記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

手がかり再生とエピソード記憶について

 またまた前回の書き込みから時間が経ってしまいました.この間,学会の年会資料の作成を行っておりました.まだまだ時間がかかりそうなので,一旦こちらの記事を書きます.

 今回の記事は,手がかり再生における再生内容(エピソード記憶)の話です.何らかの手がかりを基に記憶想起することを手がかり再生と言います.例えば,「昨日の授業では,どのようなことを学びましたか?」と,児童に問いかけた場合を考えてみましょう.児童は,昨日学習した教科について考えますが,6つも授業があったのでどの教科か分かりません.ついには,「先生,何の時間のことですか?」と発言する児童が出てきます.そこで,「算数の授業です.」と発話すると記憶想起が活性化してきます.この算数という言葉が,記憶想起を行うエピソード記憶の内容を明らかにしてくれます.さらに,授業でまとめを板書した辺りを指し示すと,さらに想起する記憶が焦点化されます.

さて,このような手がかり再生の仕組みを利用した記憶再生マップですが,詳しく調べてみると次のようなことが授業の実践で分かってきました.

 まず事前に,水50mLに食塩が何g溶けるかの実験を行っていたことを理解して下さい.その場合,それぞれ5gずつ食塩を溶かす実験を複数回行いました.

結果:1回目5g溶けた,2回目5g溶けた,3回目5g溶けた,4回目5g溶け残った.

 この時児童に描かせた記憶再生マップの中心ノードと一つの第1ノードは,次のような関係でした.

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記憶再生マップの初期値

中心ノード(=ものの溶け方)-第1ノード(=溶ける量)

 赤線で囲った2つのノードのリンクを児童が見たとき,文脈を読み取ります.つまり,「ものの溶け方の授業で,溶ける量の実験を行ったなぁ」と感じた児童は,この文脈が手がかりとなり,経験した記憶を想起する事になります.一見するとなぞかけのようなノード内のトピックのつながりですが,児童が文脈に気づいた時の喜ぶ顔はいつ見ても気持ちの良いものです.ですから,明らかに分かりやすい言語ではなく,少しだけ考える時間を与えられるような言語の方が,達成感を味わうことができて児童には喜ばれます.

 この文脈について考えると,溶ける量とは何かということで記憶痕跡にある溶かした経験やその量に留意した経験が検索されるのです.そして,食塩を5gずつ溶かしていったことや,その実験を4回行い4回目は溶けきれなかったという経験を呼び起こすことになります.ですから,第1ノードのトピックが児童の経験にある具体的な経験内容を狙って設定された場合は,次の第2ノードからはエピソード記憶の比率が圧倒的に高くなります.実際の実践では半数以上の児童がエピソード記憶を想起していることが確認されています.

 今回はここまでにします.お読みいただきありがとうございました.