に

①生成AI自体を学ぶ段階(生成AIの仕組み,利便性・リスク,留意点)

②使い方を学ぶ段階(より良い回答を引き出すためのAIとの対話スキル,ファクトチェックの方法 )

③各教科等の学びにおいて積極的に用いる段階(問題を発見し,課題を設定する場面,自分の考えを形成する場面,異なる考えを整理したり,比較したり,深めたりする場面などでの生成AIの活用 )

➃日常使いする段階(生成AI検索エンジンと同様に普段使いする)

4段階の大まかな活用ステージが書かれています.

 確かにこの通りなのですが,各学校にあっては,この手続き通り研修を行っても上手くいかない可能性も考えられます.そこのところを今回は説明します.

 これから先は,私の個人的な考えが色濃く出ますので,ご自身の考えと照らし合わせて読んで下さい.

 まず①ですが,職員研修では座学が中心となると思います.現在,学校教育への導入が話題になっている生成AIは,テキストを作成するAIですからテキスト生成AIです.生成AIに対して人間がどのようなことをすると,テキストが生成されるのか,その仕組みを学びます.利便性やリスク,留意点はグループでディスカッションしてもよいでしょう.それらの結果を,ファシリテーター役の先生がまとめれば終わりです.できれば,実際に生成AIの利用もグループで行うと,あまり得意でない先生も安心されると思います.

 このようにして,活用ステージの①が完了したとして,先生方には「生成AIとは何か」ということがどのように伝わったかです.

 まず生成AIは,非常に上手く文章を作り出すという事です.言うならば,優れた作文能力の持ち主とでも言ってよいと思います.そのことを,活用ステージ①で実感することが大切です.そのことを実感するためには,入力した内容と生成された文章を突き合わせることが重要となります.つまり,生成された文章が,あたかも人間が作ったような文章になっているかを確認することです.これは体験されるとお分かりになりますが,ほぼ完璧な日本語を作成します.ですから何回かやり取りをしていると,タブレットPCの中に賢い人間がいるように感じてしまいます.

 さて,本当の問題はここからです.それは,「生成AIの利用」と「Webブラウザによる検索」の違いを整理することが重要です.これは,多くの人が勘違いをしているところだと思いますが,生成AIを利用することは,ブラウザによる検索とは根本的に違うという事です.にもかかわらず,文科省ガイドラインにも検索に利用する例が多く載せられています.もちろん情報検索で利用してもよいと思いますが,それなら今までの通りに,ブラウザで検索すれば知りたい情報は得られます.ただ,生成AIで検索すれば,しっかりした文章で返してくれますので,探す手間が省けるのも事実です.

 実際にやってみましょう.

 (例)薔薇の種類にフラゴナールというものがありますが,その育て方を調べてみます.最初にWebブラウザで調べます.検索窓に「薔薇 フラゴナール 育て方」と記述してみました.

「薔薇 フラゴナール 育て方」の検索結果①

「薔薇 フラゴナール 育て方」の検索結果②

 次に,Bardで検索してみます.「薔薇のフラゴナールの育て方を教えよ」とプロンプト窓に記入しました.

薔薇のフラゴナールの育て方に対するBardの回答

 この例では,Web検索ではWebページのタイトルが示されますが,中身はさらにクリックしてみないと分かりませんし,手間がかかります.しかし,写真や絵図を参照することで,理解できる場合もあります.

 一方,生成AIは,フラゴナールの育て方を分かり易い文章で示してくれました.つまり生成AIの出力は,一見すると人間の入力する内容に対する完璧な回答のようにみえます.ですから,Web検索のような利用法を想定して,話が進んでいると考えられます.

 ガイドラインp10の活用ステージ②「使い方を学ぶ段階(より良い回答を引き出すためのAIとの対話スキル,ファクトチェックの方法 )」では,「より良い回答」という言語が目を引きます.ここからも,調べ学習などで行う検索としての利用を想定していることが推測されます.

 ところがテキスト生成AIは,文章を上手に作成することに特化していますから,検索に利用するのは,あまり本来の使い方ではないようです.調べ学習なら,これまで通りにブラウザで行えばいいのです.それと生成AIは,平気で嘘を並べますから,文科省もファクトチェックを行うようにと述べています.

 では,生成AIをどのように使えばよいかと言えば,生成AI利用者の助言者や相談相手としての利用です.下の写真は,そんな将来の授業のイメージで,児童とのコミュニケーションをとる生成AIが搭載されたロボットです.このロボットは,人間の子供と同じで平気で嘘もつくロボットです.現在は,タブレットの中に生成AIロボットが存在しているという想定で考えるようにします.ですから,児童が自由に友達に尋ねるように生成AIに語りかける場面を想定してやればいい訳です.

 

 この考え方は,ヴィゴツキーが述べた発達の最近接領域の考え方を,タブレット内で児童が操作する生成AIを友達に見立てて実現するものです.生成AIは児童にとって仮想的な友達です.小学生の友達だから(そういう想定で利用する),間違ったことを表示しても構いません.それよりも丁寧に一人一人の児童の相談相手として,児童が入力したプロンプトに対して返答してくれればよいのです.

 また,操作する児童は,プロンプトエンジニアリングについて学び,生成AIが示した情報に対して,「それは本当か」という目で物事を見る訓練を行うことで,ネット上の情報に対する姿勢,クリティカルシンキングを身に付けることができるのです.また,ファクトチェックについての適切な入力を行うことができるようになれば,生成AIの回答の真偽を自身が判断できるようになる訓練にもなります.

 このようなことから,教育で利用するのだから,生成AIが正しい回答を出さなければならないという見方を捨てるのもありだと考えます.児童のよき相談相手としての生成AIの方が使い勝手があると考えます.

 それと,そのような助言者や相談相手としての生成AIですから,いろんな教科の授業のどの場面で利用できるかは,考えれば沢山ありそうです.是非とも,利用が解禁されたときにすぐにでも活用できるように,今からその場面を探しておくのもよい準備かと思います.