記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

記憶再生マップの効果⑦

 5月に運動会を行う学校が増えてきました.本校も5/22()が運動会でした.このところ5月に行っても,夏休み明けに行うのと同じように暑い日が続き,5月開催の意義が薄れているようです.

 さて,今回も記憶再生マップの効果について紹介します.

 これは,「記憶再生マップを利用した箇条書きの変化と自己組織化マップによる判定法の開発」に記されている自己組織化マップについてです.

 自己組織化マップ(SOM)は,分かりやすく言えば,ある情報を与えた場合の人間の脳が情報を整理して保存する様子をモデル化したものと言われています.だから,それを見るとその人がある事柄に関する情報をどのようにまとめているかを,何となく知ることができます.

このことは,学校教育にとってはsensationalなことです.

 これまではテストを行い,その得点によってその人の理解の具合を推し測っていました.つまり,問題が解けるかどうかが問題なのです.小学校でも,その問題が解ければいいのですから,単元の学習が終了した直後にテストを行ったり,練習問題をした後に本番を行ったりしています.極めつけは,4月に行われる学習状況調査の前には,過去問を解かせて慣れさせた後に本番を行うなど様々です.このようなことで,日本の学力は維持されています.このやり方も一理あって,同類の問題に慣れることは,確かに学力のような気がします.

 今回の内容は,学習が終了した直後に児童が書いた箇条書きから作成した自己組織化マップと,その後に描いた記憶再生マップを参照して書いた箇条書きから作成した自己組織化マップを比較します.以前も同様の記事を書きましたが,今回は学習内容の理解が早い児童と色々なことに拘りがあるが丁寧に記憶再生マップを描く児童の記憶再生マップを見ていきます.つまり児童の特性によって,自己組織化マップは,どのように変わるかというテーマです.

最初は,色々なことに拘りがあるが丁寧に記憶再生マップを描く児童です.この児童が書いた箇条書きは,学習終了直後は,箇条書き(a)で示したように,4つの文のみでした.

色々なことに拘りのある児童が書いた箇条書き

 その内容も,学習直後にしては,自身が学習で気になったと考えられる内容のみです.最初に書いた文が,台風一過に関するもので,多くの学習内容を整理できていないことが分かります.一方,一か月後に記憶再生マップを見ながら書いたのが右側の箇条書き(b)です.明らかに表現の質が上がっていることが分かります.それと,左側にはなかった「台風の被害」に関する記述が増えています.

 この2つの箇条書きをKH Coderで処理し,自己組織化マップを作成しました.

色々なことに拘りのある児童の自己組織化マップ

 左が学習が終了した直後の情報の整理具合で,右が一か月後の情報の整理具合と考えられます.これを見ると,評価テストを受けるときは左のような状態ということになります.このことから考えられることは,児童の情報の整理具合は,記憶再生マップを描いたり見たりすると変化するということです.

 次に,学習内容の理解が早い児童ではどのようになるかを見ていきましょう.

この児童の箇条書きの変化です.

理解力のある児童が書いた箇条書き

 この箇条書きを読み比べても,その質の違いにあまり気づきません.つまり,この児童は,学習終了後でも多くの知識を保持していたことになります.

 これらから得られる自己組織化マップは,このようになります.

理解力のある児童の自己組織化マップ

 これを見ると,学習終了後でも学習によって得られた情報がきちんと整理されていることに気づきます.さらに,右側の一か月後に書いた箇条書き(b)による自己組織化マップは,新たな情報が整理されていることに気づきますが,整理具合はしっかりしたものです.つまり,理解力のあると捉えられる児童の脳は,このように情報を上手く整理していると言えます.だから,教師の質問にも的確に答えられるのです.

 なお,詳しい内容は,

researchmap.jp

をお読みください.

 今回は,これで終わります.ここまでお読みいただきありがとうございました.

 次回は,今回の流れで,様々な児童の自己組織化マップの変化を紹介したいと思います.

記憶再生マップの効果⑥

 今回は,前回のBさんの記憶再生マップとそれを見ながら書いた箇条書き(b)についてです.

何をするかと言えば,箇条書きは順番に書かれたものですから,Bさんが記憶再生マップをどのような順で見たかということを検証してみます.

 次の図の記憶再生マップに付けられている〇や楕円は,Bさんが箇条書きに取り上げたノードです.

記憶再生マップと箇条書きの関係

 この図で,手書きの数字(赤文字)とテキストの数字は10番の箇条書きの前半までは対応しています.10番の箇条書き後半は手書きの11番,最後11番の箇条書きは手書きの12番と対応しています.

 もう一度確認しておきますが,この記憶再生マップは1か月前に描いたものです.そして,記憶再生マップを参照しながら書いた箇条書きがこれです.その間,記憶再生マップは児童の手元にはなく,台風に関係した学習もしていません.ほとんど記憶再生マップを描いたことも,忘れている状態でした.

 この児童は,赤の1番を参照してテキスト1番の箇条書きを書き始めました.次に,台風の被害について,多くの絵を描きましたがそれらをまとめて台風が人間の生活に被害をもたらすと記述したのです.これは,上位概念ですので概念化が促進されたと考えられます.ところがこの後,この児童は記憶再生マップには描いていない知識(風速17m/s等)を突然書き出しています.小学校の理科では,この知識は指導内容にありませんが,授業の中で調べた内容を1か月間も記憶していたようです.それは,台風が様々な被害をもたらすという怖さやその風力の大きさに心動かされたことが原因なのかもしれません.学習において驚いたり,感動したり,気づいたりなど,情意面で心が動くことは学習を理解するためには大切なことです.従って,この児童は,大きな被害をもたらす台風の原因として,この17m/sという風速を書き自分自身のまとめとしたと考えられます.

 次に,赤の4番に目を移し台風が通り過ぎたら晴れるという記述をしたところで,青の5番である台風一過という表現を記述しました.これも1か月間ずっと記憶していた概念です.その他にも,青の8番と10番の知識を適切に記述しました.

 これらの事は,過去に記述した記憶再生マップを読むという学習行動が,児童自身が記憶していたこの学習に関連する事柄に対してアプローチしたことの証明になりますが,おそらくこのような記憶想起は,概念化されていれば無意図的に行われます.このアプローチは,関係性の気づきがキーワードになると思います.

 このように青の数字で示した内容のような記憶は,おそらくはもっと沢山あると考えられますが,想起の機会がない場合は,自然と消去されていくのでしょう.記憶再生マップは,この例のように,それを読むことで関連する概念を表出させることができることが示されたと言えます.

 記憶再生マップを描かせたのなら,時々は,それを利用すると様々な関係する知識等が消去されずに記憶の中に留まることができるかもしれません.今回は,記憶再生マップが潜在記憶の顕在化に対して有効であることの一例を紹介しました.次回も,記憶再生マップの効果について紹介していきたいと思います.

 ここまでお読みいただきまして感謝申し上げます.

 学校現場は,新年度になり授業も始まっていますが,日々楽しく授業をしています.何かお気づきの点などありましたらお知らせ頂くと幸いです.

記憶再生マップの効果⑤

 今回も前回と同様に記憶再生マップを描くことで,記憶想起のみで書いた箇条書きよりも深い内容を書くことができることを自己組織化マップの結果を示しながら説明します.

 

 Bさんの箇条書き(a)

1.台風の目の下は晴れている。

2.台風は,大雨を降らせたり,強風を吹かせたりする。

3.台風が,離れた後は100%と言えるほど晴れる。

4.南から北へ動く。

5.左回り,12月,1月,6月の台風は,まっす進んで行く。

 

 Bさんは,学習直後にこの程度の箇条書きしか書けませんでした.

 最も記憶に残ったことは,最初に記述した台風の目についてです.よほど印象深い内容だったのでしょうね.台風に対する普通の印象は,大雨と強風ですから,2番目にそのことを書いたようです.そして,台風が去った後は,天気が良くなるということが記憶に残ったようです.最後に,北半球での台風の回転方向と考えられる左回転という表現と,12月,1月,6の台風がまっすぐ進むという間違った概念を書いています.こんなことも当然あるわけです.

 

この箇条書き(a)SOMがこれです. 

Bさんの箇条書き(a)のSOM

 さて,SOMを見ていきますとこの児童のこの時点での考えが見えてきます.

 このような質的データではコーディングという手法で,データを読み取っていきますが,前回は,それぞれのクラスターにテーマとして「特徴」と「被害」というテーマを与えて読み取っていきました.今回も同様のコードを中心にテーマを与え読み取ることにしました.まず,「特徴」というコードをクラスターテーマとして与えたところ,全てのクラスターのテーマが「特徴」という結果になりました.ただし,左上の3つのクラスターは,3つで台風と晴れの関係を記述しています.つまり,晴れるという言語が記述された灰色のクラスターの原因とも呼べる関係性がそれを挟む肌色とピンクのクラスターということになります.従って,この3つのクラスターで「特徴」というテーマになりました.

 これを見ますとこの児童は,5つしか箇条書きを書いていませんが,12月,1月,6月の記述を除き,だいたい学んだことの整理はできているようです.

 

 その2日後,この児童が描いた記憶再生マップがこれです.

 

Bさんの記憶再生マップ

 当時私は理科の指導をしていましたので,Bさんの箇条書き(a)を見たとき,なぜこの程度しか書けないのだろうと思っていました.実はBさんは,学習した内容をよく理解する児童だったからです.

 ところが,Bさんが描いた記憶再生マップを見て,さすがBさんと思いました.びっくりしたところは,台風のでき方を絵で表現しているところです.これは,学習内容ではありませんが,調べ学習によって学んだ知識です.それと,台風の被害も絵を多用しています.

 では,この絵は誰の為に描いたのでしょうか.実は,Bさん自身が納得するために自分に対して描いたと考えられます.例えば,「木が折れる」と記述した後,その様子の絵を描いて「確かにそうだ」と納得していると考えられます.友達や教師に対して描いているのではないかと疑いたくなりますが,そもそも記憶再生マップは自分の考えをまとめるために描いているものですから,他者に説明しているとは考えにくいのです.

 

 それから1か月後に書いたの箇条書き(b)は,(a)よりも詳しくなっていました.

 

1.台風は,まず,西に動き次に北や東に動く。

2.台風は,人間の生活に被害をもたらす。

3.台風は,風速17m/s以上のものをいう。

4.台風が通り過ぎると,ほとんど晴れる。

5.そのことを「台風一過の青空」と言う。

6.台風の出来方は,まず水蒸気が発生し,水蒸気が集まり渦が発生し,渦が成長し台風になる。

7.台風の周りは,大雨が降っている。

8.台風の周りは,強風が吹く。

9.台風の目の下は,晴れている。

10.赤道より上の台風は,反時計回り。

11.右の方,東の方が風が強い。

 

 この箇条書き(b)SOMがこれです.

Bさんの箇条書き(b)のSOM

 次に箇条書き(b)SOMを分析してみました.

 このSOMに対するコーディングとしては,「特徴」と「被害」だけではクラスターテーマが与えられないと考えましたので,左下のクラスターには「でき方」というテーマを与えました.このSOMは箇条書き(b)11個の文で構成されているので,複雑な構成になっています.記憶再生マップを描いたBさんの脳内にある意味マップがずいぶん複雑になった証拠です.しかも学習が終了して1か月後の話です.また,()()クラスターは,位置こそ離れていますが,台風一過に関してつながりがあります.さらに,()クラスターは,箇条書き(a)SOMの①~③のクラスターにある言語が,集約されていることに気づきます.結果的に記憶再生マップを描いたことで,Bさんの概念形成が促進されたと考えられると思います.

 実は,Bさんの例ではこれ以外にも,記憶再生マップの効果でお伝えしたいことがありますが,次回をお楽しみに.

 今回もお読みいただき感謝いたします.ありがとうございました.

記憶再生マップの効果④

 前回の書き込みからもうすぐ1か月になります.

 さて今回は,記憶再生マップの効果④ということで,1人の児童の箇条書きをKH Coderの自己組織化マップ(SOM)テキストマイニングした結果についてです.

 ただ,しだいに話が込み入ってきます,ご了承ください.(^^;)

簡単に言えば,児童が書いた箇条書きをもとに,児童がその時点でどのように理解しているかを,見て分かるように表示させたということです.SOMは,人間が,ある事柄を理解していくときに脳(大脳)が分化しながらその機能を無意識的に向上させていくことをモデル化したものと言われています.ですから,SOMを見ればその時点での児童の理解の程度が,モデル化された意味マップとして読み取れることになります.

 学校で児童の書いた箇条書きのような文字情報は,児童が何を書いているかという意味が重要です.だから教師はそれを読んで児童の意図を知ることになります.これは,学習の評価ということですが,実はこれが結構大変な作業で,ある程度時間をかけなければ,全ての文章を隅から隅まで読み取ることはできません.従って普通は,評価する表現などを決めて,短時間で読み取っていくことが多いように思います.ここで紹介している箇条書きは手書きでしたので,テキストと異なり,誤字脱字や丁寧さも重なって,全員分を読むのに結構時間がかかりました.また,児童によっては,非常に多くの箇条書きを書く児童もいて,前に読んだ幾つかは忘れてしまいました.

 そのような時,テキスト化に係る手間は別として,テキストマイニングのソフトウェアで,何が書かれているかを知ることが出来たら評価に係る時間が大幅に減り,また,内容面でも客観的に評価できるようになり便利だと思います.

 今回紹介する記憶再生マップの効果は,ある児童の箇条書き(a)(b)をテキスト化してKH Coderに読み込ませ,それぞれの自己組織化マップ(SOM)を作成し比較したものです.SOMについての詳しい説明は,

自己組織化マップ - 脳科学辞典 (neuroinf.jp)

をご覧ください.

 SOMは,文章中の言語(特に名詞,動詞等)の中で,関連性のあるものどうしを同じ領域の近い位置に配置した意味マップを作成します.この意味マップを見ることで,児童の書いた箇条書きなどの文章がどのような意味を記述しているかを読み解くことが可能になります.もちろん,一人の箇条書きでしたら,そのまま読めば何が書かれているか分かりますが,学級全員の箇条書きを読んで学級全体としてどの様な理解をしているかなどは,今までは分からないままでした.

 今回は,まず一人の児童が記憶想起のみで書いた箇条書き(a)と,記憶再生マップを参照しながら書いた箇条書き(b)SOMを見ていきたいと思います.

なお,関連記事の記憶再生マップの効果③を読んでいただくと,箇条書き(b)(a)1か月後に書かれたことが分かります.なお,KH Coderに読み込ませる前に,ひらがな表記は漢字に変換しています.

 児童Aさんの箇条書き(a)は,これです.

 

1.台風は,大雨や強風をもたらす.

2.台風の近くは,雨や風が吹きますが,遠くでも台風が影響して雨が降るときもあります.

3.また,台風の右側の方が雨や風が強いです.

4.台風は,日本では左回りです.

5.しかし,南半球では右回りです.

6.台風は南から北に動きます.

7.台風の雨で,土砂崩れが起きたり,川が氾濫したりする.

8.台風の風で,瓦が飛んだり木が折れたりします.

 

 この箇条書きを読むと,最初に台風について知っている事柄を書いています.13は,風雨についての記述です.その後,45で台風の回転について記述し,6の移動と78の被害と続きます.

 そこでKH CoderSOMを作成したら,次のようにグループ分けされました.

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Aさんの箇条書き(a)のSOM

 分かりやすくするために,それぞれの領域(これをクラスターと呼びます)に,台風の「特徴」,台風の「被害」というラベル(これをクラスターテーマと呼びます)を付けています.また,実際の箇条書きの内,どの言語がSOMに取り入れられたかを赤のアンダーラインで示しています.

 箇条書き(a)は,主に台風の特徴と被害について書いていましたので,それぞれの文が8つのクラスターに配置されました.クラスターの数が8なのは,KH CoderSOMを作成するときの初期値です.たまたま,文の数が8つだったので1クラスターに1文が入りました.

SOMのこのような表記は,この児童の理解の様子を表していると考えられます.

今回の設定では,複数の文に表れた同一の言語は,1つのクラスターにしか配置されません.例えば,5の「回り」という言語です.4にもありますが,同じ位の距離を保って5の文の方に配置されました.

 問題は,78の文です.ともにクラスターテーマは「被害」ということですが,SOMは隣接させないで対角の位置に配置しました.SOMでは,意味的に近い言語は隣接するクラスターに含まれますので不思議です.ただ,7クラスターが2クラスターに含まれる「雨」と近い位置にありますので,水による被害という意味で7クラスターと隣接しているようです.同様に,8クラスターは,3クラスターに含まれる「風」と近い位置に配置されました.これは風による被害です.

 SOMに詳しい先生によれば,2次元平面表記になった時点で離れたが,元々はこの2つは球体としてはつながっているということです.

 ここまでをまとめると,Aさんは箇条書き(a)を書いた時点では,ある程度明確に特徴を理解していたが,台風による被害については,個別の事象として理解している程度だったということです.

 

 Aさんは,次のような記憶再生マップを描きました.そして,1か月後にこのマップを見ながら箇条書き(b)を書いたのです.

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Aさんの記憶再生マップ


 

 Aさんは,このような記憶再生マップが描けるので,一般的には理解力のある児童ということになります.赤ペンで書いたところは,この記憶再生マップを描いた後に教科書やノートと照合し,内容を追加したり,誤概念を自ら修正した箇所になります.

 次に,児童Aさんの箇条書き(b)を見てみましょう.番号は,Aさんが書いた順番通りに付けたものです.

 

1.台風の影響で強い風や強い雨が起こります.

2.また,風が17m/s以上のものを台風といいます.

3.台風の雨で土砂くずれや川の氾濫が起きます.

4.台風の風で瓦や看板が飛びます.

5.これらはとても危険です.

6.これらを防ぐには,瓦が飛ばないように業者に頼みましょう.

7.また,台風の目は晴れています.

8.台風は日本付近では左回りです.

9.台風はおもに南から北に動きます.

10.偏西風で動きます.

11.しかし,台風は被害だけではありません.

12.ダムに水が溜まり水不足になりません.

13.この台風にも備えはあります.

14.例えば木が折れないようにするには,支柱を立てたり,植木鉢が飛ぶのを防ぐには家にしまうのです.

15.つまり台風は備えれば大丈夫なのです.

 

 これを読むと,16までは台風の影響による被害関係の知識が書かれています.

 さらに710は,台風の特徴に関する記述です.また1112は,台風の恩恵について書いていますし,最後は1315で,台風への備えについて書いて締めくくっています.

 

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Aさんの箇条書き(b)のSOM

 これを見ると,箇条書き(a)SOMに比べて複雑になっていることに気づきます.そして何となくですが,右側に「被害」に関する言語が含まれる領域(クラスタ)が,互いに接して配置されたことが読み取れますね.それと,台風の「特徴」に関する言語に関するクラスターは少なくなりましたが,左の方に集まっています.さらに被害に対する対策と台風の恩恵などの新たな概念が形成されていることに気づきます.このような概念の配置が,この時点でのAさんの理解の程度として読み取れたことになり,それは記憶再生マップを1か月前に描いたことが原因となり,それを参照しながら「被害だけではない」ことと,「備えれば大丈夫」という考えに至ったということです.

 児童の理解はこのようにして,確実なものに変化していくということでしょうか.それが,SOMを作成することで分かるようになってきたということです.

 ずいぶん長くなりましたので,今回はここで終了します.分かりにくい内容でしたが,お読みいただきありがとうございました.次回は,別の児童の結果も見ていきたいと思います.

 

記憶再生マップの効果③

 前回の書き込みを多くの方に読んでいただき感謝しております.

 今回は,記憶再生マップの効果③です.

 今回から読み始めた方に,簡単に記憶再生マップの紹介をします.記憶再生マップとは,自身の記憶にある内容を描いて表現するものです.その際,教師から提示されるのは,このような形のマップです.中心ノードには,単元名が書かれています.また,第1ノードには,小単元名や授業の様子を連想させ中心ノードの単元名と関連付ければ,授業の様子を想起させられる言葉を書きます.

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記憶再生マップの基本構造

 過去の授業の例で言えば,中心ノードが「もののとけ方」のときに,第1ノードの1つを「取り出し方」とした時があります.授業をされたことのある先生方でしたら,この関連付けにはお気づきだと思います.この場合の「取り出し方」とは,水に溶けた食塩やミョウバンなどをどのようにした取り出すかということです.ですから,このノードからは,水溶液の水を蒸発させて取り出す方法や,水溶液を冷やして溶けきれなくなった食塩などを取り出す方法を記述します.

 さて,今回紹介する記憶再生マップの効果ですが,箇条書きの数です.

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記憶想起による箇条書き

 まず,学習後すぐに28名の児童が書いた箇条書き(a)の総数は124文でした.一人当たりの平均で言えば,4.4文程度の文章を書いたことになります.学習直後なのに少ない印象です.もっと書けるかと思いましたが,どうも学習した知識を整理できていない感じです.まあ,納得していない自分自身に落とし込んでいない知識については,書けないということでしょう.普通の授業は,ここでおしまいになり,テスト(業者が作成)を行って全ての学習が終了します.

 ところが,ここで紹介する授業はここで終わりではなく,この後に記憶再生マップを描き,その後にテストとなりました.

 児童には,これで学習が終了したと思わせて,次の単元の授業に入りました.しかし教師としては,学習した内容をずっと記憶していてもらいたいのです.そこで,約1か月後の理科の授業で,私が預かっていた記憶再生マップを配付しました.児童は1か月ぶりに,自分が描いた記憶再生マップと再会したことになります.次に,「自分の記憶再生マップを見ながら,分かったことを書いてください」と言ったところ,児童は困惑することもなく一気に箇条書き(b)を書いたという感じです.

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記憶再生マップを参照して書いた箇条書き

 その結果ですが,1か月後に記憶再生マップを参照しながら書いた箇条書き(b)の数は240文でした.一人当たり,平均で8.6文程度の文章を書けるようになったということです.

 初めは,記憶再生マップを描いてから1か月も経っているので「分かるかな」と思っていましたが,児童の書いた箇条書きを調べると,驚くことに記憶再生マップには記述していないが学習に関係する内容までも,箇条書きとして記述した児童もいました.ということは,絶対に記憶再生マップを描かせた方がよいことになります.

 ここらあたりの事は,記憶の事と関係してきますので,次のページを参照して頂くとよく分かります.

記憶固定化 - 脳科学辞典 (neuroinf.jp)

 今回は,授業のまとめとしては,じっくりと記憶再生マップを参照させながら分かったことを書かせた方がいいということを書きました.ついでですが,箇条書き(a)(b)の品詞数(名詞,動詞,副詞,形容詞)は,(b)(a)の約1.5倍多いという結果でしたが,それぞれの比率は(a)(b)も変わりありませんでした.

 今回の内容は,

古川 美樹 (FURUKAWA YOSHIKI) - 意味ネットワーク・モデルとしての記憶の再生マップで想起した箇条書き文章の自己組織化マップによる分析 - 論文 - researchmap

を見て頂くと詳しく分かります.

 次回は,一人の児童の箇条書きに焦点を合わせて,SOM(自己組織化マップ)で処理した結果について見ていきたいと思います.

ここまでお読み頂き,ありがとうございました.

 

記憶再生マップの効果②

 

 あっという間に前回から1か月です.この間,学会に投稿した論文が,分かりづらかったらしくリジェクトされて来ましたので,分かりやすく書き直していました.(^ ^;)

 さて,今回は,記憶再生マップの効果②として,これまでの知見を整理して分かりやすく紹介したいと思います.

 自分もこれまでの研究が少々複雑で,どの論文にどのようなエビデンスが得られたのかを空で言う自信がありません.従って,書き直している論文では,これまでの研究経過を図にしてみました.今回紹介する内容は,この中のいくつかです.

 これからの説明を分かりやすくするために,記憶再生マップの効果①で紹介した「学習直後の箇条書き」を「箇条書き(a)」とし,「1か月後の箇条書き」を「箇条書き(b)」とします.

 最初のエビデンスは,2018年の論文で紹介している,「箇条書き(a)は,単純な共起関係のリンク構造が見られたが,箇条書き(b)では,因果関係を含む複雑な共起関係のリンク構造が現れた.」というものです.これは,全児童分(28)の箇条書きを対象に共起ネットワークを作成した結果です.ただし,ここの「複雑な」という部分が,主観的であり,何を以て複雑かということが問題となります.実際に,その共起ネットワークをご覧ください.

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箇条書き(a)の共起ネットワーク (N=28)

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箇条書き(b)の共起ネットワーク (N=28)

 このような図を初めてご覧になった方もいらっしゃると思いますので説明します.まず,児童が書いた箇条書きは手書きで,そのデータを直接は扱えませんから,全てテキストにします.つまり,ワープロでひたすら書き写すことになります.その際児童は,分からない漢字は当然ひらがなで書きますから,漢字に変換できるものについては全て漢字表記にします.また,言語の使い方等についても,児童の書いた意図から外れないように正しい表現に変えてあげます.このようにすることで,テキストデータを処理できるKH Coderというソフトウェアがテキストデータを正しく使えるようになります.このソフトは,立命館大学の樋口耕一先生が開発したテキストマイニングのためのフリーソフトで,テキスト化された文章なら簡単に処理を行うことができます.次に,このソフトウェアでできることを説明しますが,色々ありすぎて自分もまだ使っていない機能については省略します.

 まずは,入力したテキストデータを名詞や動詞,形容詞や副詞などの種類に自動で分類して(=形態素解析と言います)品詞ごとの数を集計できます.ですから,最も児童が使った言語は何かなどは一発で分かってしまいます.ちなみに,ここで紹介しているデータの中で,児童が最も使った言語は,「台風」という言語です.学習が台風の事なので当然ですね.また,そのファイルで,対象となる言語が何回出現しているかなどもすぐに確認できます.

 さらに,言語と言語が共起する割合をノードリンク構造で示す共起ネットワークを簡単に作成してくれます.ここで共起とは,自然言語処理の中で,ある言語と言語が同時に出現することです.例えば,「学校」という言語は,「行く」という言語と同時に使う場合が多いので,共起ネットワークを作成すれば,「学校」と「行く」はリンクでつながっていることが多いです.一方で,「学校」と「飛ぶ」はあまり共起することはないのでリンクでつながることはなさそうです.

 次に,言語群の特徴を調査するのに使われるのが,自己組織化マップというものです.これについては,別の機会に説明します.

 さて,今回紹介する記憶再生マップの効果ですが,共起ネットワークです.箇条書き(a)と(b)の共起ネットワークの違いは,共起関係の違いです.具体的に見ていきましょう.まず,(a)の方では共起関係が見られない言語が(b)では,共起していることが分かります.

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箇条書き(a)で共起していない言語群

 これらは,共起関係になく,「木が倒れたり,飛ばされたりする」などの文章が単独で書かれています.また,「(台風が来ると)風や雨が強い,強風が吹くや大雨が降る」などの台風が来ることに対する結果として気象現象が単独で書かれていることが分かります.

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箇条書き(b)で共起している言語群

 

 一方,記憶再生マップを参照して書いた箇条書き(b)では,これらの語群が共起していることが分かります.これは,「(台風が来ると)雨や風が強くなり,木が倒れたり飛ばされたりする」という文章を児童たちが書いたことを示しています.

 これはほんの一例ですが,よく見てもらえれば他にもあります.このようなことから,箇条書き(a)よりも(b)の方が,表現に利用される言語の数が増え,因果関係を含む複雑な共起関係の群が現れるようになったと結論付けました.

 ほんのひとつの事例ですが,共起ネットワークを作成すると,児童たちがどのような文章を書いたかが分かるということになります.KH Coderが無ければ,このような結果を導くことは不可能と言っても過言ではないと思います.

 今回もお読みいただきありがとうございました.論文の修正が済みましたら,次のエビデンスについて書きたいと思います.

 なお,今回の記事の元データは,以下の論文になりますので,併せてご覧いただけると幸いです.

古川 美樹 (FURUKAWA YOSHIKI) - 小学校理科における意味ネットワーク・モデルの参照により児童が書いた箇条書きの特徴に関する研究 - 論文 - researchmap

記憶再生マップの効果①

 児童が学習内容を理解したかどうかは,指導者にとって最も興味深い内容です.一般的には,1時間(小学校は45分)の学習の終わりには「分かったこと」と題して,箇条書きなどで児童にまとめさせることが多いと思います.教師は児童のノートをチェックすることによって児童の理解の度合いを推し測ります.つまり児童の表現した結果が,児童の理解度のほぼ全てであるということで,これには異論を差し挟む余地はほとんどありません.ただ,ごく少数ですが,理解した内容を文章で表現する能力を十分に身に付けていない児童もいますので,指導者は注意が必要です.文章で書けなかったからと言って,理解していない訳ではないというロジックも生じるようです.

 この回では,記憶再生マップを使用して学習内容を記憶想起させると,児童の理解がどのように変化するかをお伝えします.そのためには,児童の理解度をどのような表現物で測るかということを決めなければなりませんが,児童が書いた表現物の方が教師が準備したテスト問題よりもより深く児童の理解度を測ることができます.なぜなら,一般的に行われているテストは,学習内容の全てを調査するには容量不足ですし,何よりも問題を読んだ時点でそれは手がかり再生になるからです.確かに教師が調べたい学習内容に焦点化できますが,児童が何を深く記憶したかということに関しては分かりません.ましてや,「学習した内容がよく分かりましたか」などというアンケートは,児童の言う「分かった」が曖昧過ぎるので使えません.学校現場で授業を行うと,分かっていないのに分かったという児童がいかに多いかを痛感させられます.教師の考えた「分かった」と,児童が発話した「分かった」は,違う場合があることを知っておく必要があります.

 これに対して,児童の書いた表現物は,記憶した内容が表現されたり,意味を形成した内容をそのまま書き出しますので,児童が学習内容のどこに焦点化して記憶を形成したかが分かります.理想的な表現物は,児童が単元の学習をストーリー的に記述できることであると考えますが,これは教師でも難しいと感じるものです.

 一方箇条書きは,比較的容易に考えをまとめられることから授業で利用されています.児童は,授業の様々な場面を網羅して想起することはあまり得意ではなく,むしろ一時間の授業を個別に想起することが多いようです.このように箇条書きは,児童の思考が局所的ですので文章化しやすいメリットがあります.例えば,「~は~である」や「~すると~になる」など授業のある部分を想起すれば記述できますし,それには小単元どうしの学習内容の関係性はあまり含まれません.ところが,記述していくに従って,児童が自身の書き出した箇条書きを読み返すことで,それぞれの事象の関係性を記述する場合もあります.ですから,一般的に授業では,理解したことを箇条書きで書かせていると考えられます.

 このような理由から,児童が学習内容をどのように理解したかを測るために,児童の箇条書きを使用します.ここではこれまで書いた博士論文やその他の論文で使用した,児童の箇条書きを用いて説明することにします.教科は5年生の理科で,台風と天気の変化について学習する単元です.

 児童が書いた箇条書きは2種類です.まず学習が終了した直後に「学習して分かったこと」を書かせました.全員(28名)の箇条書き全てを印刷するとA4用紙3.5枚分になります.なお,以下の箇条書きはテキスト化後のもので,必要に応じてかな文字は漢字に変換しています.

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学習直後の箇条書き(一部)

 その2日後,記憶再生マップを描かせました.

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記憶再生マップ

 その後,この学習は評価テストを行い終了しました.

 その1か月後,突然,以前描いた記憶再生マップを見ながら,分かったことを2回目の箇条書きで表現させました.

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1か月後の箇条書き(一部)

 これは,印刷するとA4用紙6.5枚分の分量になりました.つまり,1か月後の箇条書きの文字数がおよそ2倍になりました.

 これだけでも記憶再生マップの効果はあったように感じましたが,さらに内容面で違いが現れたのかを調べるために,KH Coderでテキストマイニングを行いました.KH Coderは,立命館大学の樋口耕一先生が開発したテキストマイニングのためのフリーソフトです.

 ここまでで,約2000文字になりましたので,KH Coderによる分析については,次回詳しく紹介します.ここまでお読みいただきありがとうございました.

 

児童の誤概念の修正の実際

 今回は児童の誤概念の修正についてです.実は,ついこの間も私が武雄市の市教育研究大会の理科部会で,児童の概念形成過程を記憶再生マップでおこなったとき,3名の児童は自分の誤概念に気づき修正したと言っていました.これまでの実践で得られた誤概念修正の例を見ていきましょう.

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誤概念の修正例①

 これはこれまでもお見せした例ですが,「おもに北から」という部分を,「おもに南から」に変更したり,「南」という文字を「北」に変更したりしています.赤ペンで修正していることから,記憶再生マップを描き上げてから,教科書やノートの記述で確認を行い,修正を施したことが読み取れます.つまり,誤概念に児童自身が気づくには,教科書やノートなどと比較する必要があります.

 しかし,誰でも比較すれば間違いに気づくかと言えばそうではありません.児童一人ひとりで認知度に違いがありますので,気づかない児童もいます.ですから,気づく児童もいるという程度かもしれません.しかし,それでも今までのやり方に比べれば,児童自身が気づくと指導者としては,大変助かるものです.

  次の事例は,間違いではないのですが,児童が自身の記憶再生マップを描き上げた後,教科書やノートの記述と比較し言語を追加した例です.記憶再生マップを描いたときは,「台風が発生したら,西に動き,そして北に動く」と概念化していたようです.これだけでも,学習の成果としては十分価値がありますが,この児童は,記憶再生マップの記述に与えられた時間が余ったことから,教科書やノートの記述と自身の記憶再生マップを比較しています.これも,赤ペンでの修正であることで,教科書やノートを参照したことが分かります.

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児童の誤概念の修正②

 このことにより,「水蒸気が上昇し,積乱雲が発生することで台風が発生し,最初の動きとして西に動くが,南から北への動きもある」ことを概念化したことが読み取れます.この中で「水蒸気が上昇し,積乱雲が発生する」の部分は,小学生に対する指導内容を超えた部分ですが,児童が調べ学習で記述していたことで教師が取り上げて説明した内容です.もちろん,水蒸気については4年生,積乱雲は5年生で学習しますが,断熱減率などについては学習しませんので,水蒸気が上昇することで雲が発生するという事実のみを学びます.この例は,自身のノートと友達の発表から概念をより良いものに修正したと言えます.

 次の例は,6年生の「水溶液の性質」の例です.授業では,3Mの塩酸にアルミ片を入れて溶ける様子を観察しました.そのことを自身の記憶をもとに記述しましたが,経過時間や様子の記述がノートの記述と異なっていたために修正したものです.観察では,経過時間と試験管の中の態様を逐一記述しましたので,この児童は,記憶再生マップを描く段階で記憶の中で溶ける様子を見たものと思われます.それだけでも十分な気がしますが,自身のノートの記述との時間のずれと態様の違いを修正しました.おそらく,他の児童よりも詳しく実験の様子を説明することができると思います.

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児童の誤概念の修正③

 次の例は,6年生の「月と太陽」の学習の例です.左側の絵の方角が間違えていましたので,修正しています.さらに,上弦の月下弦の月について言語を追加しています.これも,ノートを参照して間違いを訂正したことが読み取れます.左回りに描かれた矢印は,月の日周運動を描いたものではありません.地球の自転を北極から見て描いたものです.この児童は,月の形が地球・月・太陽の位置関係でなぜ変わるかを理解しているようです.おそらく,記述した時は自信を持って描いたと思いますが,その後不安になりノートの記述を確認して自身の間違いに気づいたものと考えられます.つまり,間違いに気づくためには信じ切っていたらだめだということです.ですから,記憶再生マップを描き終えても,それを内省するために懐疑的に見るクリティカル・シンキング(critical thinking)が必要であるということになります.

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児童の誤概念の修正④

 次の例も6年生です.水溶液の性質での修正例です.この修正は,この児童が自身の記憶再生マップを全体の前で発表したことにより判明したものです.発表は,記憶再生マップを読みながら行いましたが,中性のリトマス紙の変化のところで「無色」と発言したのを教師が最後の評価のところで,「無色よりも変化なしの方がいいですね」と発言したことにより児童が修正したものです.このように自身の発言を他者が聞くことにより,他者の指摘を受けて修正することがあります.一般的には記憶再生マップを学習で利用する場合は,描いた後に,隣同士の児童で互いに説明を行いますが,現在のようなコロナ禍においては,あまり接近してそのような活動を行うことができません.しかし,他者に説明することで他者の目で自身の記憶再生マップを見てもらうと,自身が気づかなかった誤概念を指摘してもらえることがあります.そのような学習行動もぜひ授業には取り入れたいものです.

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児童の誤概念の修正⑤

 今回は,記憶再生マップを描いたことで児童自らが誤概念に気づき修正を施すといった例を紹介しました.主体的・対話的で深い学びと言われますが,これは至極当然なことで,ここで紹介した学習行動は,児童が自身の記憶した知識・経験を呟きながら(自己中心的言語)記憶再生マップに描き表し,描いた多くの記憶内容を懐疑的な目で見て,不安がよぎって焦点化された箇所を教科書やノートの記述と照合し,修正・追加等を行いました.まさに主体的であり,対話的(自己と他者)であり,深く学んでいる姿と言えます.

 今回はここまでにします.次回は,いよいよこれまでの記憶再生マップの研究によって得られたエビデンスを紹介していきます.ここまでお読みいただきありがとうございました.

児童の誤概念の修正について

 今回は児童の誤概念についてです.

 学校の教員ならば,評価テストを行いその結果に様々な思いを持ったことがあると思います.小学校では,テスト業者が作成した評価テストを購入しています.テストはカラーで印刷され,視認性もよく,児童が学習によって学んだ内容についての問題が書かれています.特に,理科では実験・観察などの様子が写真や絵図によって分かりやすく描かれています.児童は問題を読み,写真や絵図を見ながら解答することになります.その方法は,①幾つかの選択肢から正解の選択肢に〇や×を付ける,②与えられた絵図や文章に適切な記号を割り振る,③空白の箇所に適切な言語を書く,④質問された内容について文章で解答するなどがあります.

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小学校の評価テストの例1

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小学校の評価テストの例2

 問題の難易度は,単元にもよりますが,学習した内容を正しく概念化した児童にとっては,解答に悩むような問題はなく,既定の解答時間の早い段階で終えることができます.解答時間は,概ね30分程度となっていますので,その程度の問題だとお考え下さい.

 これまで多くの児童の解答を見てきましたが,学習により獲得した知識の概念化ができていない児童は,非常に奇妙な回答行動をとることがあります.例えば,ある問題の解答が,アとイの選択で正解がアとすると,不思議とその反対の記号イを選択するケースがよく見うけられます.さらに,同様の問題が続いて出題されていても,全て不正解を選択することもあります.児童の中には,勘で記号を選択した子もいるでしょうが,それでも全て間違いを選択した児童がいたこともあります.

 ここで重要なのは,その児童が,思考し内なる納得を経て出した結果としての不正解か,その他ヒューリスティックスなどによる不正解かという議論です.

 練習問題の時間にそのような児童にインタビューしたことがあります.二酸化炭素の入った集気びんに石灰水を注ぐ実験の結果として,白濁した様子の写真Aと白濁していない写真Bが提示された問題で,「実験した時に,どちらの写真のようになった?」と聞いたところ,悩んだ末に白濁していない方を指さしたことがあります.

 まず,悩むということは概念化できていないと考えられます.概念化できていれば,問題文を読んだ段階で,無意図的に白濁した石灰水の姿が記憶想起されます.このような児童は,上位概念を想起しません.ところが概念化が十分でなくとも,実験に対して正しく向き合った児童は,その時の映像を記憶の中で見ることができます.この児童は,理由を説明できませんが,実験の結果である白濁した方を選ぶことができます.驚きや感動,楽しさなどの情意面の記憶があるからです.

 一方で,その子がどの瞬間を受け止めるかということも関係してきます.石灰水を入れて振った後の様子なのか,その様子を見ていたけれど石灰水を入れた瞬間は白濁していなかったので,その瞬間を記憶に留めたことも考えられます.教師は,どのような時に確認するのかは,ちゃんと発話し注意を促しますが,聞き取りが不十分な児童はいます.

 従って,学習する時には,教師の発話をしっかりと聴くことができる学びの姿勢が必要なのです.また,教師が板書する内容をきちんと納得してノートテイキングできることが大切です.

 また,小学校での誤概念と中学校での誤概念には違いがあるかもしれません.なぜなら,どちらかと言えば中学校では論理が介在するからです.例えば,U型磁石と電気ブランコで構成される実験装置で,導線に流れる電流によって,ローレンツ力(りょく)がどの向きに働くかは,フレミングの左手の法則を適用することによって導くことができます.

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左手の法則のイラスト

 

 これを実験の結果で暗記してもいいのですが,その映像はかなり複雑になります.しかも3次元となると,実際に左手を使わなければなりません.中学校時代の記憶で,この場面の中間テストか期末テストがあったことを思い出します.それは,多くの級友たちがテスト中に左手を色々な向きに動かして苦労しながら考えていた姿です.ちなみに,私は,問題を見ただけで答えを出せる方法を思いついていたので,左手は使っていません.(^^;)

 誤概念については,様々な研究がなされています.例えば,坂本さん,中村さんの研究を見ると,論理的思考力のある者は誤概念を支持しにくいという結論を導き出しています.

「誤概念の支持のしにくさと論理的思考力の関係」(坂本司毅,中村元彦,2014)

 児童のテスト結果を見ると小学校でも同様のようです.先に書きましたが,誤概念を支持する児童は,概念化ができていないと考えられるのは坂本さんたちと同じです.ただ,小学校の場合,論理の介在がほぼないので,記憶から得るものは授業で見た映像です.

 誤概念を生まないように授業を工夫することは可能ですが,ゼロにすることは不可能です.しかも,個々の児童はそれぞれ特性が異なりますので,これといった授業の方法が必ずしも合うとは限りません.まさに個別最適化という議論が必要になりそうです.そろそろ学校教育の方法も変わってくるかもしれません.

 一方で児童の誤概念をどのように修正すればよいかという議論も必要ですが,児童自身が修正できればいいですね.次回は,このことについて具体例を挙げて説明します.長くなりましたが今回はこれで終わりにします.最後までお読みいただき,ありがとうございました.

 

記憶再生マップのノード数と概念化の関係について

8/28(土),29(日)に学会の年会が終了しました.

ブログの更新をサボって1か月半です.(こりゃいかんと思っています・・・・)

今回は,記憶再生マップのノード数と児童の概念化の度合いの相関について書きたいと思います.

これまでの記事で記憶再生マップについては,ずいぶん紹介してきたので,教育の現場でも利用しようと思っている人もいるのではないかと思います.

ところでこの記憶再生マップですが,児童が自身の記憶を想起して描いているので,授業の記憶がたくさんある児童は,たくさんの内容を描くことになります.

逆に,想起しても授業の記憶が浮かんでこない児童は,あまり描けないわけです.

このことに関する重要な提言としていくつか挙げることができます.

1つは,CraikとLockhart(1972)の処理水準理論です.これは,「痕跡持続性は,分析の深さの関数であり,深い水準の分析は,精緻で,持続性のある強い痕跡につながる」というようにまとめられます.簡単に言えば,長い時間,記憶(学習)したことを保持するためには,学習においては深く考えることが重要であり,経験や体験したことの想起を詳細に行うことが重要であるということでしょう.

また,HydeとJenkins(1973)は,「処理水準理論に従えば,長期記憶の確定で重要なのは,学習意図そのものではなく,処理活動の性質であると思われる」と述べています.このことは,学習にとって重要なことは,学習者が何をどのように思考しているかという学習の質であるということです.このことを受けてさらに,Eysenk(1984)は,「精緻化リハーサル,即ち刺激のより深い分析を含む処理が,長期記憶を改善することには,異論は少ない」と述べています.精緻化リハーサルとは,記憶想起のことで,事柄どうしの結びつきに納得するということです.別の言い方をすれば,新たに考えていることと以前に理解していることの関係性に気づくということです.そしてまさに,このことを行っているのが記憶再生マップです.

さて,記憶再生マップはノードリンク構造ですので,ノードの数は気になるところです.

次の4枚の記憶再生マップを見てください.ノード数に違いが見られます.

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ノード数の多い記憶再生マップその1

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ノード数の多い記憶再生マップその2

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ノード数の少ない記憶再生マップその1

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ノード数の少ない記憶再生マップその2

授業では,児童が記憶再生マップを描くことを通して,学習した内容どうしを結びつける作業を行います.教師は,その作業を注意深く観察し,適切な助言を行う必要があります.とは言うものの,1人で全員の書き込む内容をチェックすることは,大変難しい指導内容です.できたとしても,45分や50分で1回や2回程度になります.

そこで,指導の必要な児童に十分な時間をかけるために,パッと見て作業内容の正しさを判断するために,児童が作業によって描いたノードの数とそのノードの言語をつなぐことによって読める内容の正しさを調査しました.つまり,内容の正しさと誤りという2つの名義尺度とノード数の相関関係を調べたところ,相関比の値が十分に高く,ノード数の多い記憶再生マップを作成した児童程,正しい概念形成ができることが分かりました.このことは実際,授業をしててもなんとなく分かります(^^;)

つまり,先に示した記憶再生マップのうち,ノード数の多いマップを描いた児童の方が学習をよく理解していると考えられるので,実際の指導としては,ノード数を目視で確認して称賛の言葉かけを行ってもほぼ間違いではないということが言えます.そして残った時間を,ノード数の少ないマップを描いている児童に十分に与えることで授業を進行すればよいことになります.

実際,多くの実践を行いましたが,記憶再生マップを描かせている時間のほとんどは,3枚目と4枚目のようなマップを作成し,鉛筆が止まっている児童の指導を手厚くすることに費やしています.

今回はここまでです.お読みいただきありがとうございました.

次回は,誤概念の修正について少し詳しくお話をして,箇条書きのデータを用いたテキストマイニングの話へと進めていきたいと思います.

今回の学会で報告した内容は,日本教育情報学会年会論文集37のp92-95に掲載されていますので,併せてご覧いただければ幸いです.

意味ネットワーク・モデルによる児童の持つ概念の外化と自己修正に関する研究