記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

確かな学力とは何か?~文科省の定義と脳科学からのアプローチ~

 いつもお読み頂きありがとうございます.

 今回は,「確かな学力」ついてもう少し解説します.

 少々込み入った話になりますが,学力の本質を理解するためにも,宜しくお願い致します.

 私は博論で「生きる力」に直結する「確かな学力」とは,「獲得し,そこにある知識ではなく,新たに獲得した知識を既存の知識と関連づけ概念化するプロセスを経て培われるもの」というように定義しました.

 一方,文科省の定義では,「知識や技能はもちろんのこと,これに加えて,学ぶ意欲や自分で課題を見付け,自ら学び,主体的に判断し,行動し,よりよく問題解決する資質や能力等まで含めたもの」としています.私は現職の頃,この定義をよく理解できませんでした.

 なぜなら,「知識を持っていても,それを使えなければ,だめじゃん」と考えていた訳です.つまり,「学」と言っている以上は,何らかのmovement(動き)がある訳で,「知識」自体には動きはありません.

 

 この学力について,過去の識者の定義も含めて,よくまとめられている東京家政大学の鵜殿篤(うどのあつし)さんが主宰されているブログが参考になります.

「学力」とは何か?―学校教育法の定義と背景― | 眼鏡文化史研究室

 

 一方,次の図は,文科省による学習指導要領改訂時に参考にされていたCCR(The center for curriculum redesign)の,学力に関するフレームワークです.

「Four-Dimensional Education」に記載されている統一フレームワーク

 

 文科省は,このフレームワークから次のような読み替えを行ったということです.

 

 この読み替えには,私は同意できません

 なぜなら原文には,「世界中の35の管轄区域と組織からのカリキュラムを統合し,教師や管理者からの意見,および雇用主,経済学者,未来学者の期待に関するレポート」とともに作成した旨の表現があるからです.

 また,知識に加えて12の能力のリストを作成したとも書いてありますが,文科省が加工した上の資料には,スキル・人間性メタ認知の能力を合計しても10しか無く,さらにメタ学習のタイトルがメタ認知に変更され,具体的な能力を省いてあります.

 

 これらに加えて,メタ学習(文科省メタ認知と変更)は,背景化していますので人間性等とは,同列ではありません.つまり,学び方を学んだ後の話ということになると思います.

 私は,CCRが提示したフレームワークを,そのまま活用した方が分かり易かったと思っています.

 なぜならば,「個別の知識・技能,思考力・判断力・表現力等,主体性・多様性・協働性・学びに向かう力・人間性など」と言語化した時点で,フレームワークのイメージが不明となり,先生方によく伝わらないからです.

 

 ただ,我々は教員ですので,「個別の知識・技能,思考力・判断力・表現力等,主体性・多様性・協働性・学びに向かう力・人間性など」が学力に結びつくことは,百も承知です.言ってみれば,当たり前です.

 以前も言ったかと思いますが,人間は「言語」で情報をやり取りしている以上,その言語の概念が同じでないと正しく情報は伝わりません

 例えば,「思考力」という言語がどのような意味や概念を持つかは,人によって異なります.インターネットで検索しても,言語を言語で説明する図はありますが,イメージでの説明は見たことはありません.

 

 そこで「思考力」のイメージを考えてみました.なお,このイメージは,脳内のニューロンに保管されている記憶の所作をもとに,短時間で考えたもので,今後修正する可能性はあります.

 

 

https://drive.google.com/file/d/1pNEMUEVFLjH7As0Un4RSrbUSawZ9h2aY/view?usp=sharing

 

 脳内で行われている記憶をめぐる「思考の目」による検索や関連づけは,このような事と考えられます.ですから,4の検索が早い児童・生徒や,5の解の構成に長けた児童・生徒は,解の生成が早く,一般的に「頭がよい」などと判断されます.

 

 しかし一方で,様々な関連する記憶を広く見渡すことも,思考力の大切な要素と言えるでしょう.これは熟考につながります.

 

 脳のこのような仕組みを知れば,学校教育においてどのようなプラクティスを行わなければならないかお解りになると思います.

 

 私が博論で,確かな学力を「獲得し,そこにある知識ではなく,新たに獲得した知識を既存の知識と関連づけ概念化するプロセスを経て培われるもの」と定義しましたが,「知識の検索や関連づけ」が学力向上には非常に重要になる訳です.

 

 つまり,このブログの名前にもあるような,記憶の再生(=記憶想起)が学力向上には必須ということになります.

 

 なお,「思考の目」という言語は,私が勝手に名付けました.

 国語科の詩の指導などで,「心の目」という言語を使われることと同じようなものですが,実際に指導に使われる時には,「思考」という言語の持つアカデミックさを利用された方が上手くいきそうです.

 

 「思考のイメージについて考えてみました」は,上のリンクからA4版のファイルとして取得することができます.

 

 また,判断力や表現力等は,どのように考えればよいか,皆さんも,一緒に考えて下さい.

 

 長くなりましたが,今回はここまでです.