前回の最後に,
「児童・生徒が学習内容を決められた時間で分かるようになるかは,甚だ疑問である」
と書きましたが,多くの現場の先生方は納得して頂けると思います.
児童・生徒が10人いたら,学習後の10人の理解と,その理解に要する時間は違います.過去に学習した内容が概念化されている児童は,比較的早い段階で「あ~ぁ」と呟いたり,表情の変化が見られたり頷いたりします.
こう言うと語弊があるかもしれませんが,授業は言わばお芝居ですから,その結末は用意されています.
演劇が誰でも同じ結末を味わうことができる反面,その感動の程度は観客の経験に左右されます.同様の経験をした人は,同情したり共感したりするでしょうが,そうでない人は,冷静に終末を味わいます.
授業も同様で,児童・生徒の経験や持っているスキーマ(心理的な描写)の内容で,理解したりしなかったりです.
児童の頭の中で,授業のストーリーは流れていますが,その児童が持っているエピソード記憶や,意味記憶の内容が違うことと,授業での納得の仕方もバラバラですから,そのストーリーから教師の意図を汲み取り,結論を推測する児童や,また,自身のエピソードに影響されて,情意面の動きが活性化する児童では,ゴールの見え方が異なります.
一方で,無理やり納得させようとすると上手くいきません.本当に,様々な経験が極端に少ない小学生の指導は難しいと感じます.
ひとつの単元の指導が終わる頃には,児童の脳には経験した多くのエピソード記憶や幾つかの意味記憶が残ります.実験の様子をしっかりと想起できる児童が,そうでない児童よりも学習の内容をよく理解していると考えられますが,それよりもその実験の意味を開口一番に発話した児童の方が,学習内容をより理解したと考えられます.そのような児童は,意味を述べた後にどのような実験だったかを正確に説明できます.これを具現化したものが,記憶再生マップであり,まだ理解していない児童には学習の終了後に描かせ,自身のエピソード記憶と向かい合うことで意味を見い出させているのです.
脳は,時間をかけて獲得した知識を整理するという仕組みからも,全ての児童・生徒が学習内容を決められた時間で分かるというのはあり得ないのです.
ここまでの何となくのまとめ
「授業という演劇を理解するためには,時間がかかる」
今回は,ここまでです.お読みいただきありがとうございました.