前回は,「思考力」という言語のイメージを紹介しましたところ,多くのアクセスを頂き感謝いたしております.
佐賀大学の角先生にもご説明したところ,「国語や算数など,具体的な事例が欲しい」ということでしたので,最後に少しだけ考えてみたいと思います.
今回は,博論のp17 L9~p19 L7までを,簡潔にまとめてみます.
【研究の意義】
①確かな学力の本質は,獲得した知識や既存の知識が連携して新たな知識になることが重要.
②従って,獲得した知識を概念化するプロセスを学習過程に位置付けることが必要.
③しかし,児童・生徒が知識を概念化したプロセスは客観性に欠けることもあり,さらに再構成し,他者の納得を得る学習過程も必要.
④このようなことを為すためには,記憶を想起(再生・再認・再構成)する学習行動を学習過程に位置付ける必要がある.
⑤実際の授業での記憶想起は,全てが個人的な枠組みの中でなされる必要があり,具体的には,手がかり再生によって単元の学習中に児童・生徒が経験したエピソードや既有の概念を表出して確認する.このような学習はほとんどこれまでなされていなかった.
⑥本研究は,ヴィゴツキーの内言観と佐伯胖の「わかる」の解釈に依拠している.
⑦従って,児童・生徒が知識の獲得を受けて科学的概念に向けて思考するためには,自己中心的ことばを以て思考することが重要となる.
①を図にすると次のようになります.K1~K10は,スキーマ内の知識です.
(注) 目のイラストは,思考の目(Eye of Thought)です.
まず,課題(P)を理解した後,スキーマを検索し,関係する知識を探します.説明の都合上,K1とK7を課題に関係する知識としています.
また,この図は同時に多くの知識が想起されているようになっていますが,基本的には関係のありそうな知識を一つずつ見ていると考えています.
関係すると考えた記憶が一つずつ想起され,順次それらを見ている様子を動画で示すことができなかったので,このような表現にしています.
さらに実際の授業では,教師のどのような発話で記憶想起させるかがポイントとなりそうです.
課題と直結する知識K1とK7が,非常に近いところで想起され,新たな知識が生成されることがあります.また,関係のない知識(K1とK7以外)は潜在化します.
簡単な例で考えてみます.
直角三角形の面積を考える場合,当然ながら公式はまだ知らないのですから,単位面積(K1)について記憶想起したり,四角形の面積(K7)を記憶想起したりするといったことです.
自身の脳内にある直角三角形のイメージの近いところに四角形のイメージを置いて考える場合などが,この図に近いと考えます.実際には,不確かな念頭操作だけでなく,ノートに図形を記述しながらの思考ということになると思われます.
(注)直角三角形の面積を初めて考える児童の脳内イメージです.矢印は脳内で,思考の目が記憶想起した知識を見ていることを示しています.
このような記憶想起を起こさせるためには,教師側からの適切な発話が必須となります.
例えば,
「これまで勉強したことで,直角三角形の面積を求めるために使えそうな内容は,何かありますか.」・・・・(a)
「四角形の面積を求める公式は,直角三角形の面積を求める時に使えそうですか.」・・・・(b)
「直角三角形の面積は,どうしたら求められるでしょうか.」・・・・(c)
など,色々と考えられます.
このなかで児童が一番苦労するのは,(c)ですし,脳内に関係するイメージが比較的楽に記憶想起されるのは,(b)です.
児童がどうしても自力で解決策を発想することが必要だと考えられる場合は,(c)のように発話すればよいですし,記憶想起させた内容と課題との関係性を重視させたい場合は,「四角形の面積の公式を使ってみたらどうか」と助言するのもありでしょう.
いずれにしても,このように既存の知識と獲得した知識を関係づける思考を行わせるには,授業において常に記憶想起をさせるように指導の中身を考える必要があります.