記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

児童の誤概念の修正の実際

 今回は児童の誤概念の修正についてです.実は,ついこの間も私が武雄市の市教育研究大会の理科部会で,児童の概念形成過程を記憶再生マップでおこなったとき,3名の児童は自分の誤概念に気づき修正したと言っていました.これまでの実践で得られた誤概念修正の例を見ていきましょう.

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誤概念の修正例①

 これはこれまでもお見せした例ですが,「おもに北から」という部分を,「おもに南から」に変更したり,「南」という文字を「北」に変更したりしています.赤ペンで修正していることから,記憶再生マップを描き上げてから,教科書やノートの記述で確認を行い,修正を施したことが読み取れます.つまり,誤概念に児童自身が気づくには,教科書やノートなどと比較する必要があります.

 しかし,誰でも比較すれば間違いに気づくかと言えばそうではありません.児童一人ひとりで認知度に違いがありますので,気づかない児童もいます.ですから,気づく児童もいるという程度かもしれません.しかし,それでも今までのやり方に比べれば,児童自身が気づくと指導者としては,大変助かるものです.

  次の事例は,間違いではないのですが,児童が自身の記憶再生マップを描き上げた後,教科書やノートの記述と比較し言語を追加した例です.記憶再生マップを描いたときは,「台風が発生したら,西に動き,そして北に動く」と概念化していたようです.これだけでも,学習の成果としては十分価値がありますが,この児童は,記憶再生マップの記述に与えられた時間が余ったことから,教科書やノートの記述と自身の記憶再生マップを比較しています.これも,赤ペンでの修正であることで,教科書やノートを参照したことが分かります.

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児童の誤概念の修正②

 このことにより,「水蒸気が上昇し,積乱雲が発生することで台風が発生し,最初の動きとして西に動くが,南から北への動きもある」ことを概念化したことが読み取れます.この中で「水蒸気が上昇し,積乱雲が発生する」の部分は,小学生に対する指導内容を超えた部分ですが,児童が調べ学習で記述していたことで教師が取り上げて説明した内容です.もちろん,水蒸気については4年生,積乱雲は5年生で学習しますが,断熱減率などについては学習しませんので,水蒸気が上昇することで雲が発生するという事実のみを学びます.この例は,自身のノートと友達の発表から概念をより良いものに修正したと言えます.

 次の例は,6年生の「水溶液の性質」の例です.授業では,3Mの塩酸にアルミ片を入れて溶ける様子を観察しました.そのことを自身の記憶をもとに記述しましたが,経過時間や様子の記述がノートの記述と異なっていたために修正したものです.観察では,経過時間と試験管の中の態様を逐一記述しましたので,この児童は,記憶再生マップを描く段階で記憶の中で溶ける様子を見たものと思われます.それだけでも十分な気がしますが,自身のノートの記述との時間のずれと態様の違いを修正しました.おそらく,他の児童よりも詳しく実験の様子を説明することができると思います.

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児童の誤概念の修正③

 次の例は,6年生の「月と太陽」の学習の例です.左側の絵の方角が間違えていましたので,修正しています.さらに,上弦の月下弦の月について言語を追加しています.これも,ノートを参照して間違いを訂正したことが読み取れます.左回りに描かれた矢印は,月の日周運動を描いたものではありません.地球の自転を北極から見て描いたものです.この児童は,月の形が地球・月・太陽の位置関係でなぜ変わるかを理解しているようです.おそらく,記述した時は自信を持って描いたと思いますが,その後不安になりノートの記述を確認して自身の間違いに気づいたものと考えられます.つまり,間違いに気づくためには信じ切っていたらだめだということです.ですから,記憶再生マップを描き終えても,それを内省するために懐疑的に見るクリティカル・シンキング(critical thinking)が必要であるということになります.

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児童の誤概念の修正④

 次の例も6年生です.水溶液の性質での修正例です.この修正は,この児童が自身の記憶再生マップを全体の前で発表したことにより判明したものです.発表は,記憶再生マップを読みながら行いましたが,中性のリトマス紙の変化のところで「無色」と発言したのを教師が最後の評価のところで,「無色よりも変化なしの方がいいですね」と発言したことにより児童が修正したものです.このように自身の発言を他者が聞くことにより,他者の指摘を受けて修正することがあります.一般的には記憶再生マップを学習で利用する場合は,描いた後に,隣同士の児童で互いに説明を行いますが,現在のようなコロナ禍においては,あまり接近してそのような活動を行うことができません.しかし,他者に説明することで他者の目で自身の記憶再生マップを見てもらうと,自身が気づかなかった誤概念を指摘してもらえることがあります.そのような学習行動もぜひ授業には取り入れたいものです.

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児童の誤概念の修正⑤

 今回は,記憶再生マップを描いたことで児童自らが誤概念に気づき修正を施すといった例を紹介しました.主体的・対話的で深い学びと言われますが,これは至極当然なことで,ここで紹介した学習行動は,児童が自身の記憶した知識・経験を呟きながら(自己中心的言語)記憶再生マップに描き表し,描いた多くの記憶内容を懐疑的な目で見て,不安がよぎって焦点化された箇所を教科書やノートの記述と照合し,修正・追加等を行いました.まさに主体的であり,対話的(自己と他者)であり,深く学んでいる姿と言えます.

 今回はここまでにします.次回は,いよいよこれまでの記憶再生マップの研究によって得られたエビデンスを紹介していきます.ここまでお読みいただきありがとうございました.