記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

児童の誤概念の修正について

 今回は児童の誤概念についてです.

 学校の教員ならば,評価テストを行いその結果に様々な思いを持ったことがあると思います.小学校では,テスト業者が作成した評価テストを購入しています.テストはカラーで印刷され,視認性もよく,児童が学習によって学んだ内容についての問題が書かれています.特に,理科では実験・観察などの様子が写真や絵図によって分かりやすく描かれています.児童は問題を読み,写真や絵図を見ながら解答することになります.その方法は,①幾つかの選択肢から正解の選択肢に〇や×を付ける,②与えられた絵図や文章に適切な記号を割り振る,③空白の箇所に適切な言語を書く,④質問された内容について文章で解答するなどがあります.

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小学校の評価テストの例1

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小学校の評価テストの例2

 問題の難易度は,単元にもよりますが,学習した内容を正しく概念化した児童にとっては,解答に悩むような問題はなく,既定の解答時間の早い段階で終えることができます.解答時間は,概ね30分程度となっていますので,その程度の問題だとお考え下さい.

 これまで多くの児童の解答を見てきましたが,学習により獲得した知識の概念化ができていない児童は,非常に奇妙な回答行動をとることがあります.例えば,ある問題の解答が,アとイの選択で正解がアとすると,不思議とその反対の記号イを選択するケースがよく見うけられます.さらに,同様の問題が続いて出題されていても,全て不正解を選択することもあります.児童の中には,勘で記号を選択した子もいるでしょうが,それでも全て間違いを選択した児童がいたこともあります.

 ここで重要なのは,その児童が,思考し内なる納得を経て出した結果としての不正解か,その他ヒューリスティックスなどによる不正解かという議論です.

 練習問題の時間にそのような児童にインタビューしたことがあります.二酸化炭素の入った集気びんに石灰水を注ぐ実験の結果として,白濁した様子の写真Aと白濁していない写真Bが提示された問題で,「実験した時に,どちらの写真のようになった?」と聞いたところ,悩んだ末に白濁していない方を指さしたことがあります.

 まず,悩むということは概念化できていないと考えられます.概念化できていれば,問題文を読んだ段階で,無意図的に白濁した石灰水の姿が記憶想起されます.このような児童は,上位概念を想起しません.ところが概念化が十分でなくとも,実験に対して正しく向き合った児童は,その時の映像を記憶の中で見ることができます.この児童は,理由を説明できませんが,実験の結果である白濁した方を選ぶことができます.驚きや感動,楽しさなどの情意面の記憶があるからです.

 一方で,その子がどの瞬間を受け止めるかということも関係してきます.石灰水を入れて振った後の様子なのか,その様子を見ていたけれど石灰水を入れた瞬間は白濁していなかったので,その瞬間を記憶に留めたことも考えられます.教師は,どのような時に確認するのかは,ちゃんと発話し注意を促しますが,聞き取りが不十分な児童はいます.

 従って,学習する時には,教師の発話をしっかりと聴くことができる学びの姿勢が必要なのです.また,教師が板書する内容をきちんと納得してノートテイキングできることが大切です.

 また,小学校での誤概念と中学校での誤概念には違いがあるかもしれません.なぜなら,どちらかと言えば中学校では論理が介在するからです.例えば,U型磁石と電気ブランコで構成される実験装置で,導線に流れる電流によって,ローレンツ力(りょく)がどの向きに働くかは,フレミングの左手の法則を適用することによって導くことができます.

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左手の法則のイラスト

 

 これを実験の結果で暗記してもいいのですが,その映像はかなり複雑になります.しかも3次元となると,実際に左手を使わなければなりません.中学校時代の記憶で,この場面の中間テストか期末テストがあったことを思い出します.それは,多くの級友たちがテスト中に左手を色々な向きに動かして苦労しながら考えていた姿です.ちなみに,私は,問題を見ただけで答えを出せる方法を思いついていたので,左手は使っていません.(^^;)

 誤概念については,様々な研究がなされています.例えば,坂本さん,中村さんの研究を見ると,論理的思考力のある者は誤概念を支持しにくいという結論を導き出しています.

「誤概念の支持のしにくさと論理的思考力の関係」(坂本司毅,中村元彦,2014)

 児童のテスト結果を見ると小学校でも同様のようです.先に書きましたが,誤概念を支持する児童は,概念化ができていないと考えられるのは坂本さんたちと同じです.ただ,小学校の場合,論理の介在がほぼないので,記憶から得るものは授業で見た映像です.

 誤概念を生まないように授業を工夫することは可能ですが,ゼロにすることは不可能です.しかも,個々の児童はそれぞれ特性が異なりますので,これといった授業の方法が必ずしも合うとは限りません.まさに個別最適化という議論が必要になりそうです.そろそろ学校教育の方法も変わってくるかもしれません.

 一方で児童の誤概念をどのように修正すればよいかという議論も必要ですが,児童自身が修正できればいいですね.次回は,このことについて具体例を挙げて説明します.長くなりましたが今回はこれで終わりにします.最後までお読みいただき,ありがとうございました.