記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

記憶再生マップの効果②

 

 あっという間に前回から1か月です.この間,学会に投稿した論文が,分かりづらかったらしくリジェクトされて来ましたので,分かりやすく書き直していました.(^ ^;)

 さて,今回は,記憶再生マップの効果②として,これまでの知見を整理して分かりやすく紹介したいと思います.

 自分もこれまでの研究が少々複雑で,どの論文にどのようなエビデンスが得られたのかを空で言う自信がありません.従って,書き直している論文では,これまでの研究経過を図にしてみました.今回紹介する内容は,この中のいくつかです.

 これからの説明を分かりやすくするために,記憶再生マップの効果①で紹介した「学習直後の箇条書き」を「箇条書き(a)」とし,「1か月後の箇条書き」を「箇条書き(b)」とします.

 最初のエビデンスは,2018年の論文で紹介している,「箇条書き(a)は,単純な共起関係のリンク構造が見られたが,箇条書き(b)では,因果関係を含む複雑な共起関係のリンク構造が現れた.」というものです.これは,全児童分(28)の箇条書きを対象に共起ネットワークを作成した結果です.ただし,ここの「複雑な」という部分が,主観的であり,何を以て複雑かということが問題となります.実際に,その共起ネットワークをご覧ください.

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箇条書き(a)の共起ネットワーク (N=28)

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箇条書き(b)の共起ネットワーク (N=28)

 このような図を初めてご覧になった方もいらっしゃると思いますので説明します.まず,児童が書いた箇条書きは手書きで,そのデータを直接は扱えませんから,全てテキストにします.つまり,ワープロでひたすら書き写すことになります.その際児童は,分からない漢字は当然ひらがなで書きますから,漢字に変換できるものについては全て漢字表記にします.また,言語の使い方等についても,児童の書いた意図から外れないように正しい表現に変えてあげます.このようにすることで,テキストデータを処理できるKH Coderというソフトウェアがテキストデータを正しく使えるようになります.このソフトは,立命館大学の樋口耕一先生が開発したテキストマイニングのためのフリーソフトで,テキスト化された文章なら簡単に処理を行うことができます.次に,このソフトウェアでできることを説明しますが,色々ありすぎて自分もまだ使っていない機能については省略します.

 まずは,入力したテキストデータを名詞や動詞,形容詞や副詞などの種類に自動で分類して(=形態素解析と言います)品詞ごとの数を集計できます.ですから,最も児童が使った言語は何かなどは一発で分かってしまいます.ちなみに,ここで紹介しているデータの中で,児童が最も使った言語は,「台風」という言語です.学習が台風の事なので当然ですね.また,そのファイルで,対象となる言語が何回出現しているかなどもすぐに確認できます.

 さらに,言語と言語が共起する割合をノードリンク構造で示す共起ネットワークを簡単に作成してくれます.ここで共起とは,自然言語処理の中で,ある言語と言語が同時に出現することです.例えば,「学校」という言語は,「行く」という言語と同時に使う場合が多いので,共起ネットワークを作成すれば,「学校」と「行く」はリンクでつながっていることが多いです.一方で,「学校」と「飛ぶ」はあまり共起することはないのでリンクでつながることはなさそうです.

 次に,言語群の特徴を調査するのに使われるのが,自己組織化マップというものです.これについては,別の機会に説明します.

 さて,今回紹介する記憶再生マップの効果ですが,共起ネットワークです.箇条書き(a)と(b)の共起ネットワークの違いは,共起関係の違いです.具体的に見ていきましょう.まず,(a)の方では共起関係が見られない言語が(b)では,共起していることが分かります.

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箇条書き(a)で共起していない言語群

 これらは,共起関係になく,「木が倒れたり,飛ばされたりする」などの文章が単独で書かれています.また,「(台風が来ると)風や雨が強い,強風が吹くや大雨が降る」などの台風が来ることに対する結果として気象現象が単独で書かれていることが分かります.

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箇条書き(b)で共起している言語群

 

 一方,記憶再生マップを参照して書いた箇条書き(b)では,これらの語群が共起していることが分かります.これは,「(台風が来ると)雨や風が強くなり,木が倒れたり飛ばされたりする」という文章を児童たちが書いたことを示しています.

 これはほんの一例ですが,よく見てもらえれば他にもあります.このようなことから,箇条書き(a)よりも(b)の方が,表現に利用される言語の数が増え,因果関係を含む複雑な共起関係の群が現れるようになったと結論付けました.

 ほんのひとつの事例ですが,共起ネットワークを作成すると,児童たちがどのような文章を書いたかが分かるということになります.KH Coderが無ければ,このような結果を導くことは不可能と言っても過言ではないと思います.

 今回もお読みいただきありがとうございました.論文の修正が済みましたら,次のエビデンスについて書きたいと思います.

 なお,今回の記事の元データは,以下の論文になりますので,併せてご覧いただけると幸いです.

古川 美樹 (FURUKAWA YOSHIKI) - 小学校理科における意味ネットワーク・モデルの参照により児童が書いた箇条書きの特徴に関する研究 - 論文 - researchmap

記憶再生マップの効果①

 児童が学習内容を理解したかどうかは,指導者にとって最も興味深い内容です.一般的には,1時間(小学校は45分)の学習の終わりには「分かったこと」と題して,箇条書きなどで児童にまとめさせることが多いと思います.教師は児童のノートをチェックすることによって児童の理解の度合いを推し測ります.つまり児童の表現した結果が,児童の理解度のほぼ全てであるということで,これには異論を差し挟む余地はほとんどありません.ただ,ごく少数ですが,理解した内容を文章で表現する能力を十分に身に付けていない児童もいますので,指導者は注意が必要です.文章で書けなかったからと言って,理解していない訳ではないというロジックも生じるようです.

 この回では,記憶再生マップを使用して学習内容を記憶想起させると,児童の理解がどのように変化するかをお伝えします.そのためには,児童の理解度をどのような表現物で測るかということを決めなければなりませんが,児童が書いた表現物の方が教師が準備したテスト問題よりもより深く児童の理解度を測ることができます.なぜなら,一般的に行われているテストは,学習内容の全てを調査するには容量不足ですし,何よりも問題を読んだ時点でそれは手がかり再生になるからです.確かに教師が調べたい学習内容に焦点化できますが,児童が何を深く記憶したかということに関しては分かりません.ましてや,「学習した内容がよく分かりましたか」などというアンケートは,児童の言う「分かった」が曖昧過ぎるので使えません.学校現場で授業を行うと,分かっていないのに分かったという児童がいかに多いかを痛感させられます.教師の考えた「分かった」と,児童が発話した「分かった」は,違う場合があることを知っておく必要があります.

 これに対して,児童の書いた表現物は,記憶した内容が表現されたり,意味を形成した内容をそのまま書き出しますので,児童が学習内容のどこに焦点化して記憶を形成したかが分かります.理想的な表現物は,児童が単元の学習をストーリー的に記述できることであると考えますが,これは教師でも難しいと感じるものです.

 一方箇条書きは,比較的容易に考えをまとめられることから授業で利用されています.児童は,授業の様々な場面を網羅して想起することはあまり得意ではなく,むしろ一時間の授業を個別に想起することが多いようです.このように箇条書きは,児童の思考が局所的ですので文章化しやすいメリットがあります.例えば,「~は~である」や「~すると~になる」など授業のある部分を想起すれば記述できますし,それには小単元どうしの学習内容の関係性はあまり含まれません.ところが,記述していくに従って,児童が自身の書き出した箇条書きを読み返すことで,それぞれの事象の関係性を記述する場合もあります.ですから,一般的に授業では,理解したことを箇条書きで書かせていると考えられます.

 このような理由から,児童が学習内容をどのように理解したかを測るために,児童の箇条書きを使用します.ここではこれまで書いた博士論文やその他の論文で使用した,児童の箇条書きを用いて説明することにします.教科は5年生の理科で,台風と天気の変化について学習する単元です.

 児童が書いた箇条書きは2種類です.まず学習が終了した直後に「学習して分かったこと」を書かせました.全員(28名)の箇条書き全てを印刷するとA4用紙3.5枚分になります.なお,以下の箇条書きはテキスト化後のもので,必要に応じてかな文字は漢字に変換しています.

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学習直後の箇条書き(一部)

 その2日後,記憶再生マップを描かせました.

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記憶再生マップ

 その後,この学習は評価テストを行い終了しました.

 その1か月後,突然,以前描いた記憶再生マップを見ながら,分かったことを2回目の箇条書きで表現させました.

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1か月後の箇条書き(一部)

 これは,印刷するとA4用紙6.5枚分の分量になりました.つまり,1か月後の箇条書きの文字数がおよそ2倍になりました.

 これだけでも記憶再生マップの効果はあったように感じましたが,さらに内容面で違いが現れたのかを調べるために,KH Coderでテキストマイニングを行いました.KH Coderは,立命館大学の樋口耕一先生が開発したテキストマイニングのためのフリーソフトです.

 ここまでで,約2000文字になりましたので,KH Coderによる分析については,次回詳しく紹介します.ここまでお読みいただきありがとうございました.

 

児童の誤概念の修正の実際

 今回は児童の誤概念の修正についてです.実は,ついこの間も私が武雄市の市教育研究大会の理科部会で,児童の概念形成過程を記憶再生マップでおこなったとき,3名の児童は自分の誤概念に気づき修正したと言っていました.これまでの実践で得られた誤概念修正の例を見ていきましょう.

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誤概念の修正例①

 これはこれまでもお見せした例ですが,「おもに北から」という部分を,「おもに南から」に変更したり,「南」という文字を「北」に変更したりしています.赤ペンで修正していることから,記憶再生マップを描き上げてから,教科書やノートの記述で確認を行い,修正を施したことが読み取れます.つまり,誤概念に児童自身が気づくには,教科書やノートなどと比較する必要があります.

 しかし,誰でも比較すれば間違いに気づくかと言えばそうではありません.児童一人ひとりで認知度に違いがありますので,気づかない児童もいます.ですから,気づく児童もいるという程度かもしれません.しかし,それでも今までのやり方に比べれば,児童自身が気づくと指導者としては,大変助かるものです.

  次の事例は,間違いではないのですが,児童が自身の記憶再生マップを描き上げた後,教科書やノートの記述と比較し言語を追加した例です.記憶再生マップを描いたときは,「台風が発生したら,西に動き,そして北に動く」と概念化していたようです.これだけでも,学習の成果としては十分価値がありますが,この児童は,記憶再生マップの記述に与えられた時間が余ったことから,教科書やノートの記述と自身の記憶再生マップを比較しています.これも,赤ペンでの修正であることで,教科書やノートを参照したことが分かります.

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児童の誤概念の修正②

 このことにより,「水蒸気が上昇し,積乱雲が発生することで台風が発生し,最初の動きとして西に動くが,南から北への動きもある」ことを概念化したことが読み取れます.この中で「水蒸気が上昇し,積乱雲が発生する」の部分は,小学生に対する指導内容を超えた部分ですが,児童が調べ学習で記述していたことで教師が取り上げて説明した内容です.もちろん,水蒸気については4年生,積乱雲は5年生で学習しますが,断熱減率などについては学習しませんので,水蒸気が上昇することで雲が発生するという事実のみを学びます.この例は,自身のノートと友達の発表から概念をより良いものに修正したと言えます.

 次の例は,6年生の「水溶液の性質」の例です.授業では,3Mの塩酸にアルミ片を入れて溶ける様子を観察しました.そのことを自身の記憶をもとに記述しましたが,経過時間や様子の記述がノートの記述と異なっていたために修正したものです.観察では,経過時間と試験管の中の態様を逐一記述しましたので,この児童は,記憶再生マップを描く段階で記憶の中で溶ける様子を見たものと思われます.それだけでも十分な気がしますが,自身のノートの記述との時間のずれと態様の違いを修正しました.おそらく,他の児童よりも詳しく実験の様子を説明することができると思います.

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児童の誤概念の修正③

 次の例は,6年生の「月と太陽」の学習の例です.左側の絵の方角が間違えていましたので,修正しています.さらに,上弦の月下弦の月について言語を追加しています.これも,ノートを参照して間違いを訂正したことが読み取れます.左回りに描かれた矢印は,月の日周運動を描いたものではありません.地球の自転を北極から見て描いたものです.この児童は,月の形が地球・月・太陽の位置関係でなぜ変わるかを理解しているようです.おそらく,記述した時は自信を持って描いたと思いますが,その後不安になりノートの記述を確認して自身の間違いに気づいたものと考えられます.つまり,間違いに気づくためには信じ切っていたらだめだということです.ですから,記憶再生マップを描き終えても,それを内省するために懐疑的に見るクリティカル・シンキング(critical thinking)が必要であるということになります.

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児童の誤概念の修正④

 次の例も6年生です.水溶液の性質での修正例です.この修正は,この児童が自身の記憶再生マップを全体の前で発表したことにより判明したものです.発表は,記憶再生マップを読みながら行いましたが,中性のリトマス紙の変化のところで「無色」と発言したのを教師が最後の評価のところで,「無色よりも変化なしの方がいいですね」と発言したことにより児童が修正したものです.このように自身の発言を他者が聞くことにより,他者の指摘を受けて修正することがあります.一般的には記憶再生マップを学習で利用する場合は,描いた後に,隣同士の児童で互いに説明を行いますが,現在のようなコロナ禍においては,あまり接近してそのような活動を行うことができません.しかし,他者に説明することで他者の目で自身の記憶再生マップを見てもらうと,自身が気づかなかった誤概念を指摘してもらえることがあります.そのような学習行動もぜひ授業には取り入れたいものです.

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児童の誤概念の修正⑤

 今回は,記憶再生マップを描いたことで児童自らが誤概念に気づき修正を施すといった例を紹介しました.主体的・対話的で深い学びと言われますが,これは至極当然なことで,ここで紹介した学習行動は,児童が自身の記憶した知識・経験を呟きながら(自己中心的言語)記憶再生マップに描き表し,描いた多くの記憶内容を懐疑的な目で見て,不安がよぎって焦点化された箇所を教科書やノートの記述と照合し,修正・追加等を行いました.まさに主体的であり,対話的(自己と他者)であり,深く学んでいる姿と言えます.

 今回はここまでにします.次回は,いよいよこれまでの記憶再生マップの研究によって得られたエビデンスを紹介していきます.ここまでお読みいただきありがとうございました.

児童の誤概念の修正について

 今回は児童の誤概念についてです.

 学校の教員ならば,評価テストを行いその結果に様々な思いを持ったことがあると思います.小学校では,テスト業者が作成した評価テストを購入しています.テストはカラーで印刷され,視認性もよく,児童が学習によって学んだ内容についての問題が書かれています.特に,理科では実験・観察などの様子が写真や絵図によって分かりやすく描かれています.児童は問題を読み,写真や絵図を見ながら解答することになります.その方法は,①幾つかの選択肢から正解の選択肢に〇や×を付ける,②与えられた絵図や文章に適切な記号を割り振る,③空白の箇所に適切な言語を書く,④質問された内容について文章で解答するなどがあります.

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小学校の評価テストの例1

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小学校の評価テストの例2

 問題の難易度は,単元にもよりますが,学習した内容を正しく概念化した児童にとっては,解答に悩むような問題はなく,既定の解答時間の早い段階で終えることができます.解答時間は,概ね30分程度となっていますので,その程度の問題だとお考え下さい.

 これまで多くの児童の解答を見てきましたが,学習により獲得した知識の概念化ができていない児童は,非常に奇妙な回答行動をとることがあります.例えば,ある問題の解答が,アとイの選択で正解がアとすると,不思議とその反対の記号イを選択するケースがよく見うけられます.さらに,同様の問題が続いて出題されていても,全て不正解を選択することもあります.児童の中には,勘で記号を選択した子もいるでしょうが,それでも全て間違いを選択した児童がいたこともあります.

 ここで重要なのは,その児童が,思考し内なる納得を経て出した結果としての不正解か,その他ヒューリスティックスなどによる不正解かという議論です.

 練習問題の時間にそのような児童にインタビューしたことがあります.二酸化炭素の入った集気びんに石灰水を注ぐ実験の結果として,白濁した様子の写真Aと白濁していない写真Bが提示された問題で,「実験した時に,どちらの写真のようになった?」と聞いたところ,悩んだ末に白濁していない方を指さしたことがあります.

 まず,悩むということは概念化できていないと考えられます.概念化できていれば,問題文を読んだ段階で,無意図的に白濁した石灰水の姿が記憶想起されます.このような児童は,上位概念を想起しません.ところが概念化が十分でなくとも,実験に対して正しく向き合った児童は,その時の映像を記憶の中で見ることができます.この児童は,理由を説明できませんが,実験の結果である白濁した方を選ぶことができます.驚きや感動,楽しさなどの情意面の記憶があるからです.

 一方で,その子がどの瞬間を受け止めるかということも関係してきます.石灰水を入れて振った後の様子なのか,その様子を見ていたけれど石灰水を入れた瞬間は白濁していなかったので,その瞬間を記憶に留めたことも考えられます.教師は,どのような時に確認するのかは,ちゃんと発話し注意を促しますが,聞き取りが不十分な児童はいます.

 従って,学習する時には,教師の発話をしっかりと聴くことができる学びの姿勢が必要なのです.また,教師が板書する内容をきちんと納得してノートテイキングできることが大切です.

 また,小学校での誤概念と中学校での誤概念には違いがあるかもしれません.なぜなら,どちらかと言えば中学校では論理が介在するからです.例えば,U型磁石と電気ブランコで構成される実験装置で,導線に流れる電流によって,ローレンツ力(りょく)がどの向きに働くかは,フレミングの左手の法則を適用することによって導くことができます.

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左手の法則のイラスト

 

 これを実験の結果で暗記してもいいのですが,その映像はかなり複雑になります.しかも3次元となると,実際に左手を使わなければなりません.中学校時代の記憶で,この場面の中間テストか期末テストがあったことを思い出します.それは,多くの級友たちがテスト中に左手を色々な向きに動かして苦労しながら考えていた姿です.ちなみに,私は,問題を見ただけで答えを出せる方法を思いついていたので,左手は使っていません.(^^;)

 誤概念については,様々な研究がなされています.例えば,坂本さん,中村さんの研究を見ると,論理的思考力のある者は誤概念を支持しにくいという結論を導き出しています.

「誤概念の支持のしにくさと論理的思考力の関係」(坂本司毅,中村元彦,2014)

 児童のテスト結果を見ると小学校でも同様のようです.先に書きましたが,誤概念を支持する児童は,概念化ができていないと考えられるのは坂本さんたちと同じです.ただ,小学校の場合,論理の介在がほぼないので,記憶から得るものは授業で見た映像です.

 誤概念を生まないように授業を工夫することは可能ですが,ゼロにすることは不可能です.しかも,個々の児童はそれぞれ特性が異なりますので,これといった授業の方法が必ずしも合うとは限りません.まさに個別最適化という議論が必要になりそうです.そろそろ学校教育の方法も変わってくるかもしれません.

 一方で児童の誤概念をどのように修正すればよいかという議論も必要ですが,児童自身が修正できればいいですね.次回は,このことについて具体例を挙げて説明します.長くなりましたが今回はこれで終わりにします.最後までお読みいただき,ありがとうございました.

 

記憶再生マップのノード数と概念化の関係について

8/28(土),29(日)に学会の年会が終了しました.

ブログの更新をサボって1か月半です.(こりゃいかんと思っています・・・・)

今回は,記憶再生マップのノード数と児童の概念化の度合いの相関について書きたいと思います.

これまでの記事で記憶再生マップについては,ずいぶん紹介してきたので,教育の現場でも利用しようと思っている人もいるのではないかと思います.

ところでこの記憶再生マップですが,児童が自身の記憶を想起して描いているので,授業の記憶がたくさんある児童は,たくさんの内容を描くことになります.

逆に,想起しても授業の記憶が浮かんでこない児童は,あまり描けないわけです.

このことに関する重要な提言としていくつか挙げることができます.

1つは,CraikとLockhart(1972)の処理水準理論です.これは,「痕跡持続性は,分析の深さの関数であり,深い水準の分析は,精緻で,持続性のある強い痕跡につながる」というようにまとめられます.簡単に言えば,長い時間,記憶(学習)したことを保持するためには,学習においては深く考えることが重要であり,経験や体験したことの想起を詳細に行うことが重要であるということでしょう.

また,HydeとJenkins(1973)は,「処理水準理論に従えば,長期記憶の確定で重要なのは,学習意図そのものではなく,処理活動の性質であると思われる」と述べています.このことは,学習にとって重要なことは,学習者が何をどのように思考しているかという学習の質であるということです.このことを受けてさらに,Eysenk(1984)は,「精緻化リハーサル,即ち刺激のより深い分析を含む処理が,長期記憶を改善することには,異論は少ない」と述べています.精緻化リハーサルとは,記憶想起のことで,事柄どうしの結びつきに納得するということです.別の言い方をすれば,新たに考えていることと以前に理解していることの関係性に気づくということです.そしてまさに,このことを行っているのが記憶再生マップです.

さて,記憶再生マップはノードリンク構造ですので,ノードの数は気になるところです.

次の4枚の記憶再生マップを見てください.ノード数に違いが見られます.

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ノード数の多い記憶再生マップその1

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ノード数の多い記憶再生マップその2

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ノード数の少ない記憶再生マップその1

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ノード数の少ない記憶再生マップその2

授業では,児童が記憶再生マップを描くことを通して,学習した内容どうしを結びつける作業を行います.教師は,その作業を注意深く観察し,適切な助言を行う必要があります.とは言うものの,1人で全員の書き込む内容をチェックすることは,大変難しい指導内容です.できたとしても,45分や50分で1回や2回程度になります.

そこで,指導の必要な児童に十分な時間をかけるために,パッと見て作業内容の正しさを判断するために,児童が作業によって描いたノードの数とそのノードの言語をつなぐことによって読める内容の正しさを調査しました.つまり,内容の正しさと誤りという2つの名義尺度とノード数の相関関係を調べたところ,相関比の値が十分に高く,ノード数の多い記憶再生マップを作成した児童程,正しい概念形成ができることが分かりました.このことは実際,授業をしててもなんとなく分かります(^^;)

つまり,先に示した記憶再生マップのうち,ノード数の多いマップを描いた児童の方が学習をよく理解していると考えられるので,実際の指導としては,ノード数を目視で確認して称賛の言葉かけを行ってもほぼ間違いではないということが言えます.そして残った時間を,ノード数の少ないマップを描いている児童に十分に与えることで授業を進行すればよいことになります.

実際,多くの実践を行いましたが,記憶再生マップを描かせている時間のほとんどは,3枚目と4枚目のようなマップを作成し,鉛筆が止まっている児童の指導を手厚くすることに費やしています.

今回はここまでです.お読みいただきありがとうございました.

次回は,誤概念の修正について少し詳しくお話をして,箇条書きのデータを用いたテキストマイニングの話へと進めていきたいと思います.

今回の学会で報告した内容は,日本教育情報学会年会論文集37のp92-95に掲載されていますので,併せてご覧いただければ幸いです.

意味ネットワーク・モデルによる児童の持つ概念の外化と自己修正に関する研究 

記憶再生マップの読み方について

 いつもお読みいただきありがとうございます.
 またまた,前回からの書き込みから1か月です.この間,学会の年会発表原稿を仕上げたり,次の投稿原稿を執筆したりしていました.
 今回は,私が大学院博士後期課程時代に書いた論文を読みながら,記憶再生マップの各ノードに書かれた言語の読み方について紹介したいと思います.
 前回は,記憶再生マップの中心ノードと第一ノードで作られる文脈が児童(学習者)のエピソード記憶を呼び覚ますみたいな話をしました.いつも,授業をしていて思うのですが,児童は今の学習が終わったら,テストをして,それ以降はその記憶をほとんど使う機会がありません.テストも児童が学習内容を忘れないうちに行い,一喜一憂したりします.最近は中学校でさえ,中間テストや期末テストを廃止し,単元の学習が終了したらテストを行うようになっています.ますます,記憶想起をしない子供たちが増えつつあります.話が逸れましたが,またいつか話題にしようと思います.
 記憶再生マップは,少しでも児童が記憶想起を行い,エピソード記憶に意味を見い出し,概念化することを目指しています.その記憶再生マップですが,児童は書き終えた直後に読むことができます.それは,自分が描いたマップなので当然と言えばそうですが,描く時の状況がそうさせると考えています.つまり児童は,記憶再生マップを描きながら,声に出したり出さなかったりしながらつぶやいているからです.これを自己中心的言語と呼び,自分自身に対して内なる納得を繰り返していると考えられます.一度,内言として読んでいるので,描き終えた直後も当然ながら問題なく読むことができます.
 これをご覧になっている皆さんは,下の図の各ノードとノードのトピックをつなぎながら読むことができますか.例えば,「もののとけ方-とける量-食塩-50mLに対して15gしかとけない-水の量を増やす-とける-3日後-(絵)-ブラウン運動」のつながりは,児童ならどのように読むでしょう.

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児童が描いた記憶再生マップ

 おそらくは,「もののとけ方の学習で,ものの溶ける量について実験をしました.食塩は,水50mLに対して15gしか溶けませんでした.そこで,水の量を増やすと溶けるようになりました.3日後の様子がこの図です.このように粒が散らばったのは,ブラウン運動によるものです.」などと話すでしょう.ただし,最後のブラウン運動は,教師が話の中で食塩の粒が均一になる理由を述べるときに出したもので,学習の内容ではありません.ただし,この児童の発言の中でポイントは,「水50mL」という発話です.学校の教員の方ならば,水という発話を付け加えて回答できますが,そうでない方は,何の50mLなのかに迷うこともあります.この児童が50mLと書いたのは,何も間違いではなく水が溶媒であることは,自分の中では了解済みの事なのです.そのことを共有している教員は,何の問題もなく「水50mL」と付け足して読むことができるのです.つまり,この授業を指導した教員ならば,敢えて児童に指摘しなくても,その児童が水を溶媒と理解していることが分かるのです.つまり,教員は児童のスキーマを推測して,たぶんこの児童ならばこう読むであろうと考えることができるということです.それは,同一のエピソードを共有しているからであり,教員として児童のスキーマを推測できるからです.教員のなかには,このケースで言えば,「水という言語を付け足しなさい」と指導したがる人がいます.そんな人は,何の目的で記憶再生マップを描いているかを考えればいいと思います.児童が自分自身の為に描いているのであって,評価してもらうために描いているのではないということです.教員は,勝手に評価に使えばいいことです.まさに,記憶再生マップは,児童個別のツールなのです.
 今回はここまでにします.次回は,記憶再生マップのノード数と児童の概念化の度合いの相関について書きたいと思います.

 

手がかり再生とエピソード記憶について

 またまた前回の書き込みから時間が経ってしまいました.この間,学会の年会資料の作成を行っておりました.まだまだ時間がかかりそうなので,一旦こちらの記事を書きます.

 今回の記事は,手がかり再生における再生内容(エピソード記憶)の話です.何らかの手がかりを基に記憶想起することを手がかり再生と言います.例えば,「昨日の授業では,どのようなことを学びましたか?」と,児童に問いかけた場合を考えてみましょう.児童は,昨日学習した教科について考えますが,6つも授業があったのでどの教科か分かりません.ついには,「先生,何の時間のことですか?」と発言する児童が出てきます.そこで,「算数の授業です.」と発話すると記憶想起が活性化してきます.この算数という言葉が,記憶想起を行うエピソード記憶の内容を明らかにしてくれます.さらに,授業でまとめを板書した辺りを指し示すと,さらに想起する記憶が焦点化されます.

さて,このような手がかり再生の仕組みを利用した記憶再生マップですが,詳しく調べてみると次のようなことが授業の実践で分かってきました.

 まず事前に,水50mLに食塩が何g溶けるかの実験を行っていたことを理解して下さい.その場合,それぞれ5gずつ食塩を溶かす実験を複数回行いました.

結果:1回目5g溶けた,2回目5g溶けた,3回目5g溶けた,4回目5g溶け残った.

 この時児童に描かせた記憶再生マップの中心ノードと一つの第1ノードは,次のような関係でした.

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記憶再生マップの初期値

中心ノード(=ものの溶け方)-第1ノード(=溶ける量)

 赤線で囲った2つのノードのリンクを児童が見たとき,文脈を読み取ります.つまり,「ものの溶け方の授業で,溶ける量の実験を行ったなぁ」と感じた児童は,この文脈が手がかりとなり,経験した記憶を想起する事になります.一見するとなぞかけのようなノード内のトピックのつながりですが,児童が文脈に気づいた時の喜ぶ顔はいつ見ても気持ちの良いものです.ですから,明らかに分かりやすい言語ではなく,少しだけ考える時間を与えられるような言語の方が,達成感を味わうことができて児童には喜ばれます.

 この文脈について考えると,溶ける量とは何かということで記憶痕跡にある溶かした経験やその量に留意した経験が検索されるのです.そして,食塩を5gずつ溶かしていったことや,その実験を4回行い4回目は溶けきれなかったという経験を呼び起こすことになります.ですから,第1ノードのトピックが児童の経験にある具体的な経験内容を狙って設定された場合は,次の第2ノードからはエピソード記憶の比率が圧倒的に高くなります.実際の実践では半数以上の児童がエピソード記憶を想起していることが確認されています.

 今回はここまでにします.お読みいただきありがとうございました.

教師の発話の留意点③

 今回で教師の発話に関する話題は終了です.

 論文からの引用は,「児童が概念形成できない言葉の心象が,その言語と関連したスキーマに含まれる別の言語の追加発話で,呼び起こされることを確認した」というものです.

 論文で挙げた具体例は児童に対して教師が,釣鐘(つりがね)という言語を発話すると児童が釣鐘の形を想起するはずであると考えていたことが始まりです.

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釣鐘のイメージ

 しかし実際には,教師が「釣鐘の形」と発話したにも関わらず,多くの児童が釣り針の絵を描いたのでした.下の絵は,この授業で実際に児童が描いたものです.

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児童が描いた釣り針の絵

 この授業は,鐘状火山の形がどのような形かという教師の発話からスタートしており,隣県長崎の雲仙普賢岳の溶岩ドームが,児童に伝えたい鐘状火山のイメージでした.つまり文脈としては,火山の形がどのようなものであるかという事であったにも関わらず,児童は釣り針をイメージするという結果になったのです.

 このような一見いい加減とも思われる児童の想起は,よく見うけられますが,児童はいたって真面目に考えているのです.ですから,「火山の形が釣り針の形じゃぁ,変でしょう?」と問いかけて初めて「それもそうだ」と納得するのです.

 このような誤概念に対しては,ここまで来たら答え一発で鐘状火山のイメージ図を板書すれば解決するのですが,児童の大半が釣鐘を見たエピソード記憶を保持しているという確信がありましたので,もう少し言葉で誤概念を修正してみようと考えたのでした.

 その確信とは,この小学校のすぐそばに龍泉寺というお寺がありまして,スケッチでこのお寺に行ったり,夏祭りでは花火大会があったりというように児童の生活に密着していたからです.しかしながら,児童は釣鐘を見てはいましたが,それが何という名前で呼ばれるかは教えてもらっていなかったのです.これが実際の釣鐘です. 

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龍泉寺の梵鐘

 

 ここまでの文脈で,児童は「つりがね」なるものを想起しようと努めたのです.しかし,児童は釣鐘という言語を概念化していなかったという状況でした.いかに概念化が重要かが分かります.

 概念化する事のよさは意味記憶として保管されますので,Tulving(1983年)によれば,それ以降の記憶想起は自動的になされるようになり色々と思考するときに便利です.この場合の自動的とは,意識しなくても瞬時に想起できるという事です.

 授業では,釣鐘の概念を持たない児童たちに対して,この後,佐伯胖先生の擬人的認識論で紹介された小人の派遣を行いました.つまり,児童自身の記憶想起に対して,ヒントを出したことになります.その言葉が「お寺の」という言語で,記憶想起の場所を限定し,自分自身の分身をお寺に派遣して,「つりがね」の言語の意味として相応しいエピソード記憶(梵鐘のイメージ)を抽出させたのです.

 つまり,児童を指導する際に,児童が理解できない言語を概念化させたいときは,その言語そのもののイメージやその言語に関わるイメージと同じスキーマ(脳内のデータベース)に含まれる言語を発話して,記憶想起の焦点化を図れば,児童の思考に目的のイメージが呼び起こされるという事になります.論文の事例では,「お寺の」という言語と「釣鐘」という言語は,梵鐘のイメージとともに連関した,つまり概念化したという事になります.

 今回はここまでです.お読みいただきありがとうございました.

 

教師の発話の留意点②

 今回も発話する上での留意点について紹介します. 

 その部分を論文から引用すると,「大半の児童の記憶痕跡にある指導内容に関連した心象を表す言語は,児童の誤概念を修正できることが明らかになった」ということです.

 小学校の授業では,児童の持っている言語の概念は低学年になればなる程少ないので,発話するときには注意が必要です.これは,かなりの経験を積まないと発話の内容が伝わらないということです.このことが小学校での指導の難しさを表しています.指導内容は初歩的ですが,学習者が言語の概念を十分に持ち合わせていませんので,学習指導という視点で言えば指導が非常に困難であると言わざるを得ません.従って,教師の不注意な発話によっては,児童が誤概念を持つ可能性が高いと言えます.

 発話する教師本人にこの事の自覚がないと,教師が発話する度に置いてけぼりをくらう児童が出現します.最近,授業に集中できない児童を多く見受けますが,教師の発言による誤概念が形成されたことによるものも少なくないと言えます.このようなことが,一般的に低学年の担任として経験豊富な教師が起用される理由のひとつです.

 さて,低学年に限らずに,教師の発話によって児童が誤概念を形成したとき,教師は修正のための発話を行う必要があります.本来ならば予め授業を予測し,どのように授業を進めて,どのように発話するかを考えておくべきでしょう.

 もし,誤概念が発生したら直後の発話で修正を行う必要があります.その時,論文では「富士山の形」と発話したように,誰もが同様のイメージを描くことのできる言語を発話する必要があります.日本に住んでいる人ならば,富士山の形は,幾度となく様々なメディアで見たことがあるはずです.つまり認知度の問題です.

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富士市フリー写真素材より

 

 例えば,教材に「オレンジ色」という言語が出てきたとしましょう.児童の中には,この言語によって色のイメージを想起できない児童がいると考えられます.すると「オレンジは食べたことありますか」と発話するよりも,「人参の色よ」と発話したほうがすんなり行くはずです.どう考えても,児童にとって「オレンジ」と「人参」では人参の方が認知度は高いと考えられるからです.

 我々教師は,様々な言語を想起するとき,どのような指導の場面で利用しようかなどを常日頃から考えておく必要がありそうですね.

 今回はここまでです.お読みいただきありがとうございました.

教師の発話の留意点①

 新年度になって異動しました.新しい学校は,武雄市立北方小学校で,またまた理科専科ということで理科の指導を行います.ありがたいことです(^^;)

 さて,前回の書き込みから約1ヶ月になろうとしていますが,肝心の論文で示した教師の発話について知っておいたほうがよい知見があります.今回はこのことについて紹介します.

 まずはじめは,『教師は児童・生徒が持っているであろうと考えられるスキーマを考慮した発話を行うことで,児童の概念形成や誤概念の修正に一定の効果を確認した』,ということです.

 どういうことかと言えば,過去に教授した内容や与えた知識を児童らが参照できるような発話を行うと,概念形成に有利だと言うことになります.当たり前と言えばそうですが,このことを意識するかしないかでは大きな違いがあります.

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児童・生徒のスキーマを考えて発話する.

 具体例で見ていきましょう.

 前の時間に学習した内容を想起させるとき,「前回の授業で何を学びましたか」と質問するのはどうでしょうか.実は,これはNGです.NGというよりも,児童に対してはほとんど功を奏しません.

 それよりも,例えば次のように発話すると,授業が盛り上がり想起する児童が一気に増えます.それは,「前回の授業で(ここまでは一緒です),このあたりに何かを書きましたよね」と言って,前回の授業のまとめを書いた黒板の領域辺りを手で示すのです.まとめを書いた領域の形に沿って手を動かすと効果的です.そのときに,まとめを行うときに起こったエピソード(例えば,児童の誰かの発言をもとにまとめたなど)も紹介すると,児童は想起できます.つまり,そのときのエピソード記憶に関係した言語を発話するようにすればいいのです.

 例①「前回の授業では,〇〇の考え方に近い方法で問題を解きましたね」←〇〇が想起するための手がかり.

 例②「この形を見ると何か思い出しますね」←前回に使用したある特徴的な形をジェスチャー示したり,板書したりする.

 例③「〇〇さんの方法で解けたよね」←〇〇がチャンクとなりますので,前回の授業では,〇〇さん方式などでまとめておけば,想起が楽に行なえます.そのためには,授業の折に,後で使えるエピソードを仕掛けておくこともありですね.

 今回はここまでです.お読みいただきありがとうございました.