記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

生成AIの教育利用に関する暫定的なガイドラインについて その④

【前回】

 生成AIの批判的思考力や創造性、学習意欲への影響に関する懸念は、AIに対する過大評価によるものである。生成AIは将棋などでは人間を上回る成績を出すが、他の面では人間を完全に代替することはできない。生成AIを神の声のように思い込むと、批判的思考力や創造性は育たない。また、生成AIを十分に理解して尋ねることで学習意欲は向上するが、尋ね方を間違えると学習意欲が減退する。

※この要約は,Bardによるものです.

【今回】

 このガイドラインは,有識者会議で議論された内容を基に,一旦,粗方の方針を文章化しています.それが,p4の中程に書かれている内容です.その最初に示されているのが「利用規約」になります.当然ながら,ChatGPT(OpenAI),Bing(Microsoft),Bard(Google),それぞれに利用規約があります.p15には,利用する際のチェックリスト,p16には概要とともに利用規約が明示されていますのでご確認ください.

 これを読めば,ChatGPTは13歳以上,Bingは成年,Bardは18歳以上でないと利用できないと書かれています.ですからこのままであれば,13歳以上の中学生・高校生が保護者の許可を得たうえでChatGPTを使うことができます.Bingは,保護者の同意があれば,小・中・高校生が利用できます.しかし,Bardは,保護者同意の記載がないので,小・中・高校生は利用できません.ですから,小学校でどうしても学習に利用したいというのであれば,ChatGPTBingを保護者の同意を取って利用するということになりそうです.ちなみにBingは,OpenAIとの提携により,GPT-4を利用しています.

 

ChatGPT(OpenAI)

13歳以上で18歳未満は,保護者の許可が必要.

Bing   (Microsoft)

成年,未成年は,保護者の許可が必要.

Bard   (Google)

18歳以上(保護者の同意等の文面はなし)

 

 ところが,最近,株式会社イー・ラーニング研究所が,生成AIに関しての調査を行った結果,子どものいる親世代の60%が,生成AIを教育現場で活用することに賛成していますが,残りの4%は反対,36%は分からないというように回答しました.このことを見ると,生成AIを学校で使おうとしても,保護者全員の許可は取りにくいと考えられます.許可が取れた児童は使えて,取れない児童は使えないというのはどうでしょうか.あまりお勧めできません.まだまだ,生成AIの認知度が向上しないと,児童全員が学習に生成AIを利用できないようです.

 このことに対して文科省は,「開発企業への働きかけ」として,我が国の教育利用の観点からの製品開発を要請しているようです.具体的には,フィルタリング機能の強化,個人情報保護機能の実装,教育用生成AIの開発,利用規約に関する考え方の整理等が挙げられています.(p17)

 このような状況ですから厳密にいえば,現段階で学校で生成AIを授業に利用することはできません.

 それと,さらに幾つかの問題があります.それは,機械学習です.生成AIの生成AIたる所以は,機械学習によってAIが進化する,つまり人間的にいえば賢くなるという事です.ガイドラインでは,機械学習をしない,させないように設定することが前提で,主に個人情報の漏洩を防ぐことが目的です.ですが,これではAI自体は,何も変わりません.本来ならば,人間の入力する内容,所謂プロンプトの内容を学習して,出力する内容が改善されます.具体的にいえば,小学生が小学生なりの表現でプロンプトを入力すると,その拙い表現を生成AIが学ぶことも考えられますし,小学生なりの思考ロジックも学習し,それに従って回答を生成したり,別の小学生のプロンプトの解析に生かせることにもなり,益々使いやすいシステムに変化していくことも期待できるわけです.ですから必ずしも,機械学習をブロックすることは上手な使い方とは言えず,生成AIを使っている意味があまり見いだせなくなることも考えられるのです.

 さらに,これまでは児童が生成AIを利用するときに,自身の名前等の秘匿情報を入力することに対する懸念を考えていました.しかし,NHK5月に作成した番組『生成AI 注意すべきは~「生成AI」のリスクや注意点最低限これだけは気を付けて』で述べられていますが,個人情報を扱う職種の中に教育者が挙がっていることに注意すべきです.つまり,この番組では,教育者が児童・生徒の個人情報を生成AIに入力することに関する注意喚起を行っているのであって,児童・生徒が自らの,若しくは友達の個人情報を入力することには言及していません.

 

 これは現場の教師であれば容易に想像できるのですが,普通に指導を受けた児童・生徒ならば,生成AIを授業でどのように使うかを考えれば,個人情報をプロンプトに含めるような使い方はあまり考えられません.(だからと言って,絶対にないとは言えませんが…)

www3.nhk.or.jp

 このようなことで文科省は,近い将来に向けて,生成AI等の教育利用について,パイロット的取り組みを進めようとしています.これは,インターネットの黎明期(平成初期)に,100校プロジェクト等のパイロット的事業(当時は通産省と文部省による)に似ていますが,それに比べると今回はネットワーク機器等の環境を設置する必要もなく,事業の規模は小さいのではないでしょうか.

 ちなみに私は,当時,100校プロジェクト指定校に勤務しており,その担当として,日本で初めてのテレビ会議による授業を行いました.このときは地元の佐賀大学との共同研究という形でした.そして,それぞれの地区での研究が東京の全国規模の会議で紹介されたことを思い出しましたが,全国的にそれらの知見が広がるのに10年程度は要したと記憶しています.

 さて,今回はここまでですが,そうするとプロジェクト校以外の学校は,どのように準備する必要があるのでしょうか.次回は,そのことについて紹介したいと思います.今回もお読みいただきありがとうございました.